MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.02.20
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
篠田 道子 著
《評 者》永坂 和子(財団新和会 八千代病院看護部長)
チームマネジメント力を養うための一冊
質の高いチームを作るためにはチームマネジメントが求められる
医療・福祉サービスの臨床現場では,多職種連携やチーム医療という言葉をよく口にします。しかし,この言葉を理解しているつもりでも,意外に多職種連携やチームの作り方を系統的に学ぶ機会は少ないのが現実です。
著者は大学の教授ではありますが,実際に臨床のフィールドを持ち活躍されてきました。その経験を生かし,『質の高いケアマネジメント』(中央法規出版),『ナースのための退院調整――院内チームと地域連携のシステムづくり』(日本看護協会出版会),『チームの連携力を高めるカンファレンスの進め方』(日本看護協会出版会)など,現場で役立つ著書を多数執筆されています。
チームケアなどの専門分野では,鷹野和美・細田満和子・菊地和則氏らの著書がありますが,本書には,これらにない連携専門職を束ねるゼネラルマネジャーの必要性やチームを成長させる仕掛けなどの実践に役立つ記述が盛り込まれています。日ごろから「連携がうまくいかない」「今あるチームを見直し,レベルアップを図りたい」という方にとって,本書は,チームマネジメント力を養うための待望の書です。
チームマネジメントを高める技術
本書では,チームマネジメントを高める技術として,カンファレンス,ファシリテーションスキル,コンフリクトマネジメント,参加型事例検討,チームのメンテナンス等を挙げています。多くの病院(施設)・在宅チームでは毎日のようにカンファレンスを通じて多職種連携が行われています。著者は,カンファレンスこそ,それぞれの専門職の強みを生かす場所であり,連携・協働することで相乗効果を体験することになると述べています。そして,この体験の積み重ねがチームの成長を生み出し,質の高いケアにつながるとしています。さらに,このマネジメントにはファシリテーション技術が重要で,チーム作りとしてコンサルテーション型チームが有効であることもわかりやすく説明しています。ますます注目される多職種チーム作りにおいて,本書は臨床現場で役立つと思います。
質の高いチームを作るためには,専門職連携教育(IPE)が必要である
専門知識を持っている人や臨床経験豊富な人が,必ずしも質の高いチームを作れるとは限りません。臨床現場では,よくマニュアルや手順を作ってがんばっていますが,なかなか現場のチーム医療がうまくいかないことが多いのではないでしょうか。
超高齢社会を迎え,病院では高齢者が入院患者の半数以上を占めています。臨床の現場では,排尿障害を有する方が6割以上おり,少しでも排尿障害を改善させて在宅・施設へとつなげていきたいと考えています。著者は,チームが1つのまとまりとして機能するためには職種の壁を乗り越えた専門職連携教育(interprofessional education;IPE)が有効であり,そのツールとしてケースメソッド教育を取り入れることを勧めています。私は,臨床現場での排尿ケアについて,マニュアルの作成や研修を行っていますが,さらなる発展と飛躍のためにこのIPEを演習・事例として導入したいと考えています。
本書は,医療介護福祉分野でのチームマネジメントが体系的に平易に書かれており,とても理解しやすいです。チームマネジメントで悩み壁にぶつかっているとき,本書は実践的でさまざまな解決手法の提言があり,現場で本当に役立つ指南書にもなっています。読後感として,あらためてチーム医療の良さを発見した思いです。
B5・頁128 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01347-5
山内 常男 編
《評 者》川島 みどり(日赤看護大名誉教授/臨床看護学研究所長)
言葉が生み出す葛藤や可能性のヒントが詰まった一冊
全身の痛みを長く訴える患者に「データ上からも痛むはずはない。あとは,あなたの心の持ち方次第。あまり神経質にならないように」と,訴えそのものを否定した医師。通常よくみられる場面ではある。2週間後,別の医師の「よく我慢したねえ。長いことつらかっただろう」との言葉で執拗な痛みが薄れ,その晩は鎮痛薬を飲まないで済んだ例を目の当たりにしたことがあった。
著者らは,医師の言葉が患者に与える影響を意識した医師たちである。おそらく同じ病院の医師同士でも,隣の診察室での会話を聞く機会はほとんどないだろう。それだけに,受付の対応から始まる外来診療の流れに沿った場面での,言葉が生み出すさまざまな葛藤や可能性から得られるヒントは多いと思う。
書名は『ことばもクスリ』だが,効果のある例は,相手がそれを認め表出しない限り,通常は何も起こらず過ぎていくのが常であるので,どちらかといえばリスク面に比重が置かれている。いずれにしても,言葉は単なるツールや形ではなく,その人の人格や見識,文化の影響を強く受けていること,言葉によるコミュニケーションは人間関係の入り口でもあることをあらためて考えさせられる書である。どんなに親しい間柄でも,決して言ってはならない言葉もあるし,本人が気付かぬままに発した言葉が,相手の人生を変えさせるような契機になった例は,日常的にもみられることである。
とりわけ,医師が発する言葉が,他の人のそれに比べてより重いのは,心身不調によって受容のキャパシティが狭められている相手である上に,専門的知識の差による優位性は,いつでも医師側にあるためだと思う。だが,「日常の言葉を使って書いたり話したりすることのできなくなった人は,はっきり考える力そのものを失う」(鶴見俊輔)とすれば,専門の名によって保たれる権威は早晩崩れるだろう。その意味からも,副題に「患者と話せる医師になる」とあるのは,独自の専門用語の世界で過ごすうちに,普通の人に普通の言葉で語れなくなったことへの,編者らの真摯な思いと受け止めたい。
本書には,9章にわたって医療における言葉の問題が多角的に取り上げられている。職場や職種間での討論により,いっそう深められるとよいと思う。最後に掲載されている故浜田晋医師のインタビューは,精神科医の日常に根ざした言葉の本質がきめ細やかに述べられていて味わい深い。「ちゃんと患者と向き合って,ぬくもりのある人間どうしの付き合いができているからこそ,そこに生き生きとした言葉が生まれてくる」との,かつての看護記録への評価は,コンピュータのディスプレイと向き合って,まともに患者と視線を交わさない傾向への警告でもある。
「心に響く言葉」が飛び交う医療現場で,客観的なデータを参考にしながらも,その本人が語る言葉への感性を研ぎ澄ますことが,今,最も医療人に求められているのではないだろうか。医師をはじめ医療関係者の一読をお勧めする。
A5・頁232 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01383-3
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