研修医リスクマネジメント心得(田中まゆみ)
インタビュー
2012.07.09
【interview】
研修医リスクマネジメント心得
医療トラブルのリスクから,自分の身を守るために
田中まゆみ氏(田附興風会医学研究所北野病院総合内科部長)に聞く
どれだけ熱意を持っていても,慎重に行動しているつもりでも,医師であれば誰もが当事者になり得るのが医療トラブルです。研修医とて例外ではなく,むしろ医師として未熟であるがゆえに,トラブル予防と対処により精通しておくべきとも考えられます。本紙では,このたび『研修医のためのリスクマネジメントの鉄則――日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?』を上梓した田中まゆみ氏に,日本における医療トラブルをめぐる現状と,そのなかで研修医が自分の身を守っていく術について伺いました。
研修医も責任を問われ得る日本の医療現場
――先生が研修医だったころ「リスクマネジメント」についてはどのように考えておられたのですか。
田中 "患者さんに医師が訴えられる"という心配をしたこと自体,あまりありませんでしたね。新米医師であっても身分を明かす必要はなく,患者さんはすべてを「お任せ」するのが普通。今にして思えば,医療倫理的には非常に問題のある慣行がまかり通っていたと思います。
――それが後々,医療と社会の関係におけるさまざまな問題につながっていくわけですか。
田中 そうですね。それまで長きにわたった医療者側の秘密主義や価値観の押し付けがたたって,医療の受け手側はすっかり不信を抱くようになっていました。医療のリスクや不確実性がなかなか理解されない日本の現状は,そうした不信感が根底にあるためではないかと考えています。
――米国でも長く臨床に従事されましたが,医療のリスクに関して,米国ではどう考えられているのですか。
田中 当初私には,米国はとにかく訴訟社会で,医療訴訟も頻発しているイメージがありました。リスク回避のために,まず医療倫理と医事法を学んでから研修に入ろうと,ボストン大の公衆衛生大学院で学ぶことにしたのです。
するとそこで,米国では医療事故は専ら民事で扱われ,刑事罰が科されるのは,さまざまな要件が重なった極めて例外的な場合しかないことを知り,たいへん驚きました。実は先進国で,日本のようにまず警察に届け出る国のほうが珍しい1)。ほとんどの国では,医療事故にいきなり警察が介入することはないのです。
――研修医による医療行為は,よりリスクが高くなると思われますが,どのような対応がとられているのでしょう。
田中 確かに海外の統計では,研修医全体の45%が最低一度は過誤を経験し,その31%が患者の死につながったとあり,研修医が医療事故を起こす確率は,非常に高いことがわかっています2)。
例えば米国では,初期研修医は研修病院内でのみ有効な仮免許を所持している状態です。指導医の監督下でなければ医療行為を行えない反面,トラブルがあっても病院や指導医が責任を持つ。批判の矢面に立ったり,訴訟の対象になることはまずないのです。
一方日本では,研修医と言えども一人前の医師として免許を交付され,法的に保護されていないばかりか,厳しく責任を問われた例さえある。「上級医がいるから大丈夫」「自分が訴えられるわけがない」という甘い気持ちでいると,痛い目を見る可能性は大いにあります。
避けられないリスクにどう対応するか
――では具体的に,日本の研修医は,リスクについてどんな意識を持って臨めばよいのでしょうか。
田中 まず「医療事故は一定の確率で起こる」と自覚することです。「医療事故」の定義はいろいろありますが,最も広義のものを言えば,過失の有無を問わず"予定通りにいかなかったこと"はすべて医療事故なのです3)。
ただ,誰も責めを負うべきではない事例でも,当事者となった患者さんやご家族にとっては,当該の医療行為によってもたらされた結果がすべてです。誰かを責めずにはいられないこともあるでしょうし,その矛先はほとんどの場合,最も身近な医療関係者に向かいます。普段...
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