医学界新聞

2012.06.18

第47回日本理学療法学術大会


 第47回日本理学療法学術大会が5月25-27日,八木範彦大会長(甲南女子大)のもと,「プロフェッション! 新たなるステージへ」をテーマに,神戸ポートピアホテル(神戸市)ほかにて開催された。「地域包括ケアシステム」構想や「社会保障と税の一体改革」等が進められるなかで,理学療法士に求められる役割はますます大きくなっている。参加者数が6000人を超え,また一般演題も1509演題に上った本大会では,理学療法士の知識・技術を臨床現場あるいは地域でいかに発揮するか,さまざまな演題を通して議論された。本紙では,今後の教育の在り方をテーマにしたシンポジウムを紹介する。


八木範彦大会長
 2000年以降の理学療法士養成校の急増(2011年7月現在,募集校238校,定員1万3175人)に伴い,2011年度(第47回)理学療法士国家試験において,合格者総数は10万人に達した。近年社会的需要に応えて増員を続けてきた理学療法士だが,実際には,2010年度改定では改善されたものの診療報酬の低下や雇用条件の悪化を生み出しているという。卒前教育においても,学生の学力低下や実習施設の確保が困難などの問題が顕在化。さらに,理学療法士がかかわる領域の拡大,各領域の専門性の深化によって,修得しなければならない知識・技術が増え,生涯教育プログラムの整備も喫緊の課題となっている。

 シンポジウム「理学療法士教育のあるべき未来像――本気で討論 教育を変えれば未来が変わる 理学療法士教育の改革を行うための道標」(司会=千里リハビリテーション病院・吉尾雅春氏,信原病院・立花孝氏)では,リアルタイムアンケートシステムを採用し,参加者に討論のテーマに即した質問を投げかけ随時回答してもらう形で,双方向型の討議が進められた。

学生の質向上をめざし卒前・卒後教育の連携強化を

 シンポジウムでまず取り上げられたのは,定員増に伴う学生の質の低下。参加者へのアンケートにおいても,学力不足を認識しながらも経営的な側面から入学を許可せざるを得ない学生の存在が明らかとなった。医療人としての資質や社会性が十分に育っていない学生やコミュニケーション力の低い学生への対応について,シンポジストの網本和氏(首都大学東京)は,学生の資質に合わせた実習先の選定などの例を提示。また,斉藤秀之氏(筑波記念病院)は学生の実習や新人理学療法士を受け入れる立場から,スーパーバイザーの精神的負担を軽減するためにも個々人が抱える問題について事前に申し送りを行うなど,卒前・卒後の連携の必要性を説いた。一方,居村茂幸氏(茨城県立医療大)は教員の質の低下についても言及し,質を担保する仕組みづくりが重要と述べた。

 こうしたなか,日本理学療法士協会は2012年度重点事業の1つに「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」の見直しを掲げ,指定規則等特別委員会を中心に新たな指定規則の在り方について検討を行っている。参加者へのアンケートでは,優先すべき項目として,基礎医学教育の充実,理学療法士養成校の大学化,実習施設の水準の厳格化などが上位に挙がった。また,養成校の質を担保するための第三者評価機関の設置も今後の検討課題として提示された。

効果的な解剖学実習の在り方を議論

 臨地実習をめぐっては,学生数の増加だけでなく,患者の権利意識の拡大などによっても学生が患者にじかにふれる機会が減少しているのが現状だ。こうした課題の解決には卒前教育の見直しのみでは対応できないことから,卒後臨床研修体制の整備,専門・認定理学療法士制度のさらなる充実など,外部からの評価に耐え得る系統的な生涯教育プログラムの枠組みづくりが急務との確認がなされた。

 また基礎医学教育の充実に関しては,身体の構造を深く理解し正確なクリニカルリーズニングを行えるようになるための,よりよい解剖学実習の在り方が議論された。参加者へのアンケートでは,剖出を伴う系統的な解剖学実習が必要との回答が過半数を超えたものの,実際には医学部での見学にとどまっている養成校が多い。この背景として,死体解剖資格を有し,かつ理学療法士の資格を持つ教員の不足が指摘され,理学療法の視点から解剖学を教授することのできる教員の養成や,解剖学実習を実施する際のルール作りの必要性などが示唆された。シンポジストからは,解剖学実習が生命に向き合う職業としての自覚を学生に促す機会となっていることが指摘され,現状では卒前教育の改善を急ぐのではなく,卒後研修における解剖学実習を充実させてはどうかとの提案もなされた。

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