医学書院「JIM セミナー」のもようから
2012.07.09
診断を“構造”から問い直す
医学書院「JIMセミナー」のもようから
左から岩田健太郎氏,名郷直樹氏 |
その診断は患者のためになるのか
まず名郷氏が,構造主義科学論からみた診断について語った。「ある100人を,胃癌を持つ人と持たない人に分けることは可能か」と参加者に問いかけ,最も現象を正確にとらえるとされる生検でさえ偽陰性・偽陽性の可能性は排除できないことから,胃癌という現象と診断名にはギャップがあると説明。胃癌の実体は「コトバ」だけでは描けないが,現在の診断は「コトバ」が独り歩きしているのではないかと問題提起した。氏は,「実体」「現象」「コトバ」「私」から成る構造主義医療の枠組み(図)を示し,コトバではなく実体・現象に立ち戻りながら診断を行うことが重要との考えを述べた。
図 構造主義医療の枠組み |
続いて岩田氏が登壇。早期発見・早期治療が可能になった現在の医療では,疾患という現象があいまいになり,疾患を医学のコトバに落とし込むことが難しくなったという。例えば,インフルエンザではキット陽性というだけで診断が行われることもあるが,「ウイルスの存在≠インフルエンザ」と指摘。現象を適切にコードする能力がある医師こそがプロフェッショナルであると強調した。また氏は,神経梅毒患者を治療し神経症状が治まったところ性格が激変し,家族から「先生,どうしてくれるんですか」と告げられたエピソードを紹介。ただ検査結果から治療を決めるのではなく,日ごろから「何のための診断であり,治療なのか」と遠くから俯瞰することにより,診療の幅が広がると締めくくった。
診断における疑問を解決
後半の「クロストーク 差異と同一性の診断学」では,両氏への参加者からの質問(下記参照)で議論が白熱。参加者からは「現象のとらえ方,実体とは何かがわかった気がする」「診断に関する医師個人の主体性をどう涵養すればよいか,興味が深まった」などの声が聞かれた。普段の医学・医療にはない視点から診断学に触れることで,多くの参加者にとって有意義な時間となったようだ。
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