第13回日本災害看護学会開催
2011.11.21
今,あらためて考える災害看護
第13回日本災害看護学会開催
第13回日本災害看護学会が9月9-10日に,浦田喜久子大会長(日本赤十字社)のもと大宮ソニックシティ(さいたま市)で開催された。本大会のテーマは,「災害看護の原点にたち未来を拓く――私たちは何のために,どのように在り,どこに向かうか」。3月11日に発生した東日本大震災を受け,本学会では災害看護の在り方を問い直す演題が並び,多くの参加者が詰め掛けた。
支援活動の経験知を共有
浦田喜久子大会長 |
「事前の対策が機能しなかった」と語ったのは,小野久恵氏(あおい訪問看護ステーション)。宮城県仙台市に位置する氏のステーションでは,地震に備え,かねてより災害対応マニュアルを作成し,避難訓練も実施してきたが,未曾有の大震災の前ではそれらの対策は機能しなかった。通信手段のまひ,ガソリン不足のほか,収容人数の過多を理由に避難所を転々と移動し,所在の確認がとれない利用者が出たり,災害時の連携を想定していた診療所が津波で流されたりする事態に直面した。氏は「大災害の前では個の力は無に等しい」と述べた上で,普段から在宅医,訪問看護師,保健師,ケアマネジャーなどと連携を深め,さらに行政の担当者,民生委員も加わった地域のネットワークを構築しておく必要性を訴えた。
建物の免震構造や内陸部という立地条件から津波の被害を免れた石巻赤十字病院は,震災後の宮城県石巻市で唯一機能した総合病院だ。同院の金愛子氏は,被災後の院内の状況を報告した。震災前,同院に搬送される救急患者数は1日当たり60人前後であったが,ピークに達した震災3日目には,1日で1251人もの救急患者が搬送されてきた。また,分娩件数の急増,医療圏内のすべての透析患者の受け入れ,入院治療の必要がない要介護者や避難民の受け入れなどの対応に追われたという。今後の課題として,災害対応時のマニュアルの見直しのほか,多忙を極めた看護管理者のメンタルケア,外部からの医療救援チームを受け入れるための体制づくりを挙げた。
花崎洋子氏(大船渡保健福祉環境センター)は,壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市において,県内外から派遣された支援保健師チームの統括を担った経験を報告した。同チームは,「健康・生活調査」として全戸訪問を行い,住民の健康・生活状況の確認,緊急性の高い要支援者の抽出,陸前高田市の保健医療福祉の復興計画立案の資料作成を行った。本調査の実施を通し,多くの住民が保健師に対して信頼を寄せていると実感したという。氏は,「普段からの住民とのかかわりが大切」と語った。
大規模災害発生時に日本災害看護学会が派遣している先遣隊は,現地で救援活動を行いながら,時間経過による健康問題や看護ニーズの変化の調査,現場のケア提供者に対するコンサルテーション,日看協,都道府県看護協会や被災地周辺の看護系大学など関係機関への情報提供を行い,支援体制づくりの橋渡し役を担っている。今回先遣隊として宮城県気仙沼市に派遣された黒田裕子氏(阪神高齢者・障害者支援ネットワーク)は,現地の避難所・在宅・仮設住宅で行った支援活動の模様を紹介。先遣隊活動を通して,日ごろから医療,看護,介護,行政で連携し,地域ぐるみで災害に対応する仕組みをつくることが重要と主張した。
井伊久美子氏(日看協)は,「災害時支援ネットワークシステム」について解説。大規模災害が発生した際,被災県看護協会の要請を受け,都道府県看護協会および日看協は,都道府県看護協会に「災害支援ナース」として登録している看護師の派遣を行っている。今回の支援活動から,災害支援ナースのさらなる活動強化と身分保障の充実,他の支援団体との連携の在り方などを本システムの課題として提示した。
連携の在り方を探る
特別企画「大規模災害時における災害看護の課題――連携に焦点を当てて」(座長=高知県立大・山田覚氏,兵庫県看護協会・大森綏子氏)では,東日本大震災における各団体の支援活動を振り返り,団体内・団体同士の連携の在り方について考察された。
日本災害看護学会ネットワーク活動委員会委員長を務める渡邊智恵氏(日赤広島看護大)は,同学会の先遣隊活動の役割を解説。東日本大震災後の活動を通し,先遣隊活動をその後の支援体制構築につなげるための連携,看護系大学や医療機関,学会など各関係機関との連携の強化や,先遣隊派遣体制など組織内部の連携の充実を今後の課題として提言した。
支援を受けた立場から支援団体との連携について発言したのは佃祥子氏(宮城県看護協会)。避難所や病院には多くの団体が支援に入ったが,各団体間の情報共有が困難だったため,個々の団体ごとに支援活動が完結してしまった点,患者に対して行ったケアや処置の記録が引き継がれていなかった点などを問題点として提示した。また,支援を受けた病院の看護管理者からは,新たな団体が支援に来るたびにオリエンテーションを行わなければならない負担の訴えや,どのタイミングでどこに向かって支援要請を行うべきかわからなかったとの声が聞かれたという。氏は行政の担当者と病院の看護管理者との連携の確立を課題として挙げた。
被災地に立ち,現地の保健医療のシステムをアセスメントし,支援展開を計画する現地コーディネーター。東日本大震災時に気仙沼市でその役割を担った石井美恵子氏(日看協)は,「災害時に真に問われるのは平時の看護実践能力」と述べ,他職種と連携を行うためには看護師として高い専門性を持つことが前提になると指摘した。氏は活動例として,宮城県看護協会の医療コーディネーターや他の支援団体と協議することで,要介護者がリハビリを行うことのできる福祉避難所を開設・運営した取り組みを紹介。「地域の保健福祉を充実させる役割は看護師に課せられている」と呼びかけた。
兵庫県看護協会の長谷川泰子氏は,同協会が関西広域連合(兵庫県を含めた2府6県で構成)の一員として石巻市と気仙沼市で行った災害支援の取り組みを紹介。同一組織によって災害支援ナースの派遣を行うことで継続的な看護支援が可能となり,現地の被災者の安心感や信頼感を生み,スタッフ間の情報共有,引き継ぎや連携も円滑になると評価。一方,課題として,現地コーディネーターや災害看護の学識経験者,専門・認定看護師の時期に応じた派遣,災害支援ナースの育成と促進などを挙げた。
総合討論では,個々の団体の支援活動の質の向上と同時に,それらの団体が統合・連携した形で,被災地の支援に当たることのできる仕組みをつくっていく必要性が確認された。
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