医学界新聞

2012.03.26

第39回日本集中治療医学会開催


 第39回日本集中治療医学会が,2月28日-3月1日に福家伸夫会長(帝京大ちば総合医療センター)のもと,幕張メッセ(千葉市)にて開催された。「Quality and Safety in Critical Care」をテーマに掲げた今回は,医師,看護師,臨床工学技士など多職種が集まり,集中治療領域の最新の知見について各会場で熱心な議論がなされた。


◆VAPをどのように防ぐか

福家伸夫会長
 気管挿管後,人工呼吸器管理によって発症する人工呼吸器関連肺炎(VAP;Ventilator-Associated Pneumonia)は,集中治療領域で出合う頻度の高い感染症だ。シンポジウム「VAPをなくすための総合戦略」(座長=北里大・相馬一亥氏,杏林大・道又元裕氏)では,各演者が所属施設での取り組みを紹介し,VAP予防の方策について考察した。

 VAPの診断法には下気道検体の定量培養の施行が推奨されているが,コストの高さや手順の煩雑さが伴う。最初に登壇した橋本荘志氏(京府医大)は,直接鏡検による菌量評価,定性培養結果によって,下気道検体の定量培養結果の類推が可能かを検討。調査の結果,直接鏡検・定性培養によって定量培養結果を予測でき,また鏡検所見による経験的抗菌薬治療開始の判断,定性培養による経験的治療の中止・標的治療への移行の判断ができる可能性を示唆した。

 済生会千里病院の波多野麻依氏は,同院のVAPの発生状況と対策について紹介した。同院では標準的な予防を徹底するほか,カフ上吸引付チューブの使用,体位管理,閉鎖式吸引や口腔内吸引などをVAP予防策として実施し,重症外傷や重症循環器疾患症例のVAP発生率を抑制しているという。また,集中治療領域ではVAP診断が困難な症例も多いことから,施設で「VAP疑い例」を設定し,積極的に介入を行う必要性を示した。

 小児患者のVAPの特徴について発言したのは,国立成育医療研究センターの谷昌憲氏。氏らは,同院ICUに入院し,VAPを発症した16歳未満の症例を早期発症例および晩期発症例に分けて比較した。その結果から,小児の晩期発症例には,人工呼吸器装着期間が長く死亡率が高い傾向が見られ,VAP発症自体が転帰不良と関連があると語った。

 VAP発症の一因として,気管チューブカフから漏出するマイクロアスピレーション(微量誤嚥)との関連が考えられている。原山信也氏(産業医大病院)は,内径や素材の異なる複数のチューブを比較。その結果から,カフリークが最小となるチューブ径が異なるなど,それぞれのチューブが固有の性質を有すると指摘。各チューブの特性を理解した上で,CTなどを実施し,患者の気管径に最も適したチューブを選択することがマイクロアスピレーションを抑え,VAP予防になると述べた。

 中村智之氏(藤田保衛大)は,間歇性吸引器を用いた咽頭間歇吸引(IAPS;Intermittent Aspiration of Pharyngeal Secretion)の有効性について説明した。人工呼吸器抜管後に口腔咽頭の貯留物誤嚥が懸念される症例においては,IAPSを実施して良好な気道確保を実現することで,再挿管リスクを回避でき,VAP予防につながると考察した。

 大垣市民病院では2007年度より,ICU,CCUに入院した人工呼吸器管理患者に対して,呼吸器科専従の理学療法士が呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行っている。山口均氏は,同院のVAPの発生数や関連死について,呼吸リハ導入前後を比較したデータを紹介し,急性期呼吸リハがVAP抑制に有用であることを示した。

 日医大千葉北総病院の齋藤伸行氏は,外傷患者において5日以内の早期気管切開(ET;Early Tracheotomy)がVAPを予防するか考察。同院で48時間以上の人口呼吸管理を行った外傷患者について,健康スコア分析に基づいてET群と対照群に分け,比較した。その結果から,VAP発生率や晩期発症例数でET群のほうが有意に低いことが示され,長期人工呼吸器が必要な患者にはETがVAP予防になり得ると結論付けた。

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