医学界新聞

2011.12.05

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


臨床に活かす病理診断学
消化管・肝胆膵編 第2版

福嶋 敬宜,二村 聡 編

《評 者》高田 忠敬(帝京大病院名誉・客員教授・肝胆膵外科学/日本肝胆膵外科学会理事長)

消化器病に携わる医師必携の臨床病理のテキストブック

 このたび,医学書院から出版された『臨床に活かす病理診断学――消化管・肝胆膵編(第2版)』(編集:福嶋敬宜・二村聡)の書評を依頼されました。

 私は,雑誌『胆と膵』(医学図書出版)の編集委員長をしている関係で,委員の一人である福嶋敬宜先生とは親しい関係にあります。私が福嶋敬宜先生に異才を感じたのは,彼が雑誌『胆と膵』に繰り出してくる企画に対してです。

 それらの企画を紹介しますと,まず,「ぼくは病理学研修生――診断ときどきリサーチ」を6回(前編,後編と二部作)掲載しました。これはいわばQ & A方式で,標本の整理,染色,診断などから研究の展開まで幅広く読者に身近に感じられる病理を紹介したものです。臨床医として大変興味深く,"なるほど"とうなずきながら読ませていただきました。

 次に,インタビュー「その『道』の究め方――消化器病に挑み続ける先駆者たち」が16回掲載されました。さらに,現在も続いているインタビュー「その『世界』の描き方」があります。

 これらの企画では,インタビュアーの福嶋敬宜先生の多大の努力とともに,先人たちから"旨み"を引き出す能力の高さに感心しました。インタビューを受ける先人たちが,素直に研究の苦しみ,目的に到達したときの喜び,人生観などをよどみなく話しているのを読み,遠くに感じていた先人たちがすーっと近づいてきたのを感じさせられました。

 このような背景を基に,今回,『臨床に活かす病理診断学――消化管・肝胆膵編(第2版)』(以下,本書)を読んでみました。消化器病に携わる医師にとっては,最低限知らなくてはならない臨床病理のテキストブックだと感心しました。

 実は,私は病理学については全くの素人ではありません。東京女子医科大学消化器病センターの外科レジデント(医療練士)の6年の間には一時期病理部門に配属され,標本整理などを行いましたし,レジデントが終了してから1年間,東京女子医科大学第一病理学教室に助手として入局し,勉強しました。本書の入門編や基礎編に書かれているようなことを実際に行ってきたわけですが,当時はガイドをするような良い参考書がなかったので,先輩や教授に,あるいは,技師たちに直接教わって,検体の固定,切り出し,染色,検鏡などをたどたどしく行っていました。また,学生の病理実習では,検鏡でわからないところを私に尋ねてくるのですが,まだ勉強していないところも多く,たびたび,恥をかくことがありました。

 本書は,学生時代のレベルの低い知識や経験,医師になってからのうろ覚えの知識に対して,入門者が勉強し,身につけやすいQ & A方式を基本的に採用しており,注釈も簡潔でわかりやすくなっています。消化器病医(内・外科を問わず)と病理医とのやりとりだけでなく,カンファレンスや学会での発表,討論のベースをつくる知識を得ることができます。また,ちょっとわからない病理用語などについては辞書代わりにこのテキストを見ればよく理解できます。

 また,「ここがホット」や「耳より」は,ちょっと読んでおくと少し偉くなったような感じを与えてくれます。念のため,「臨床と病理の架け橋」については,一読されることをお勧めします。

 本書は,病理学的事項をやさしく記載した入門書であるとともに,著者たちが実際に学会や委員会などに臨むときに,"ちょこっと"走り読みして,部外者にもわかりやすく説明できるように考えて企画したのではないかと考えてしまいました。それほど使い勝手がいいテキストだと感心しています。

B5・頁300 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01095-5


病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー

IDATENセミナーテキスト編集委員会 編

《評 者》柳 秀高(東海大講師・総合内科学)

日々の診療に必要な知識を築くのに有用な一冊

 この本では,病棟やICUで感染症診療を行うとき,また相談を受けたときに必要とされる知識の多くがわかりやすく解説されている。サンフォードマニュアルのような網羅的なマニュアル本ではなく考え方の筋道が書いてある。

 総論では病院内での感染症診療の一般原則や免疫不全総論などがよくまとめられている。感染臓器と患者の免疫状態,基礎疾患などから起因菌を推定し,empiric therapyに用いる抗菌薬を決める。培養が返ってきたら最適な抗菌薬を決めてdefinitive therapyを行う。抗菌薬の投与期間の決定については各論で提示されるケースでは議論されないが,各項目の概説のなかで語られることが多いように感じた。

 人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連血流感染・尿路感染などの項目では,米国感染症学会などのガイドラインを用いてケースのマネジメントを説明している。あるいはケースを使って,ガイドラインを解説している。ケースの説明のみならず,疾患・ガイドラインの概説も行っているので全体像をつかむのによい。いずれのケースも基本的に感染臓器,起因菌の推定からempiric therapyを考え,培養結果などを用いて特異的治療を決定するという実践的な流れからぶれずに議論されており,日々の病棟での感染症診療や感染症コンサルタント業務に必要な知識を築くのに有用であると思われる。

