第2回日本看護評価学会開催
2012.04.23
看護を評価し,現場に生かす
第2回日本看護評価学会開催
第2回日本看護評価学会が3月6-7日,菅田勝也会長(前東大大学院,現・藍野大)のもと,東京大学鉄門記念講堂ほか(東京都文京区)にて開催された。「評価で研究と実践をつなぐ」をメインテーマとした今回は,看護をどのような尺度でどのように評価し,実践・管理につなげるかが議論された。本紙では,診療報酬改定をテーマとした講演と,看護体制の評価に関するシンポジウムのもようを紹介する。
診療報酬の決定過程にどうかかわるか
菅田勝也会長 |
診療報酬の方向性は,政府が示す基本方針を基に,厚労大臣の諮問機関である社会保障審議会医療保険部会・医療部会が決定する。今回は,政府が2011年6月に提示した「社会保障・税一体改革成案」に沿って議論が行われ,ここで定められた方向性を基に,内閣が改定率を決定。その後,具体的な診療報酬点数の改定案が中央社会保険医療協議会によって作成された。
小池氏は,近年パブリックコメントの募集や公聴会の開催などにより,審議の透明化が進んでいることに言及。また,診療報酬改定結果検証部会の創設や医療経済実態調査の実施などで改定による成果の有無が検証されるようになったことでデータに基づいた建設的な議論が徹底されつつあると述べた。
さらに,看護界の大きな課題とされている「看護技術の評価」の診療報酬算定についても説明。技術評価は関係学会等からの提案書を基に医療技術評価分科会が評価,中医協へ報告し,診療報酬への反映の是非が検討される。その際に重視されるのは,有効性,安全性,普及性(その技術を提供できる看護師はどれほど存在するのか),技術の成熟度(難易度)などであり,それらを基に戦略を立てて提案する必要があると説いた。
氏は,2006年度診療報酬改定における「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」を例に挙げ,費用対効果を示すインパクトの強いエビデンスが不可欠であると強調した。その上で,同じく2006年度診療報酬改定における「医療安全対策加算」にも触れ,この場合には十分なエビデンスは示されなかったものの,"医療安全に取り組まなければいけない"という医療界全体の意識の高まりが,加算決定を後押ししたとし,政策の方向性を押さえて提言していくことの重要性も示唆した。
看護師が生き生きと働ける看護体制の在り方とは
平均在院日数短縮に伴う入院患者の重症化,7対1入院基本料の導入による若年看護師比率の増加など,大きな変化に直面している急性期病院。シンポジウム「今こそ,看護体制の評価を」(司会=東大医科研病院・武村雪絵氏)では,各病棟の看護の環境・状況を分析し,その部署に適した看護体制をいかに整えていくか,議論された。
昭和大,8病院の統括看護部長を務める市川幾恵氏は,看護師が医療職の一員としての役割を果たすためには,個人には自らの臨床実践能力の向上,そして組織には医療現場の実情に即した看護体制の整備,適切な勤務体制の構築が求められていると述べた。同大看護部では,こうした課題を達成するために独自の人材育成システムを構築。各職場,職位の臨床実践能力に応じて業務役割を明確化した「部署別クリニカルラダー」,ラダー別教育プログラム,実践モデルとなる人材を支援するスペシャル・エキスパートなどを,その構成要素として挙げた。
また,今後の課題として氏は「必要人員の算定」と「看護業務の再構築」を提示。後者については薬剤師や管理栄養士などの役割が拡大していると述べ,限られた人材を効果的に活用するためにも看護業務を見直し,多職種との新たな連携体制を構築する必要性を説いた。
「機能別看護の推進,業務の縦割り化,在院日数の短縮などにより,看護師が自分の担当患者しか把握できなくなってしまった」と語ったのは,信州大病院の大曽契子氏。こうした状況では質の高い継続的な看護を実践できないことから,同院看護部は2010年に「総リーダー制」を導入した。"総リーダー"とは,病棟の看護チームを統括し,患者ケアに責任を持って看護実践・業務調整・後輩指導に当たる看護師のこと。ルーティンの業務量を最小限に抑えた総リーダーは,チーム全体の状況を把握しながらスタッフの業務支援やベッドサイドでの教育,他職種との合同カンファレンスなどに当たる。
氏は導入の成果として,情報交換の活発化や看護記録の充実により情報共有が進み,患者の入院から退院調整・支援までをチームでサポートできるようになったことを挙げた。他職種からも,"総リーダー"に窓口が一本化されたことで情報伝達がスムーズになったと好評だという。また,いつでも相談できるリーダーの存在は,スタッフナースが自分の看護に自信を持つ後押しになっていると述べた。
看護師にかかる大きな負担がモチベーションの低下や離職につながっていたという福井大病院が,その打開策として2009年に導入した"パートナーシップ・ナーシングシステム"(PNS)。看護師2人がパートナーを組み,1年を通して委員会活動や病棟内の係の仕事,日々の看護ケアに至るまで共に活動し,対等な立場で相互に補完し合い,その成果と責任を共有するもの,と同院の橘幸子氏はこの看護体制を解説した。PNSではこのパートナーを最小単位とし,力量・経験年数・役割などを踏まえ副看護師長を中心にしたチームに振り分けられ,チーム内で情報を共有しながら業務に当たっている。
PNSの導入当初はペアとの業務の進行に戸惑いを覚える声もあったという。しかし,チームプレーになったことで業務が効率化され,超過勤務時間が大幅に減少。さらに,複数チェック体制によるオカレンスの減少,パートナー同士の看護技術の伝承・伝授による教育効果,患者満足度の向上など,スタッフの精神面にも良い影響をもたらすさまざまな成果がみられたという。氏は,同院の労働環境に大きな変革をもたらしたシステムを"看護師が幸せになるシステム"であると結んだ。
「看護師は,『患者を"把握"したい』とよく言うけれど,患者について,何を把握したいのだろうか?」。参加者らに対してそう疑問を投げかけたのは,病院建築に長年かかわってきた筧淳夫氏(工学院大)。氏は,「患者を把握しやすい病棟」の建築を要望されることが多いことを明かし,これまでの研究結果を踏まえながら,よりよい病棟計画を探った。そのなかで,患者の把握のしやすさは看護師の働く場によって左右されると指摘。看護師にとって「記録をする場所がすべての業務の出発点」となっていることから,例えば記録を行う場をどこに規定するかで,おのずと看護師の居場所や働き方は変わってくるのではないかと提言した。
また,病院建築は計画から完成まで長い年月を要するため,現在の最先端の病院をモデルにするのではなく,将来の医療の姿を多方面から検討し,病棟の建築計画に生かす必要性を強調。例えば,認知症を持つ高齢の入院患者が増加したとき,どのような病棟が望まれるのだろうかと問い,講演を終えた。
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