医学界新聞

2011.12.12

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


その先の看護を変える気づき
学びつづけるナースたち

柳田 邦男,陣田 泰子,佐藤 紀子 編

《評 者》遠藤 俊子(京都橘大教授/母性看護学・助産学)

毎日の積み重ねに無駄はない それはその先の自分を創ること

 『看護師であることに迷ったとき,この本を手にとってみてください。ここにはたくさんの物語がつまっています』と帯に書かれているとおり,登場する事例にハッとしたり,ホッとしたりで一気に読める本である。本書は四部構成になっており,三人の編者が看護学生の物語(柳田邦男),いのちの学びの物語(陣田泰子),師長のものがたり(佐藤紀子)として事例の提供をしながら第3部まで進め,最終の第4部では座談会によって,「看護師としての私の気づきと看護」を深めている。

 第4部の中に「人間は物語を生きている。患者というのは,その人なりに三十年であれ,八十年であれ,生まれてからこの方,生きてきた文脈があって,さきほども言いましたが傾聴して記録を取れば一つの物語になっているわけですね。……(中略)……患者の物語と,医療者の物語とが出会う交差点が医療の現場であり,そこで生み出される作品が医療行為,診療行為であるというわけです」という表現がある。しごく当たり前であり,看護師は誰もがこの交差点で出会う患者との体験から「一生の宝物になる物語」を持っているだろう。これらの物語が日々通り過ぎてしまうような臨床の現実こそが,看護の危機的な状況ではないかと思えてくる。あまりにも業務量が多くて,忙しくて,ギスギスしていることをも本書では指摘しているが,今日という一日が,事故がなくて安全に経過することだけを目標化する医療現場にしたくはない。

 また,看護カンファレンスでは,ぜひに患者の物語を提示できる事例の提供を心掛けたい。しかし,短い時間に事例提供できるのは一朝一夕でできるものではない。事例を客観視するためには誰かに手紙のように書く,名文を書こうと思わずに雑記帳に書くくらいのつもりで書くことから始めることと,本書で提案されている。そして,自分の看護実践を客観的にみつめ,核となったものに気づく過程がそこにある。その見方や行ったケアへの気づきが,チームとしての気づきになり,臨床の力が増すことになる。

 「医療現場に入って一年,二年は大変だから,だいたいそこで脱落しそうになるんですよね。そういう中でも,僕はいっぺん職業を選んだら五年とか七~八年はそこで歯を食いしばってでもやってみると,ある日突然にパッと何か,割れ目から光が射す時があるだろうと思うんですよ。そういうことがあり得るんだということを,心のどこかに思っていたほうがいいと思うんですね」という柳田氏の発言も,新人看護師に伝えたい言葉である。あなたの行っている毎日の積み重ねには何も無駄がないこと,そうした体験こそが,今の自分,その先の自分をつくっていくことになるのだ。

 最近,基礎ならびに現任教育でも,ポートフォリオという手法で自分自身の成長を確認する手法が進められている。そこには自己の記録,写真,提出レポート,他者からのメッセージなどの記録が残されていく。今日からあなたも書くことを始めたくなる

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