医学界新聞

寄稿

2011.12.12

寄稿特集

診療所で働くということ
診療所「だから」「でこそ」できるキャリアのかたちとは?


 急性期病院と地域の診療所との連携が重要となるなか,診療所の看護師に求められる役割は大きくなってきています。一方,ロールモデルと呼べる看護師が身近におらず,診療所でどのような看護が行われているかを知らない方は,少なくないのではないでしょうか。

 本特集では"診療所ナースのキャリア"に焦点を当て,在宅医療や専門診療を行うさまざまな診療所で働く5人の看護師に,現在の職場に進んだ背景や仕事内容をご紹介いただきました。診療所だからこそできる"看護のかたち"をお伝えします。

ご紹介いただいたこと
(1) 診療所の概要
(2) なぜ,現在の診療所の看護師に?
(3) いまの仕事内容は?
(4) 診療所ナースをめざす後輩へひと言

扶蘓由起
杉本綾子
宇野さつき
渡辺鈴子
駒谷末季


扶蘓 由起

ホームホスピスひばりクリニック奈良在宅ホスピスセンター看護師長/地域看護専門看護師


看護師同士が尊敬し合える関係を構築できるのは,診療所ならでは

(1) 当院は,奈良県の西北部,大阪のベッドタウンにあるがんの在宅緩和ケア専門の診療所です。往診を専門とし医師3.5人,看護師4.5人,事務3人の小さな所帯です。介護事業所を併設し,ケアマネジャー,ヘルパー,福祉用具専門員らとチームケアを行い,在宅緩和ケアのオールインワン・システムの構築をめざしています。

 2010年の実績は,電話相談330件,訪問開始275件,在宅看取り205件で,在宅看取り率は74.5%です。化学療法を併用している方もいますが,終末期の方が非常に多く,約半数の患者さんが当院の訪問開始後,約2週間で亡くなられます。電話相談件数と,訪問開始件数に差があるのは,紹介が遅く病院で死亡された方,そのままホスピスに入院された方などがいるためです。この数を見てご理解いただけると思いますが,毎日重症の患者さんやご家族を訪問しケアするため,日々悩みは尽きません。

(2) 私が在宅での看護実践への使命感に駆られたエピソードがあります。大学病院に勤務していたころ,入院していた若い女性が,総室のカーテンを閉めた状態でお付き合いしている男性と面会をしていました。そのとき看護詰所で「カーテンを閉めて何をしているのか」とうわさをしているのを目の当たりにし,闘病する上で大きな支えになる人との面会さえ看護師のうわさになるような,プライベートを大切にできない病院は,患者さんが生活する場所ではないと悟りました。そして,がんを患っていてもその人らしく,安心できる生活の場を提供できる看護師になりたいと強く考え,在宅の場で働くことを決めました。

(3) 在宅緩和ケアの仕事は,がんで療養をしている方に対して必要な情報を提供し,外来受診時に医師と良好な関係で意思決定を行えるようにサポートすることや,人生の限られたひとときをその人らしく過ごせるよう,医学的な視点を基にかかわることです。看護師の判断により,患者さんやご家族がケアの方向性を決定付けられることもあります。生活の場での医療であるため,医学的に正しいことを行うだけではなく,患者・家族のニーズを理解し,彼らの生活のなかで医療に意味を見いだすことが求められます。チーム成員がそれぞれ得た情報を集約・分析するので,その緊張感や責任感は大学病院での勤務とは異なるものです。結果をダイレクトに感じることができる分だけ,やりがいもあります。またマンパワーも限られているので,自然にチーム力が出てきます。お互いの良いところを活かさなければケアが遂行できないのです。看護師数が少ない故の必然かもしれませんが,看護師同士が尊敬し合える関係を構築できることは,診療所という環境によるものと思います。

(4) 在宅看護では,起こった事象を一人で対処しなければならないことが多くあります。高い知識・技術と,チームケアの実践にはコミュニケーション力が求められ大変ですが,喜びもひとしおです。


宇野 さつき

新国内科医院看護師長/がん看護専門看護師


地域のリソースとしてのがん看護専門看護師

(1) 当院は約20年前に現院長が開業して以来,地域のかかりつけ医療機関として「患者も家族も機嫌よく生きる」ことをチームで支援してきました。無床の在宅療養支援診療所として,週4日の外来診療と往診・訪問看護を行っています。

 外来には近所の顔なじみの高齢者からがん専門病院で治療中の患者など,一日約30人が来院し,週2回の夜診には闘病中のがん患者が仕事帰りに受診することも少なくありません。また在宅では10代から100歳を超える方まで,がんや難病,人工呼吸器管理の患者,介護施設入所者,独居患者など幅広い層に対応し,常時130人ほどの診療を行っています。在宅看取りはがん患者を含め年間60人を超え,当院でかかわる患者の約60%となっています。

(2) がん患者・家族のケアの質向上に臨床現場で取り組みたいと思い,がん看護専門看護師(OCNS)をめざして大学院で学んでいたとき,英国の緩和ケア専門看護師であるマクミランナースから「在宅だからこそスペシャリストが必要だ」と言われ,在宅をフィールドに活動する決心がつきました。外来・在宅を問わず予防・診断・治療期から終末期に至るまで,幅広くがん患者・家族にかかわることができること,病院や訪問看護ステーション,薬局,介護施設などさまざまな組織と直接やりとりができることから,あえて診療所を拠点とし,地域のOCNSとして活動を開始しました。

 「地域緩和ケアチーム」が公的には存在しない日本の医療制度のなか,診療所にいることで多職種と連携を取りながら,臨床現場でOCNSの6つの役割(実践,相談,調整,教育,倫理調整,研究)をバランスよく活かすことができていると日々実感しています。

(3) 現在6人の看護師とともに,外来と訪問看護を行っています。外来では,在宅を希望するがん患者の在宅依頼への対応・調整,症状緩和やリンパ浮腫などのケアや生活指導,治療やこれからの過ごし方などの意思決定の支援,家族のグリーフケアなどを行い,在宅では法人内の訪問看護ステーションや周辺の複数のステーションとも連携を取り,患者,家族が少しでも安心,安楽に過ごせるようチームの一員として看護実践を行っています。在宅側だけでなく周辺病院などからも,がん患者・家族への対応で困ったり悩んだりした際には気軽に相談してもらい,診療所のOCNSを地域のリソースとしてうまく活用してもらっています。その一つの成果として,ここ数年で地元のがん患者の在宅看取りが倍増しました。

(4) がんに限らず,疾患や障害を持ちながらも患者が最期まで住み慣れた地域で過ごせるよう支援することは,まさに看護の専門性の見せどころです。私はいつも患者・家族の笑顔に元気と勇気とやりがいをもらっています。

 今後日本でも,専門看護師や認定看護師などが診療所をもっと拠点とし,地域全体のケアの質向上を視野に入れた活動を行ってほしいと願っています。


駒谷 末季

北美原クリニック 看護師長


病棟とは違う,患者さんやご家族の笑顔があります

(1) 地域で信頼されるクリニックをめざした当院は,医師3人で診療を行っている無床診療所です。内科・外科・消化器内科・肛門科・循環器内科・呼吸器科・人工透析内科の各科のほか訪問診療も積極的に行ってお...

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