医学界新聞

寄稿

2012.07.16

【寄稿】

心臓救急最前線
心停止患者に対する脳保護,すべては社会復帰のために

伊藤賀敏(大阪府済生会千里病院心臓血管センター長/大阪大学循環器内科学特任研究員)


時代は,心肺蘇生から心肺"脳"蘇生へ

 AHAのACLSプロバイダーマニュアルに記載されている通り,ACLSの最大の目標は"脳蘇生"であり,脳蘇生の第一歩は"自己心拍再開"である。そこで,わが国でも資格を持った救急救命士に2004年7月から気管挿管,06年4月からアドレナリン静脈投与を認めるようになった。しかし,救急現場で心拍再開せず,CPR(心肺蘇生)を継続しながら搬送された患者のうち社会復帰したのは1%未満であり,偶発性低体温などの特殊な状況でなければ,非外傷性院外心停止はERで従来のACLSを継続しても脳蘇生は極めて困難と報告されている(Lancet. 2007[PMID:17368153])。理由の1つに,急性心筋梗塞で閉塞した冠動脈を再開通しない限り,自己心拍再開を得られないことがあるだろう。

 そこでわれわれは発想を変え,病院到着後,迅速に経皮的心肺補助装置(PCPS)を導入。まず,"脳"を保護(脳蘇生を優先)した上で,有効なPCIを行い,心拍再開させることにした[胸骨圧迫では自己心拍の30%程度の拍出しかできないが,PCPSを用いたE-CPR(体外循環式心肺蘇生)では3-4L/分の拍出が可能,図1]。この方法を実施することで,当院を含めたわが国の三次救命救急センターでは,来院時心停止患者の10-20%が社会復帰に至っている。

図1 来院時心停止症例に迅速なE-CPRを実施
当院では,来院からPCPS駆動(E-CPR実施)まで平均15分で実施している(最短6分,多くは10-15分)。E-CPR導入後,PCIで冠動脈を再開通しつつ,脳低温療法を実施する。ただし,これらの蘇生後救急ケアは極めて高額である。

どの症例に,高額なPCAIsを導入するか?

 AHA policy statement 2010でも,E-CPRを用いたACLSなどの脳保護を重視した蘇生後救急ケア(Post Cardiac Arrest Interventions;PCAIs)は極めて大切とされる一方,高額かつ限られたこの治療をどの症例に導入すべきかを考えることも重要とされている。

 また,心停止患者と遭遇したときの現場の医師には,次のようなジレンマがある。
・既に全脳虚血に陥っているかもしれないこの心停止患者に,どこまで高額かつ限られた医療資源を導入すべきか?
・しかし悩むことで,E-CPRの導入が遅れると,さらに脳の状況が悪化してしまう!
(当院では心停止後60分前後の患者でも社会復帰するケースを時折経験する。心停止時間は重要な因子ではあるが,時

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