 耐性グラム陰性菌を考慮せざるを得ない,病院内感染症でのempiric therapyの選択において,βラクタムに二番手の薬剤として,アミノグリコシドかフルオロキノロンのいずれかを加えるという考えがある。通常βラクタムの選択においては,施設ごとのローカルファクターが強調されるが,一番手の薬剤が無効な株のなかで二番手のどの薬剤に感受性があるか,という側面からもローカルファクターを知っておくべきである。この点は意外と現場では重要なのでもう少しつっこんだ記載があってもよかったかもしれない。

 免疫不全患者での肺感染症を扱った章で,サイトメガロウイルス肺炎の診断方法について,Shell-Vial法とPCRを併用して診断,マネジメントの根拠とする表がある。自分は今までこれらの検査結果を「総合的に考えて」判断してきたので,参考になった。

 私の恩師の一人であるKevin Highという感染症科医は,感染症のマネジメントがうまくいったとき,"Nothing magical"とよく言っていた。基本通りに一つ一つ手を打てば,よくなるケースはよくなるものだ,というくらいの意味に私は受け取っていた。基本を学ぶためのツールとして,感染症に興味のある若手医師,スタッフ医師にこの本を勧め,自分も再読,吟味したいと思っている。

B5・頁328 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01244-7


レジデントのための
血液透析患者マネジメント

門川 俊明 著

《評 者》深川 雅史(東海大教授・腎・内分泌代謝内科学)

理論と経験に裏打ちされた透析医療を学ぶために最適の入門書

 現在わが国で透析医療を受けている患者は約30万人に達し,新規に導入される患者の高齢化が進んでいる。また,糖尿病を原疾患とする率が高くなってきており,これらのことはほとんどの患者が多臓器の障害を持っていることを意味する。さらに,一昔前には考えられなかったような大手術を透析患者が受ける機会も増えてきており,腎臓内科や透析療法を専門としない医師が主治医になることも多い。彼らは,それぞれの領域の病気の専門家ではあるが,透析をしている患者の特性を理解して,適切に対応しているだろうか? 実際には,透析室に自ら赴いて,透析担当医と相談することも少ないのかもしれない。

 一方,透析は技術的な側面が大きい医療であり,その中にはきちんとした理論に基づくものだけでなく,経験に基づくものが混在しており,施設による差も大きいのが現状である。さらに,技術の世界は日進月歩であるため,常に注意していないと,その施設のローカルルールが,最新の医療から著しく遅れていることに気付かない場合もある。それでは,透析を担当する医師が,すべてをきちんと理解して指示を出しているのだろうか? 大学病院のような施設を除いては,通常の指示は臨床工学技士や看護師に任せてしまっていることも多いのではないだろうか。

 担当医やスタッフに対して指示を出すにしても,手術直後や患者の状態が変化した際に除水などの透析条件をどう設定するか,抗菌薬などの薬剤の投与量をどう調節するか,合併症に対してどう対処すべきかなど,理論に裏打ちされた経験が必要である。透析医療のマニュアルは既に複数出ているが,その多くはコメディカル向けに書かれている。本書は,医学教育に熱心に取り組んでいる著者によって作成されたレジデント向けの小冊子を基にしており,それを理論的に学ぶためのコンパクトな入門書として,若い医師にとって最適と思われる。

 なお,透析療法そのものだけでなく,さまざまな異常を持つ透析患者のマネジメントは,内科医にとって応用問題である。そういう意味で,心血管系を中心とする身体所見の取り方と解釈についてもさらに触れてもらえると,より有用なマニュアルになると期待される。

A5・頁200 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01387-1


がんのリハビリテーションマニュアル
周術期から緩和ケアまで

辻 哲也 編

《評 者》水間 正澄(昭和大教授・リハビリテーション医学)

臨床現場ですぐに役立つ実践的な入門書

 がんのリハビリテーションは,従来からリハビリテーション医学の一つの領域として,リハビリテーション科専門医の所属している施設では地道な活動がなされていたが,必ずしも欧米でみられるような専門の診療部門として運営されていたわけではなかった。特に,がん治療を専門とする病院においてはリハビリテーション科専門医が専従として勤務することも少なく,積極的なリハビリテーションアプローチが展開されていたとは言い難い。

 本書を編集された辻哲也氏は,2002年に開院した高度がん専門医療機関である静岡県立静岡がんセンターにおいて,わが国におけるがんリハビリテーション専門の診療部門としての先駆的な取り組みを開始された。その後,2006年には「がん対策基本法」が施行され,がんの予防,早期発見,研究推進とともに医療の質として患者のQOLの維持向上も求められ,リハビリテーションの役割も重視されるようになった。

