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医学界新聞

寄稿

2012.05.14

【特集】

他職種より愛を込めて
院内を駆け回るための18の"Tips"


 新年度を迎えて約1か月。新研修医の皆さんは,院内を忙しく動き回って研修に取り組んでいることと思います。研修を行う上では,ホウレンソウ(報告・連絡・相談)や指示出し,書類の提出など最低限のルールをわきまえていないと,「あの研修医は使えない」なんて陰で噂されることも……。

 そこで今回は,研修医と日々接している病院内外の各部門の専門家6人に,院内で愛される研修医になるための"Tips(ヒント)"を3つずつ伝授してもらいました。

杉山良子
大塚喜人
政田幹夫
吉岡宏介
脇田紀子
大松尚子


杉山良子(日本赤十字社医療安全課長/看護師)


Tips 1 安全室は,過去に学ぶ事故事例のプール!

 医療事故というと,かかわりたくないとか,自分は当事者になるまいと思うものです。誰しもそう思っています。しかし,人間はどうも同じことを繰り返す存在のようです。それは,人間には生まれながらの特性があるからだと言われています。その諸特性と人間を取り巻く広義の環境により決定された行動のうち,ある期待された範囲から逸脱したものがヒューマンエラーであるというのです。

 医療の中で意図せず発生してしまったヒューマンエラーや事故事例を集めてプールしているのが院内の安全室です。しかも,その職場において起こりやすいエラーの事実を把握しています。ですから,安全室に一歩足を踏み入れて,「この病院ではどんなエラーや事故が起こっていますか?」と安全室に陣取っている医療安全管理者に聞いてみることを,お勧めします。

 一連の医療行為の中の,システムによって規定された範囲の脆弱な部分でエラーや事故は起こっているので,自分自身が注意すべきポイントが見いだせると思います。

Tips 2 周囲の医療スタッフに指摘してもらえる存在に!

 エラートレラントな状態をつくることが重要です。研修医のうちはついつい処置にのめり込み,患者の状態が見えなくなりがちです。研修当初は,一点集中型になるのもやむを得えませんが,そこで自分が知覚できない情報を周囲のスタッフから教えてもらい,その指摘を素直に受け入れることのできる存在になることが必要です。看護師やコメディカルのスタッフは,大方やさしく助けてくれるはずです。

Tips 3 リスクに対して常に思考することでリスク感性を磨く!

 医療には,今その場では目に見えていない潜在リスクが必ず存在します。そうした潜在リスクを洞察する力を,日ごろから養っていくことが重要です。こうした力をつけておくことで,患者状態の変化や取り扱っている医療機器の有害性(操作ミスや管理不足等),人間の特性に気付き,エラーや事故の防止に役立ちます。いわゆる事故の未然防止を図ることが大切ですが,こうした気付きへの感受性は,「これから,こんなリスクが発生するかもしれない」と思考することなくしては,磨くことはできません。

◆ひと言メッセージ

 「Tips1」は過去を活かすこと,「Tips2」は今を知ること,「Tips3」は将来を予測することです。自分が経験できることは限られています。個々の患者の前に立つときは,いつも未経験状態です。患者の安全を最優先で守ろうとするならば,3つのTipsを少しだけ思い起こしてほしいと願っています。リスク回避のプロセスを実践してこそ,安全性に近づき,事故防止となるからです。


政田幹夫(福井大学医学部附属病院薬剤部長/薬剤師)


Tips 1 "MR based medicine"から脱却し,総合判断能力を

 製薬企業のMRは,さまざまな情報を届けてくれる貴重な存在です。特に優秀な方の場合には,最新のエビデンスをわかりやすく紹介した資材を持ち合わせており知識の整理に役立つかもしれません。ただし,製品に関連した情報では少なからず偏った内容になっていることは否めないため,情報はそのまま鵜呑みにするのではなく,客観性を持って批判的に吟味した上で活用しましょう。また,エビデンスレベルの高い大規模臨床試験の信頼性は高いのですが,集団から得られる平均的な結論であり,目の前の患者さんに適用した際に,その臨床試験通りの結果が期待できるとは限りません。個々の医療に使用可能かどうかは,医師の判断能力にかかっています。ぜひ,総合判断能力を培って素晴らしい医師になってください。

Tips 2 薬のエンドユーザーは患者さん

 最近の医療は患者が中心です。とは言っても,何でも患者さんの言いなりに処方すれば良い医師になれるというものではありません。自分の両親や子どもなど,肉親に処方するつもりで考えて判断するといいでしょう。病気の治療のために薬を処方するのは医師ですが,薬物療法を実践し,効果や副作用を直接体験するのは患者さんです。間違っても,「ちょっと使ってみたいから」「手応えを感じておきたいから」などという安易な気持ちで処方しないでください。医療において最も大切な信頼を失います。

Tips 3 毒にするも薬にするも腕次第

 前述の内容とも少し関連するのですが,MRから「とても良い薬が出たので一度使ってみてください」と勧められるままに新薬を使わないでください。新薬として承認されるのだから,確かに良いデータは出ているはずです。ただし,臨床試験という特殊環境下で,吟味された症例に対して慎重に用いた際の結果であり,そのデータが目の前の患者さんにとって良い結果が得られることの根拠にはなりません。特に,新薬の安全性に関しては,限られた情報しか得られていません。市販後に潜在リスクを含め慎重に評価しながら用いなければ,薬のせいで命を失うことさえあります。毒にするのも薬にするのも腕次第なら,上手に使いこなして治療に役立てるのが医者冥利というものでしょう。

◆ひと言メッセージ

 病院を訪れ,診察を受ける人たちは,完治しないまでも今より良くなると信じて治療を受けます。命にかかわるような疾患でも,医師を信じ,たとえほんのわずかでも良くなりたいと願っています。それを受け止め,それに応える心構えで処方してください。


脇田紀子(聖路加国際病院医療情報センター医療情報管理室/診療情報管理士)


Tips 1 めざせ! ベストサマリー賞。退院時サマリーは「簡潔に!」「早く!」

 当院では,量・質ともに優秀な退院時サマリーを作成した研修医を,初期研修修了時に表彰しています。退院時サマリーは,入院中の経過を伝えるための大切な記録です。特に電子カルテでは,「簡潔に」要点をまとめたサマリーが情報共有の要となります。初期研修の間にできるだけ多くの症例を経験して,経過のまとめ方を身につけておくことが必要です。だらだらと記載するのではなく,「全く経過を知らない他者が読んで,3分で理解できるように書く」のが鉄則です。

 昨年度ベストサマリー賞を受賞した研修医は,退院日から平均3.8日で記載していました。患者さんが継続して医療を受けられるよう,次に担当する医療者へ確実に伝えるためにも,「早く」記載する必要があります。期限内に退院時サマリーが作成できない場合は,診療情報管理部門から督促をすることもあります。

 当院の研修医は,2年間で180-360件ほどの退院時サマリーを記載しています。「体力が続く限り,できるだけ多くの症例を経験するこ...

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