医学界新聞

連載

2011.12.19

今日から使える
医療統計学講座

Lesson8
交互作用

新谷歩(米国ヴァンダービルト大学准教授・医療統計学)


2955号よりつづく

 臨床研究を行う際,あるいは論文等を読む際,統計学の知識を持つことは必須です。
 本連載では,統計学が敬遠される一因となっている数式をなるべく使わない形で,論文などに多用される統計,医学研究者が陥りがちなポイントとそれに対する考え方について紹介し,臨床研究分野のリテラシーの向上をめざします。


 交互作用(または相互作用)は,臨床疫学において交絡と並ぶ重要なコンセプトですが,その交絡と交互作用の違いをきちんと理解している人は少ないようです。今回は,交互作用について説明します。

交互作用はあらゆる研究で考慮されるべき

 交互作用は英語ではInteractionと呼ばれ,「2つ以上のファクターが互いに影響を及ぼし合うこと」と定義されています。よく知られている例ですが,ワルファリンの服用中に納豆などのビタミンKを多く含む食事を制限するのは,ワルファリンとビタミンKが交互作用するからです。臨床研究ではこの交互作用を,Effect Modificationという用語を用いて説明するとわかりやすいようです。研究対象要因の効果(Effect)が他の要因の有無によって変わる(Modifyされる),つまりワルファリンは納豆を食べなければ効果があるが,食べると効果がなくなるので,ワルファリンの効果は納豆を食べるか食べないかによって変えられる,すなわち2つの要因は交互作用していると言えます。

 研究対象要因の効果が他の要因によって変わるという交互作用は,ランダム化比較試験(RCT),疫学研究を問わずあらゆる研究で考慮される必要があります。個人の遺伝子型に沿ってより効果のある薬剤を提供するという個別化医療(Personalized Medicine)も,ある遺伝子があるかないかによって薬剤の効果(薬効)が変わることに着目しているので,解析は交互作用に注目して進められます。

 薬効を調べるRCTでは通常,主要評価項目(エンドポイント)は研究対象者全員による効果の平均的なものとして表されます。しかし実際には,個々の患者によって薬効は異なるはずなので,どのような特性を持った患者に効果があるかを見極めるときに,それぞれの特性ごとに患者をグループ分けして薬効を調べる"サブグループ解析"を行います。薬効(Effect)がサブグループによって変わるかどうか(Modify)を調べることを"交互作用の解析"と言います。

どのような特性を持つ患者により効果が期待できるのか

 ではここからは,2005年にLancetに掲載されたATAC試験を例に解説します1,2)。ATAC試験は約9400人の閉経後・早期乳がん患者を対象として2001年に開始された世界最大規模の臨床試験です。5年以上にわたってアナストゾールとタモキシフェンの効果を比較した結果,アナストゾールがタモキシフェンよりも治療効果に優れていることが示唆されました。

 例えば,乳がんの再発率を比較するハザード比は0.79[95%信頼区間=0.70-0.90,p=0.0005],つまりアナストゾールの投与により,再発率が21%削減したと理解できます。しかし,これは研究対象者全員の平均的な結果に過ぎないので,どのような特性を持った患者に対してより効果があったのかを調べるために,リンパ節の状態,腫瘍サイズ,ホルモン受容体(陽性/陰性),過去の薬物治療の有無などによってグループ分けを行い,それぞれのグループごとにアナストゾールの効果が解析されました()。

 ATAC試験のサブグループ解析の結果(文献2より改変)

 ホルモン受容体陽性患者では,アナストゾールのハザード比は信頼区間に効果がないという値の1を含んでいないので有意差があり,一方,ホルモン受容体陰性患者では,ハザード比が1に近く信頼区間も1を含んでいるので有意差がないとされました。この結果から,ホルモン受容体陽性患者のほうがアナストゾールの効果が大きいと結論付けられたようです。

交互作用の解析は非常に難しい

 このように,患者の特性によって薬効が変わる交互作用は臨床的にも大変重要な意味を持ちますが,実は交互作用の解析は大変難しいことが知られています。先ほどの例で薬効が変わることに対するエビデンスとして,「あるグループでは有意差が出たけれど,他方では出なかった」というように,有意差のみに着目してしまうと大きな問題が起こってきます。

 例えば,腫瘍サイズごとの薬効を見てみると,腫瘍サイズが2cm以下の患者のハザード比は信頼区間が1を含むので有意差なし,2cmを超える腫瘍の患者のハザード比は信頼区間が1を含まないので有意差ありと判断できます。両者のハザード比の差はごく小さいのに,アナストゾールの効果が腫瘍サイズによって変わる,つまり交互作用があると結論付けてしまってもよいのでしょうか? 言い換えれば,同様の研究が将来的に行われたときに,腫瘍のサイズによってアナストゾールの効果に違いがあることが再現可能なのかということです。

 答えはもちろんNOです。ランダムにデ...

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