医学界新聞

2012.03.19

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《看護ワンテーマBOOK》
がん専任栄養士が患者さんの声を聞いて
つくった73の食事レシピ

川口 美喜子,青山 広美 著

《評 者》柏谷 優子(東医大病院緩和ケア支援室・看護師長/緩和ケア認定看護師

「がん患者の食」を支える関係志向アプローチ

 本書には,がん患者専任としてかかわる栄養士が実際に患者さんに提供してきた食事レシピと,そのかかわりのコツがまとめられています。

 がんを抱えて生きる多くの方は,本書に紹介されているような食にまつわる悩みやつらさを体験しているでしょうし,近くで支えるご家族もまた同じだと思います。そんな方々に,本書はきっと参考になり,がんを抱えて生きていく上で頼もしい味方になってくれるでしょう。そして同じように,がん患者さんとそのご家族を支援する医療者にとっても,心強い味方になってくれると思います。

 すべてのレシピにはカラー写真が添えられ,患者さんとの物語がレシピ誕生のstoryとして紹介されています。患者さんにしっかりと向き合って紡いだ物語から生まれたレシピには,「これは使えるな!」と思わせる説得力があります。

 レシピそのものの活用という点でもそうですが,本書が示す患者・家族との向き合い方には,医療者として学ぶところが多々あります。がん医療は臓器・疾患別に治療ガイドラインが定められ,症状緩和においても標準対応策が確立しつつある昨今ですが,多くの医療者はそれだけではがん患者のケアとして十分でないことを実感しているはずです。

 質の高い医療・ケアを提供しようと考えたときには,根拠に基づく医療・ケア,すなわちEBM(Evidence Based Medicine)の側面からだけではなく,患者固有の物語を聴くNBM(Narrative Based Medicine)の側面からも患者にアプローチしていくことが必要です。本書で示された栄養士たちの取り組みは,まさに患者固有の物語を聴くことであり,問題解決思考を基盤にしてさらに踏み込んだ,関係志向のアプローチの実践だと感じました。

 関係志向のアプローチとは,徹底して患者の個性に沿うことでそのニーズを感じ取り,援助の手掛かりを得ようとするかかわりです。食の嗜好が個に帰属するものであるだけに,がん患者の食にまつわる課題とその解決は一般化できないものがほとんどだと思われます。その意味では,本書における栄養士たちの取り組みが関係志向のアプローチとなったのは,当然の流れによるものなのかもしれません。

 豊かなコミュニケーションスキルを駆使して解決策を見いだすまでの手間と時間を惜しまない姿勢には,深い愛情と専門家としての信念を感じました。そしてこうしたかかわりから,病院給食の中で個別対応ができるような体制を確立できる組織にも敬服しました。

 この本に学ぶべきものは,目の前にいる一人の患者さん(ご家族)を大切にする姿勢です。その一端を紹介してくれたのが73のレシピであり,添えられたstoryなのだと理解しました。感心するところしきりで思いに任せた評を書きましたが,本書には利便性を考えた工夫がほかにもいろいろとされています。熱量や栄養価の表示はもちろん,「こんな方に」と工夫された見出しなどのほか,巻末にはEBMの視点も加えた原因別,要望に合わせたレシピづくりのヒントなどもまとめられています。

 単なる食事レシピ本ではなく,患者さん(ご家族)が今を生きることを支えるための姿勢を学ぶ,その手掛かりとして本書を参考にしたいと感じました。

B5変・頁128 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01477-9


リンパ浮腫診療実践ガイド

「リンパ浮腫診療実践ガイド」編集委員会 編

《評 者》前原 喜彦(九州大学大学院教授/消化器・総合外科

リンパ浮腫治療についての詳細な情報が集約

 日本人の2-3人に1人ががんにかかる時代になった。検査や治療の進歩により,がんサバイバーとして生活する方も多くなっており,がん治療中,治療後の生活の質(QOL)を高く維持することは非常に重要である。乳がんや婦人科がんの術後,あるいはさまざまながんの転

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