医学界新聞

2011.11.28

第107回日本精神神経学会開催


 第107回日本精神神経学会が,10月26-27日,ホテルグランパシフィックLE DAIBA,ホテル日航東京(東京都港区)にて三國雅彦会長(群馬大大学院)のもと開催された。東日本大震災の影響で延期の後,2日間に短縮しての開催となった本学会だが,「山の向こうに山有り,山また山――精神科における一層の専門性の追求」をテーマに,専門性を確立した質の高い精神科医療を志す参加者が多数集った。


シンポジウムのもよう

 近年社会的にも大きな注目を集める成人の広汎性発達障害(PDD)だが,その診断についてはいまだ手探りの状況が続く。シンポジウム「大人において広汎性発達障害をどう診断するか」(座長=奈良医大・飯田順三氏,北里大・宮岡等氏)では,PDDの特性を理解し診断の端緒とすべく,さまざまな観点から考察が試みられた。

「発達」を軸に,成長過程を考慮した診断を

 広沢正孝氏(順大)はPDDにおいて,発達の障害・性格類型・適応の障害・精神症状を総合判断することが,過剰診断や誤診を防ぐと説明。診断にて発達歴を確認する重要性を示した。また高機能PDD者の自己イメージを,格子型・タッチパネル型と表現。統合された一つの自己を持ちにくく,生活場面ごとに違うウィンドウを開いて生きるイメージを示し,その特性が性格類型や精神症状にも反映されると示唆した。

 田中哲氏(都立小児総合医療センター)は,成長に伴うPDD症状の変化について自験例における検討を提示した。青年期のPDD症状の変遷は多様だが,それぞれの心理的な成長過程を比較検討することで,社会性の障害を軸とした自我構造の変容過程が明らかになり,成人PDD者の“生きにくさ”の問題に通じると話した。

 井上勝夫氏(北里大)は,DSM(精神疾患の分類と診断の手引),ICD(国際疾病分類)での成人PDDの位置付けを考察。元来成人でのPDD診断は例外的であり,診断には,典型像の理解のためのカテゴリカルな観点と臨床像の評価のためのスペクトラムな観点,双方が必要だと強調した。また発達歴の詳細は不明だが,PDD特性が明らかならば,“probable” ASDと暫定的に診断し,早期に対応すべきと提案した。

 成人のPDDの正しい診断には,診察時の症状を診断基準に当てはめる横断的評価のみでは不十分だが,縦断的評価である発達歴の聴取が困難な場合も多い。太田豊作氏(奈良医大)は,統合失調症の病前IQを発病後に測定できるJapanese Adult Reading Testとウェクスラー成人知能検査の併用で横断/縦断双方からの評価を可能とし,IQ低下の有無からPDDと統合失調症を鑑別できる可能性を示唆した。

 最後に太田晴久氏(昭和大)が,PDDの生物学的指標に基づいた診断方法を提案した。氏は,視線計測装置やfunctional MRIを利用し,他者の目を見る時間の長さや,課題遂行時の脳活動から統合失調症とPDDとの鑑別を行う試みなどを紹介。複数の視標の活用,特異的な症状への注目,加齢により変化しにくい視標の探索,他の精神疾患との直接比較,などを生物学的診断実現のポイントに挙げた。

 その後の質疑応答では「診断をつけるメリットとデメリットを考慮すべきか」「専門職として就労しているPDD者をどうフォローしていくか」など,今後の検討課題が多数提示され,満員の会場を交えて熱心な討論がなされた。

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