橘幸子氏に聞く
寄稿
2012.05.28
【interview】
橘幸子氏(福井大病院副院長/看護部長)に聞く
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――最初は消化器外科病棟で始まったPNSを,2011年4月に全病棟で導入した経緯から教えてください。
橘 PNS導入後の消化器外科病棟でまず驚いたのが,新人ナースが人工呼吸器患者をしっかりケアできるようになったことです。複数でひとりの患者を担当するPNSの教育面や医療安全面での効果が大きいと考えました。それに,看護部長の立場でみると,超過勤務の減少で残業代が抑制されることも魅力的です。
当院は,2014年9月には大部分の病棟が新病棟に移転し,病棟配置の見直しによって混合病棟が増える予定です。そのときには他科の看護もある程度できる必要があるので,それまでにはPNSを定着させ,教育体制と医療安全の充実を図りたいと考えています。
――定着にある程度の時間がかかるのは見越した上なのですね。
橘 はい。消化器外科病棟でも,導入当初はスタッフからの不満がかなり出ました。「ついていけない」と不満をもらす人には,「もうちょっと頑張りなさい」となだめていたくらいです。でも半年後には,同じ人が「こんないいシステムはない」と言い出して,意見が180度変わってしまった(笑)。慣れてくると,効果がどんどん出てきたのですね。
――PNSのメリットのうち,何が最も重要だと思われますか。
橘 身近に相談できる人がいるということですね。「先輩には頼みにくい」という新人ナースの話はよくありますが,新人に限らず迷うことはたくさんありますよね。でも,看護はどうしても「自己完結型」の意識が強いのです。ベッドサイドで「何か変」と思ったときに気軽に相談できる人がいれば,患者さんの異常を早期発見することにもつながるはずです。また,聞けない不安で悶々として,うつ状態や離職につながることも少なくなると思っています。
――消化器外科病棟を見学して,会話が多いのが印象的でした。
橘 PNS導入前は全然違ったのですよ。今は常に話し合っていて,病棟が活性化していますよね。シフトの都合でパートナー以外とペアを組むときは,苦手な人とペアになることもあります。でも仕事を進める上では,「苦手だから話さない」というわけにもいかない。すると勤務が終わるころには,苦手意識が消えて会話を交わすようになる。これは意外な効果でした(笑)。
――消化器外科病棟では当初,スタッフから不満の声があったとのことですが,全病棟に導入後の反応はいかがでしょうか。
橘 「パートナーにみられるのが嫌」という理由で辞めた看護師が実際にいます。看護の可視化という方針と合わないなら,やむを得ないのかもしれません。
一方,師長に関して言えば,先日の師長会では「やってみたら案外よかった」という反応がありました。ただ,全病棟が消化器外科病棟のようにうまくいくとは限りません。それまで培ってきたやり方を180度変えるわけですから,病棟全体で意識改革を進める必要があります。
――師長の在り方も問われますね。
橘 そう思います。ですから,当院のPNS見学希望者には「師長クラスの人を必ず連れてきてください」と伝えています。いくらスタッフがやりたいと思っても,病棟の要である師長が前向きでなければうまくいきません。成功の要件は,意識改革ができるかどうか。やってみて「自分たちの病棟に合わない」と思ったなら元に戻したっていいのです。イノベーションとチャレンジ精神が大切ですね。
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