医学界新聞

2011.11.14

消化器領域,最新の知が融合

第19回日本消化器関連学会週間開催


 第19回日本消化器関連学会週間(JDDW2011)が10月20-23日に,井廻道夫運営委員長(昭和大)のもと,福岡国際センター(福岡市),他3会場にて開催された。日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本肝臓学会,日本消化器外科学会,日本消化器がん検診学会,日本消化吸収学会の6学会が一堂に会して催されたJDDW2011では,消化器領域の最新のテーマについて学術交流が図られた。本紙では,C型肝炎治療と高齢者の消化器疾患治療をテーマとしたシンポジウムの一部を紹介する。


新規薬剤の登場によりC型肝炎治療はどう変わるか

井廻道夫運営委員長
 近年,C型肝炎治療薬の進歩は目覚ましく,特異的な抗ウイルス効果を持つプロテアーゼ阻害薬の臨床現場への導入,NS5A阻害薬やポリメラーゼ阻害薬の開発が進み,C型肝炎治療は新しい局面を迎えつつある。シンポジウム「C型肝炎治療の新たな展開」(司会=虎の門病院・熊田博光氏,金沢大大学院・金子周一氏)では,14人のシンポジストが登壇し,現在のC型肝炎治療が抱える課題,今後の治療の展望について議論が交わされた。

 今村道雄氏(広島大大学院)は,広島肝臓Study Groupにおいてペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリン(RBV)の併用療法を施行した症例の治療成績から,ヒト遺伝子IL28BおよびITPA遺伝子多型が治療効果に与える影響を述べ,プロテアーゼ阻害薬を加えた3剤併用療法について考察した。PEG-IFN/RBV併用療法後に再燃・無効が見られても,IL28B TTに該当する症例であれば3剤併用療法が高い治療効果を示すと氏は指摘。一方,IL28B TG/GGの症例で,さらに高齢,ウイルス量高値,Core70変異型に該当する場合は3剤併用療法でも治療効果は低いと推測した。また,副作用により貧血を生じやすいITPA CCに該当する症例であれば,ビタミンDの投与や今後開発される新規薬剤の利用など治療方法に工夫を加える必要があると語った。

 平松直樹氏(阪大)は,難治性C型肝炎に対するPEG-IFN/RBV併用療法の適応と限界について発言した。氏は,多施設共同臨床研究「OLF」で同療法を施行した症例を対象に,同療法の肝発がん抑制効果,再治療効果,ウイルス減少率およびIL28Bによる治療効果予測を検討項目として解析を行った。

 その結果から,高齢者や肝線維化進展例などの発がんリスクの高い症例ではPEG-IFN/RBV併用療法が第1選択であり,前治療で十分な効果が得られなかった症例,IL28B TG/GGの症例,PEG-IFN/RBV併用療法4週時点で効果が得られなかった症例はプロテアーゼ阻害薬を用いた3剤併用療法が効果的と言及。一方,発がんリスクの低い症例では,副作用による貧血や皮膚障害が懸念される場合,新規薬剤の導入を見据えた待機も考慮する必要があると述べた。

 狩野吉康氏(札幌厚生病院)は,IL28B genotype,C型肝炎ウイルスコアアミノ酸置換,血清IP-10を用いて,PEG-IFN/RBV併用療法およびPEG-IFN/RBVにプロテアーゼ阻害薬を加えた3剤併用療法の治療効果を規定する因子について検証した。PEG-IFN/RBV併用療法では,IL28B TGが治療抵抗性を示し,さらにCore70変異型,IP-10高値などの要因が加わることで抵抗性は高まるという。3剤併用療法においても同様の治療抵抗性が見られるが,プロテアーゼ阻害薬の作用により抵抗性は低下すると述べた。

 新規薬剤の治療効果について言及したのは鈴木文孝氏(虎の門病院)。氏は,日本で多く見られるC型肝炎ウイルスgenotype 1b型・高ウイルス量症例を対象に行った,PEG-IFN/RBVとNS5A阻害薬の3剤併用療法,およびプロテアーゼ阻害薬とNS5A阻害薬の併用療法の治療成績を報告。プロテアーゼ阻害薬,NS5A阻害薬に強力な抗C型肝炎ウイルス作用を認め,特に2剤の併用療法はウイルス側因子,宿主因子に関係なく治療効果があることを示した。

 総合討論では,プロテアーゼ阻害薬の導入に当たり,IL28B遺伝子検査の実施が推奨されることや,前回の治療効果の確認,貧血皮膚障害などの副作用を理解する必要があると確認された。

高齢者に対する適切な消化器疾患治療の在り方を考察

 ワークショップ「高齢者における消化器疾患の診断と治療」(司会=公立昭和病院・上西紀夫氏,帝京大・滝川一氏)では,19人のシンポジストが高齢者の各種消化器疾患の診断と治療について報告した。

 加藤元彦氏(阪大)は,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した後期高齢者早期胃がん症例の中長期予後について発言した。大阪ESD Study Groupに参加している12施設1262例の解析結果から,ESD施行後の75歳以上の患者の5年生存率は90%と良好,再発率についても74歳以下の患者との差は認められず,中長期的な観点からの有用性が示唆されたという。また,完全切除できた場合の術後フォローアップについても,74歳以下の患者と同様でよいとの見解を示した。

 JCOG9912やSPIRITSなど,日本で実施された進行胃がんに対する臨床試験では後期高齢者を対象から除いてきたことから,後期高齢者胃がんに対する化学療法の適応や効果,安全性は明らかではない。愛知がんセンター中央病院の高張大亮氏は,同院にて初回化学療法を開始した進行再発胃がん症例を74歳以下群と75歳以上群の2群に分け,その治療効果を比較した。その結果,主要臓器の機能や合併症について十分な評価が必要ながらも,74歳以下群と同様の化学療法によって75歳以上群に延命効果があると示唆されたことから,後期高齢者に対する胃がん化学療法に特別な措置は不要と主張した。

 80歳以上の高齢者の肝細胞がんに対する分子標的薬ソラフェニブ単独治療の治療効果と安全性について言及したのは加藤知爾氏(武蔵野赤十字病院)。ソラフェニブを400 mg/日に減量して投与を行った80歳以上の患者では,通常投与(800 mg/日)を行った80歳未満の患者と比較し,治療期間における投与方法や投与期間,治療効果,下痢や肝障害など有害事象の頻度や副作用の重篤度にも有意な差は見られなかったとして,80歳以上の高齢患者に対するソラフェニブ半量投与の有用性を訴えた。

 「IPMN/MCN国際診療ガイドライン」により,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の診断指針が示されたが,緩徐な進行を来すことや手術侵襲が大きいことを考慮すると,65歳以上のIPMN患者に対してもガイドライン通りの治療を選択すべきかは検討の余地がある。深澤光晴氏(山梨大病院)は,ガイドラインの手術適応は陽性的中率が低く,特に高齢者では過大手術となる可能性があると述べた上で,(1)主膵管型および結節高10 mm以上の分枝型は浸潤癌に移行するおそれがあるために手術適応,(2)結節高5-10 mmの分枝型は比較的長期の予後が望めることから,それぞれの患者の全身状態に応じて治療法を選択,(3)結節高5 mm未満の分枝型は経過観察,との治療方針案を提言した。

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