外来研修の意義と学び方(松村真司,前野哲博,小曽根早知子,山田康博)
対談・座談会
2012.02.06
【座談会】 | |
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研修医の皆さんは“外来”を担当した経験はありますか? 主訴が多岐にわたり,患者背景もさまざまな外来診療では,多数の軽症例のなかに存在する一握りの重症例を決して見逃さないことが求められます。しかしながら,外来診療の初心者は,得てして似たような失敗を犯し,重篤な疾患を見逃してしまうことがあります。
本座談会では,外来担当医が陥りがちな“落とし穴”に注目しながら,外来診療における臨床力を高めるための方策を経験豊富な指導医4人に議論していただきました。外来診療のスキルアップのコツを伝授します。
松村 2001年に私が武田裕子先生(ロンドン大大学院),大滝純司先生(東医大医学教育学)と一緒に行った調査では,一般外来・救急外来を含め何らかの外来研修を行っている臨床研修指定病院の割合は44%でした。また研修スタイルは,「研修医に外来を任せ,困った場合に相談」というものが多く,外来診療における系統立った思考過程を学ぶ研修をしていた施設はごくわずかでした。その調査から約10年,新医師臨床研修制度も導入されたなかでの外来研修の現況について,まずお聞きしたいと思います。
卒後臨床研修における外来研修のいま
松村 山田先生,小曽根先生はともに新医師臨床研修制度の一期生ですが,初期研修では何らかの外来研修を受けましたか。
山田 私は初期研修を卒業した大学の病院で行いましたが,一般外来や救急外来を経験することはほとんどなく,研修の大半は病棟で行いました。救急の当直の際もチームで診療に当たるため,自分で考えて治療方針を決定したことはなかったですね。
小曽根 私が初期研修を行った筑波メディカルセンター病院では,1年目で救急外来を担当し,walk inの患者を中心に診察しました。ただ当時,指導医からは「何かあったら声をかけて」という指示のみで,きちんとした指導体制はありませんでした。
2年目の総合診療科研修では2週に1回程度初診の一般外来を担当し,それ以外に指導医の外来を後ろで見学する機会がありました。基本的には毎回,当日診た患者のケースレビューを行い,全例プレゼンテーション(以下,プレゼン)して指導医から診療のフィードバックを受けました。
前野 正確なデータは持っていませんが,現在も多くの施設では初期研修を病棟中心に行っているようです。各科をローテートする初期研修では科ごとの研修期間が短く,また空きブースがないという問題もあり,外来研修の導入は難しいのだと思います。それに加え,研修医が診察する間,指導医は自身の仕事を中断しなければならないため,外来研修の導入には指導医側にもそれなりのモチベーションが必要です。
それでも初期研修の必修化以降,プライマリ・ケア重視の考え方が浸透してきているためか,外来研修を行う施設は増えています。病院以外でも,地域医療研修で診療所の外来を経験する研修医も増えていると思います。
松村 なるほど。プライマリ・ケアに近い臨床の場では,初期研修でも外来研修が広がってきているのですね。それでは,後期研修ではどうでしたか。
山田 後期研修は現在の所属施設で行ったのですが,1年目(卒後3年目)から早速外来を任されました。一般外来の初診と再診,二次救急外来,夜間内科当直を担当し,自分で下した治療方針の決断について,指導医から濃密なフィードバックを受けました。特に一般外来では診察当日に全例ケースレビューを行い,そこでの学びを基に外来での自分の診療スタイルが確立してきたと感じています。
小曽根 私は後期研修を筑波メディカルセンター病院と筑波大病院で行い,一般外来の初診・再診を担当しました。初診では初期研修時と同様,ケースレビューで指導医から全例フィードバックを受けました。再診は全例ではなく,困ったときに相談するというスタイルで行いました。
松村 外来研修を経験して,どのような感想を持ちましたか。
小曽根 自信を持って行った処置の過不足を指摘されたこともあり,この処置でいいのか,見逃しはないかと毎回緊張感がありました。外来診療は決断の連続という要素があるため,自分の決断が正しかったのか検証ができたことは,大きな経験となりました。
松村 先生方は系統立った外来研修を受けられたのですね。一方,臨床研修全体を見渡したとき,外来研修をほとんど受けずに外来を任されるケースは多いのでしょうか。
前野 後期研修医が外来を担当しない施設はまずないので,卒後3年目に「明日から週1回外来をやってね」と,いきなり任される現実はあると思います。
松村 もし外来研修を受けずに外来を任されるとしたら,山田先生ならどう思われますか。
山田 困ってしまいますね。トレーニングをしていないことは基本的にはできません。適切な医療が行えなくなるので,最大の被害者は患者さんになると思います。
前野 “困ったら相談”というかたちの外来研修が多い現状では,多少経験のある研修医でもこわごわ外来診療を行っていると思います。自信を持って外来を担当できるようになるためには,適切な決断を促せるような系統立った教育を,外来の場で行っていくことが重要でしょう。
救急外来や病棟で一般外来のスキルは身につくのか
松村 外来での研修が必要と感じていても,マンパワーの問題などで指導に力を入れられない背景もあります。一方,救急外来や病棟の新患の診察で鑑別診断のトレーニングを行うことが,一般外来の訓練にもなると考える指導医は少なくないと思いますが,一般外来のスキルを他の研修で身につけることは可能なのでしょうか。
山田 救急外来や病棟で一般外来のスキルを身につけるのは難しいと思います。救急外来には,緊急性がある方か,何らかの理由で日中に来られない方が主に来られますが,一般外来では緊急性の高い方の頻度は低く,患者層が異なります。また主訴も異なり,「痛い」「苦しい」と訴える方が多い救急外来に対し,一般外来の主訴は多様で「何となく調子がおかしい」と言う方も多くいます。できる検査も限られるため,一般外来とは大きく状況が異なります。
小曽根 救急外来では,翌日まで大丈夫だったらとりあえず合格点ですが,一般外来には重大疾患を見逃してはいけない“最後の砦”のような役割があると思います。例えば,「何となくお腹が痛い」と訴える患者の場合,救急外来であればバイタルが安定し出血がなければ,その日は帰してよいと判断できます。しかし,一般外来で帰してしまい,もし大腸がんを見逃してしまったら大きな問題です。
松村 では,病棟診療との違いはどうでしょうか。
小曽根 病棟はいつでも診に行けますが,外来では患者さんが帰ってしまうともう1回診察することは困難ですので,外来は診察のチャンスが限られるという違いがあります。
松村 病棟研修や救急外来などで重症疾患の経験を多数積むことで,一般外来もできるようになるという考えはないのですね。
山田 一般外来では,自然に治る多数の“帰せる人”のなかに存在する,一握りの“帰してはいけない”重症患者を拾い上げることが求められます。そういった能力は,やはり一般外来を経験しないと身につけることは難しいでしょう。
前野 一般外来では,初診で診断が確定しないケースも多くありますが,それでも「帰す」「緊急入院」といった決断は必ず下さなければなりません。その決断のプロセスを習得するには,やはり一般外来という状況に特化したトレーニングが必要ですね。
外来には研修医が陥りやすい“落とし穴”がある
松村 明確でない主訴から診療を開始することが多い一般外
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