医学界新聞

2012.01.30

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


遺伝性婦人科癌
リスク・予防・マネジメント

Karen H. Lu 編
青木 大輔 監訳

《評 者》小西 郁生(京大大学院教授/婦人科学・産科学)

婦人科腫瘍専門医,臨床遺伝専門医,遺伝カウンセラーに待望の書が登場!

 女性固有の癌である卵巣癌,乳癌,子宮内膜癌は一定頻度で家族性発生があることが知られていたが,原因遺伝子のBRCA family遺伝子およびミスマッチ修復遺伝子が同定され,遺伝子診断の時代が到来した。この間,日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会では本書監訳者の青木大輔教授らによってわが国の家族性子宮内膜癌の実態調査も行われている。

 本書は,遺伝性の卵巣癌,乳癌,子宮内膜癌,そのほかの遺伝性疾患に関して,M. D.アンダーソンがんセンターのKaren H. Lu教授が中心となり,現時点における最新情報を提供しているもので,このたび,青木教授が中心となりその日本語訳版が刊行された。あのLynch症候群で名高いHenry T. Lynch博士も原書の序文および章の執筆を担当している。

 本書の特徴は,症例も交えながら,とてもわかりやすく書かれていることである。読み通してみると,この分野の最新知識をアップデートできる歓びが沸いてくる。BRCA1遺伝子変異を有する女性の乳癌および卵巣癌リスクを正確に述べられるようになるし,Lynch症候群女性の大腸癌や子宮内膜癌のサーベイランスを学べる。それだけでなく,遺伝子診断に必須の婦人科癌に関する深い知識が得られる。「卵巣癌スクリーニングは可能か?」「BRCA変異卵巣癌は本当に予後良好か?」「漿液性腺癌の起源として卵管采上皮か?」などなど。

 さらに特徴的なのは,翻訳に当たられた先生方が独自のコラムを設けており,これにより,米国とは異なる,わが国における遺伝子診断の現況が理解しやすくなっていることである。翻訳を担当された先生方に深く敬意を表したい。

 産婦人科専門医,婦人科腫瘍専門医,臨床遺伝専門医,および遺伝カウンセラーにとって,ぜひとも手元に置きたい書である。

B5・頁296 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01414-4


早期胃癌アトラス

細井 董三,馬場 保昌,杉野 吉則 著

《評 者》芳野 純治(藤田保衛大坂文種報徳會病院・院長/消化器内科学)

本格的な胃X線診断学の書

 本書を手に取ってみると,ずっしりと重い。そして,表紙のX線像にまず引きつけられる。書名は『早期胃癌アトラス』とあるが,胃X線診断に著しく重心を置いて作成されている。総論と症例編から成り,症例編がほとんどを占める。総論ではX線撮影装置,造影剤,撮影法,読影の基本が簡潔に述べられている。症例編では肉眼型,部位,深達度診断,鑑別診断などのさまざまな項目を網羅した100例の症例が提示されている。いずれの症例にも素晴らしいX線像が並んでいる。そして,X線像を解説するように内視鏡像,病理像が添えられている。本書は胃X線診断学のリーダーである細井,馬場,杉野の3名の先生により執筆された。この領域で先生方の名前を知らない人はいない。また,私も参加させていただいている雑誌『胃と腸』の編集委員としてもX線診断学の進歩に大きく寄与された。

 本書に提示された100例の症例のX線写真の美しさは,言葉に言い表しにくい。これらの写真は最良の所見が描出されるように思考しながら,渾身のエネルギーで撮影されたのであろう。また,「序」には,本書が企画されてから上梓されるまで10年の歳月がかかり,その間に出版が危ぶまれる時期もあったと書かれている。これらの症例を集めるに当たりX線像で妥協することを許さなかったのではないかと推測される。

 よいX線写真とは病変の凹凸を忠実に表し,病変の広がり・深さ・他疾患との鑑別に有用な情報をもたらすように撮影された画像とも言える。良好に描出されたX線写真は切除標本のマクロの像と極めて類似してくる。そして,その病理所見と対比することにより,X線所見の読み方,考え方,さらに所見の成り立ちまでも教えてくれる。

 それぞれのX線像には所見が記載されている。X線像を見ながらそれらを読むと,所見のとらえ方を学ぶことができる。透亮像,陰影斑,胃小区模様などの胃X線所見を表現する言葉は,内視鏡所見や切除標本の所見を表す言葉とは異なる。すなわち,さまざまな所見をどのように表現したらよいのかが勉強になる。また,症例の終わりに「本例のまとめ」として症例の特徴,所見のとらえ方,撮影の工夫などについての解説が簡潔にまとめられている。写真を見る前に,「本例のまとめ」を先に読むのも理解が深くなるかもしれない。

 白壁彦夫先生らにより開発された二重造影法を主体とした胃X線診断学は大きく花を咲かせたが,最近では良質の画像をみる機会が少なくなってきた。「序」では約半分を割いて,内視鏡診断に対するX線診断の現状を憂いている。胃X線検査にドップリと漬かり,写真の出来具合に一喜一憂したことのある私にとっても同様の思いがある。本書は本格的な胃X線診断学の書とも言える。本書により新たにX線診断学に興味を持ち,面白さを理解される方もいるのではないだろうか。そして,X線診断学をも志す医師が増えることを期待している。

A4・頁480 定価21,000円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00152-6

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