 さらに,2010年度診療報酬改定では「がん患者リハビリテーション料」が新設され,その施設要件の一つとして多職種チームによる研修会受講も必須のものとなった。これを機にがん拠点病院のみならず一般病院においてもがんのリハビリテーションの必要性が認識され,多くの施設が研修会を受講し施設認可を受け本格的な取り組みを始めたところである。このような経緯の中,本書ががんのリハビリテーションの実践的な入門書として出版されたことは大変意義深い。

 本書は辻氏をはじめとする執筆陣の豊富な臨床経験を基に書き上げられ,「周術期から緩和ケアまで」との副題が示す通り,がん患者診療におけるさまざまな場面でのリハビリテーションの必要性とかかわり方を取り上げている。その内容は,がん医療全般に始まり,がんそのものにより引き起こされる障害,手術・化学療法・放射線治療などの治療過程に起こり得るさまざまな障害と生活機能の低下への対応,さらには精神心理面へのサポートと多岐にわたる。

 がんにより引き起こされる障害も,運動障害,切断,摂食・嚥下障害,浮腫,呼吸障害,骨折,疼痛,さらにはこころのケアまで多種多様であるが,項目ごとにポイントがまとめられ,豊富な写真や図表を用いて包括的なリハビリテーションアプローチの実際がわかりやすく示されている。臨床現場ですぐに役に立つ実践書であるが,がんのリハビリテーション研修会等の受講に際しての学習にも活用されることをお勧めしたい。

 本書を通じてより多くの医療人ががんのリハビリテーションの役割と必要性を理解され,がん医療全体の質の向上につながることを期待している。

B5・頁368 定価4,830円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01129-7


クリニカル・リーズニング・ラーニング
Learning Clinical Reasoning, 2nd Edition

J. P. Kassirer,J. B. Wong,R. I. Kopelman 著
岩田 健太郎 訳

《評 者》松村 理司(洛和会音羽病院院長)

原著の生きた魅力を名訳で味わう

 日本の臨床や教育・研修に欠けるものが少なくとも4つはある。「診断推論や臨床推論の徹底した訓練」「治療のEBM(バランスのとれた治療)」「チーム医療下での屋根瓦方式教育指導体制」「総合医マインド」である。新医師臨床研修制度が始まって8年近くが経過し,眼目の1つであった初期研修での幅広い臨床能力の獲得はかなり実現されたと報告される。しかし,上記の4つの視点から辛口に眺めると,その達成は,なお道遠しの感を禁じ得ない。

 臨床推論(クリニカル・リーズニング)の修得(ラーニング)は,日々の診療現場の具体的症例を使って,幾人か以上の仲間でやるに限る。そして,その中心には優秀な診断医が欲しい。その優秀さが断トツな指導医として,私にとっては恩師のG. C.ウィリス先生や兄貴分のローレンス・ティアニー先生が挙げられるが,彼らとの合計25年間に及ぶ臨床的接触は,思い返しても身震いするくらいに心地よかった。その中核にクリニカル・リーズニング・ラーニングが光っている。しかし,自らの臨床現場でそんな快楽を味わえない者も多数いる。どうすればよいか。

 その回答の1つが,本書の味読だと断言できる。私は医学書の書評を頼まれる機会が割合多いが,ふつうは散読,通読までであり,本書ほど熟読したことは少ない。原著の第1版は1991年に出版されており,好評につき,同様の内容がThe New England Journal of Medicineの有名なClinical Problem-Solvingに引き継がれている。本書は,2010年出版の第2版の日本語訳である。

 構成は,第1部の総論と第2部の症例検討から成る。第1部の11章の章立てと第2部の章立てとは,それぞれ対応している。第1部のあちこちで難解な内容に遭遇するが,第2部を読んだ後の再読では若干なりとも理解が進むように工夫されている。第2部の69症例のほとんどで,実際の症例の断片的情報ごとに一人の卓越した臨床医が見解を披露し,最後に著者(たち)の分析が示される。診断や治療に関する主治医と論者の主張は,一致したり,まったく対立したりして,真に迫る。また共に間違っていることもあり,現実を映す。原著自体の生きた魅力である。

 では,本書の際立った魅力とは何か。単独訳であることに尽きる。しかも,とてもこなれた日本語で,医学論文の硬さが極端に少ない。昨今は西洋の古典文学の分野でもわかりやすい日本語新訳が登場し続けているが,この岩田訳は,その潮流にあるように感じられる。先生自身の大小の声も,訳者コメントとしてあちこちに掲げられ,誠にほほえましい。

 臨床にあいまいさは付き物である。それにどう対峙するかが,臨床推論の妙味である。完全な理論はまだないが,原著はそれに迫る。図や表や画像はほとんどなく,文字ばかりで歯ごたえは抜群だが,現代の名訳にて理解できた際の知的満足は何物にも代えがたい。4,830円は安い。

 本書の熟読を,医学生・研修医・指導医のあらゆる層に勧めたい。

A5変・頁442 定価4,830円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp

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