医学界新聞

寄稿

2012.07.16

【寄稿】

オランダのコミュニティケアの担い手たち(前編)
在宅ケアのルネサンス――Buurtzorg

堀田聰子(労働政策研究・研修機構 人材育成部門研究員)


 オランダは,1968年に世界で初めて長期ケア保障について普遍的な強制加入の社会保険制度(特別医療費保険)を導入した。プライマリ・ケアを重視し,保険者機能の強化と管理競争の導入により,効率的な短期医療保険制度運営を行っていることでも知られる。Community-based care(地域を基盤としたケア)とintegrated care(統合ケア) という2つの独立したコンセプトを統合させて組み込もうという議論が世界的に活発化するなか,オランダは,実際に両者のコンセプトを含んだシステム構築を試みた数少ない国とされる。

 本稿では,オランダのコミュニティケアの担い手として注目を集める2つの組織における取り組みを前・後編に分けて紹介する。今回は,在宅ケア組織,Buurtzorg Nederland財団(Buurtzorgはオランダ語で「コミュニティケア」の意)を取り上げる。

よりよいケア,よりよい仕事をより安く実現して急成長

 地域看護師が2006年に起業し,翌年1月に1チーム4人で始まったBuurtzorgは,その後急速に拡大。2012年4月現在,九州ほどの広さのオランダ全土で約450チーム,看護師・介護士(以下,ナース)約5000人が活躍している。管理部門はわずか約30人,間接費は8%と他の在宅ケア組織の平均25%を大きく下回る。利用者は約5万人,2012年の売上高は約1.8億ユーロを見込む。クライアント当たりのコストは他の在宅ケア組織の約半分,全国の在宅ケア組織のなかで利用者満足度は第1位,従業員満足度も高く最優秀雇用者賞を受賞。現在,オランダのすべての産業を通じて最も成長している事業者といわれる。

 Buurtzorgは創業間もないころから注目を集めており,政府文書にも「ケアの量でなく成果を重視し,よりよいケアをより安く提供するBuurtzorgモデルのさらなる推進」が盛り込まれるなど,最近のオランダにおける介護政策に大きな影響を与えている。さらに,統合ケア,(間接コストの削減と質の改善につながる)専門職裁量を重視したチームといった観点から国際的な関心も集めており,昨年はスウェーデンに進出。現在も要請に応じて各国での展開を計画中である。

90年代の合併・大規模化と高まる利用者・ナースの不満

 1980年代までのオランダは,人口3000人ごとに地域看護師が1人配置され,全国組織のサポートを受けながら小規模でローカルなチームにおいてサービスを提供していた。地域看護師は,医療のゲートキーパー機能を果たす家庭医,ソーシャルワーカー,介護士,福祉団体,自治体保健師らと緊密に連携し,予防,訪問看護・身体介護,小児ケアを担っていた。

 しかし,1987年に市場志向のラディカルな改革案が出されると,90年代以降状況は一変。地域看護組織とホームケア組織が統合され(現在オランダでは地域看護・ホームケア・助産が「在宅ケア」として1つのドメインになっている),さらに在宅ケアとナーシングホーム,病院,福祉団体等が合併・大規模化を重ねた。

 地域看護師が中心となる地域密着のコミュニティケアは姿を潜め,「できるだけ多くのケアを教育レベルの低いワーカーに提供させれば儲かる」という誤ったインセンティブに基づく,ビジネスベースのケア提供が優勢となる。在宅ケア組織の多くは,組織再編等に伴う間接コスト増大によって財政難に陥った。クライアントは,細切れで継続性なく提供されるケアへの不満を,ナースは,組織のヒエラルキーに飲み込まれ利用者に向き合えず自律性とプロフェッショナリズムを欠く仕事への不満を,それぞれ高めた。

分業を廃し,地域看護師が全プロセスに責任を持つ

 そして,「専門性の高いナースによる自律型チームが,あらゆるタイプの利用者に対するトータルケアを提供する」というBuurtzorgモデルが産声をあげる。

 Buurtzorgのナースは,6割以上が学士レベル以上の地域看護師(他の在宅ケア組織では看護師は少数,介護士が中心)。利用者に対する最善の「解決策」提供に向け,(1)ニーズアセスメント・ケアプラン作成,(2)インフォーマルネットワークのマッピングと活性化,(3)専門職ネットワークのマッピング(家庭医・パラメディカル・福祉・病院等)と連携・調整,(4)QOL向上に向けたケア提供(看護・介護・ガイダンス,家事援助は関連組織Buurtdienstenとの連携も),(5)共感的・社会関係支援の提供,(6)セルフケアの支援,を実施する。

 各利用者について,窓口となる「パーソナルカウンセラー」役を決めているものの,ケースマネジメントとケア・サポート提供の分業はしない。ケア・サポートについても細切れの機能別分業を廃し,地域看護師がジェネラリストとして全プロセスに責任を持ち,包括的な支援を展開する。なお,...

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