医学界新聞

2012.04.16

循環器診療の最新知見を世界へ

第76回日本循環器学会開催


 第76回日本循環器学会が3月16-18日,鄭忠和会長(鹿児島大)のもと福岡国際会議場(福岡市)他にて開催された。メインテーマを「愛と情熱――アジアから世界へ」とした今回は,第16回アジア太平洋ドップラー・心エコー図学会やAsian Joint Case-Conferenceも同時開催となり,世界に向け循環器領域のさまざまな研究成果が発信された。

 本紙では,現在最も多く使用される降圧薬であるARBのエビデンスと和温療法の最新知見を紹介した2つのセッションのもようを報告する。


降圧薬ARBに心保護効果のエビデンスはあるのか

鄭忠和会長
 アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は,わが国で現在最も多く処方される降圧薬である。コントロバーシー「ARBの12年を総括する――降圧を超えた心保護効果はあったのか?」(座長=都健康長寿医療センター・桑島巌氏,北海道循環器病院・菊池健次郎氏)では,ARBの心保護効果の科学的な根拠について,4人の演者が議論した。

 Proの立場から登壇した光山勝慶氏(熊本大)は,高血圧・循環器疾患を対象とした多くの臨床試験でARBのエビデンスは得られていると表明。さらに,糖尿病の新規発症の抑制効果も明らかと,ARBの効果を強調した。一方で,患者背景によりARBの有効性が異なることから,投与量や薬剤間における効果の違いを解明することが今後の課題とした。

 引き続きConの立場から伊藤浩氏(岡山大)がARBとACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬を比較した。冠動脈イベントにおいては,メタ解析BPLTTCにてACE阻害薬の効果がARBを上回り,凝固系では,効果が持続するACE阻害薬に対し,ARBの効果は徐々に消失するため,ARBよりもACE阻害薬が有効であると言及。ARBの使用量がACE阻害薬より多い日本の現状を"ガラパゴス"と指摘する一方で,ARBが多く処方される背景として,承認されているACE阻害薬投与量が海外に比べ低用量であることを挙げた。

 久代登志男氏(日大総合健診センター)は,Proの立場からARBの有効性を解説した。氏は,臨床試験から得られたARBにおける心保護効果として,心血管合併症の抑制,アミオダロン単独群を上回るARB併用群の心房細動の予防効果,心不全による入院の減少を紹介。さらに,ACE阻害薬では副作用である咳による服薬中止がARBの3倍以上あることから,患者が服用可能な薬剤でないと意味がないとし,アドヒアランスの面におけるARBの有用性を訴えた。

 最後に桑島氏がConの立場から発言した。ARBでは,ACE阻害薬より心筋梗塞を増やすという報告もあることから,「糖尿病の新規発症を抑制しても,心血管イベントが増えたら意味がない」と主張。またPROBE法を用いた臨床試験の信頼性に疑義を提示した。さらに,Ca拮抗薬はより高血圧の症例で降圧効果が高い一方で,ARBバルサルタンでは降圧効果にばらつきがあり,一部の症例では血圧を過度に下げると指摘。ARBに降圧を超える心保護効果はなくむしろ有害の可能性すらあると結論付けた。

 総合討論では,ARBのエビデンスについて議論が白熱。ARBの降圧を超えた効果の有無についてはさらなるメタ解析が必要とされた一方で,「降圧目標を達成するための投与法をまず考えることが大事」「エンドポイントがプライマリ・セカンダリ・後付けかで有効性の重み付けは全く

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