医学界新聞

寄稿

2011.11.14

【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
心房細動の抗凝固療法

【今回の回答者】小田倉 弘典(土橋内科医院院長)


 心房細動治療をめぐっては近年,「不整脈を治す」から「脳塞栓を予防する」へのシフトが潮流となっています。新規抗凝固薬の登場もあり,今やすべてのプライマリ・ケア医が身につけておくべき治療法と言っても過言ではありません。


■FAQ1

抗凝固療法を開始する際CHADS2スコアを参考にしていますが,リスクが比較的低い人(高血圧のみを有する場合など)の適応についていつも悩みます。最近は新しいリスクスコアもあると聞きましたが,現時点で抗凝固療法の適応についてどう考えたらよいのでしょうか?

リスクとベネフィットを常に比較して考える。

 CHADS2スコアは,心不全,高血圧,75歳以上,糖尿病を各1点,脳梗塞/TIAの既往を2点として脳梗塞リスクを層別化したものです。スコアが高くなるほど年間脳梗塞発症率が上昇。スコア2点では4%とハイリスクになり,この場合ワルファリンは日本や欧米のガイドラインにおいて推奨度クラスIに位置付けられています。しかしスコア1点の場合は,日本のガイドライン1)でも「考慮可」(ワルファリンの場合)とされており議論の多いところです(図1)。抗凝固薬は,降圧薬やスタチン製剤にはない本質的な問題,つまり「出血」という大きなリスクを有することがその背景にあります。

図1 心房細動における抗血栓療法
日本循環器学会「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」より

 抗凝固療法は塞栓予防のベネフィットが出血リスクを上回る限りにおいて適応となると考えられ,こうした視点からNet clinical benefit(リスクと比較した上でのベネフィット)という概念も提唱されています2)。ワルファリンのCHADS2スコアごとのNet clinical benefitを検討したところ,スコア1点以下ではワルファリンの有用性は示されませんでした(図2)。

図2 ワルファリンのCHADS2スコア別Net clinical benefit(文献2より)

 では,CHADS2スコア1点の場合をどのように考えればよいのでしょうか? 単純に点数だけにとらわれず,個別の患者ごとにきめ細かく対応することが必要です。ひとつの方法として,CHA2DS2-VAScスコアを用いることが考えられます。同スコアはCHADS2スコアに血管系疾患,65-74歳,女性が各1点として追加され,75歳以上が2点に変更されたものです。筆者は,CHADS2スコアが1点の場合,そのほかに「血管系疾患」「65歳以上」「女性」の1つ以上があれば抗凝固療法を考慮しています。また,例えば血圧や糖尿病,心不全がよくコントロールされている場合は,塞栓リスクをやや低く見積もることを考慮してもよいと思われます。

 さらに,出血リスクを患者ごとに評価する視点も大切です。その際HAS-BLEDスコア(高血圧,肝・腎機能障害,脳卒中,出血,INR管理不良,65歳超,薬剤/アルコール各1点)が参考になります。これらのリスクを多く有する場合は,ワルファリンの用量を低めに設定するといった配慮がされてもよいと思われます。筆者はHAS-BLEDスコアをむしろ「出血リスクを低く抑えるための努

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