FAQ 血液透析患者のマネジメント(門川俊明)
寄稿
2011.11.07
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
血液透析患者のマネジメント
【今回の回答者】門川俊明(慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター講師)
透析患者数は年々増えており,透析にかかわらない診療科をローテーションしていても,透析患者を受け持つ機会は多くなっています。レジデントは,自分で血液透析ができなくとも,血液透析患者を診る力,マネジメントする力は必要なのです。今回は,血液透析患者を受け持っているとよく遭遇するプロブレムのマネジメントについて解説します。
■FAQ1
維持血液透析患者が造影剤を使った検査を受けた場合は,次回の血液透析まで待たず,直ちに透析を行うべきでしょうか。
“原則的”には,「造影剤を抜くための血液透析」は必要なし
以前は,維持血液透析患者が造影CTや心臓カテーテル検査などの造影剤を使用した検査を受けた場合,造影剤を除去するため,検査直後に血液透析を施行することがよくありました。これは,高浸透圧性造影剤が主流であった時代に,造影剤使用後に見られたうっ血性心不全の発症を防ぐために施行していたものが習慣化したのだと考えられます。しかし,現在は低浸透圧性造影剤が使用されるようになっています。また,造影剤も少量で済むようになりました。以上のことから,「造影剤使用後に行う造影剤を抜くための血液透析」は原則的には必要ないと考えられます。
ここで「原則的」としたのは,原病や造影剤の使用量によっては,まれに透析が必要になることもあるからです。では,どれぐらいの量の造影剤を使用したときに「多い」と判断し,緊急透析を実施すればよいのでしょうか? Younathanら1)は,225 mLまでの造影剤使用量では,緊急透析を必要とした患者はいなかったと報告しています。このことからも冠動脈インターベンションを除けば,ほとんどの検査では透析が不要となります。造影剤の使用量が多いケース(目安は200 mL以上)では,心不全の出現,悪心嘔吐の有無によって,緊急透析の実施が必要かを考えるとよいでしょう。なお,冠動脈インターベンション実施直後は不整脈や低血圧などが出現することがありますし,また血液透析の実施自体が合併症を誘発する原因になり得ます。リスクとベネフィットを踏まえて判断しなければなりません。
Answer…「造影剤使用後に行う造影剤を抜くための血液透析」は,原則的には必要ありません。しかし,原病や造影剤の使用量によっては緊急透析が必要になる場合があります。
■FAQ2
血液透析患者に対する糖尿病のマネジメントについて教えてください。
低血糖の出現に注意する
腎機能障害の進行に伴い,腎臓の糖新生障害,インスリンの代謝排泄の低下が起き,血糖のコントロールが良くなることが一般的です。ですから,腎機能障害者では,むしろ低血糖の出現に注意が必要です。
血液透析患者においては,HbA1cが血糖コントロールの状態を正確に反映しません。血液透析患者では,エリスロポエチン製剤の投与による,幼若赤血球の割合の増加および赤血球寿命の短縮や,透析療法で生じる残血による失血の影響で,HbA1cの値が低くなる傾向があります。したがって,HbA1cが低いと思って安心していても,実は糖尿病そのものの状態は決して良くないということがあります。
そこで,HbA1cの代わりになる中長期的な血糖コントロールの指標として,過去2週間の血糖コントロールを反映するGA(グリコアルブミン)をお勧めします。GAは赤血球寿命短縮の影響を受けないため,HbA1cより優れています。血液透析患者における血糖の管理目標として,GAをどのくらいの値に設定すべきかはガイドラインではまだ示されていませんが,耐糖能正常者のGAの基準値11-16%を参考にするとよいでしょう。
血液透析患者の中等度以上の糖尿病では,インスリンの使用が原則です。しかし,視力障害や高齢者の一人暮らしなど,身体的・社会的な理由でインスリン治療が行えない患者もおり,その場合は経口糖尿病治療薬を使用することになります。
血液透析患者の経口糖尿病治療薬の適応を表1にまとめました。SU系,ビグアナイド系,チアゾリジン誘導体は禁忌で,α-グルコシダーゼ阻害薬が慎重投与で使用可能です。また,即効型インスリン分泌促進薬とDPP-4阻害薬には,一部使用できる薬剤があります。しかし,使用が可能な薬剤であっても,十分な臨床例での安全性が確立しているわけではありません。低血糖に十分注意して使用することが大切です。
表1 血液透析患者の経口糖尿病治療薬の適応 |
Answer…血液透析患者の糖尿病のマネジメントでは,まず低血糖に注意。経口糖尿病治療薬を投与する際は,適応を理解する必要があります。
■FAQ3
血液透析患者へのMRSA治療のための抗菌薬の投与方法について教えてください。
薬剤の特性を理解した上で,投与量・間隔を調整する
免疫力の低下している血液透析患者では,MRSA感染症の頻度は高く,重要な問題です。しかし,MRSAの治療に使われる抗菌薬は,血液透析患者に投与する際には,PK(Pharmacokinetics)/PD(Pharmacodynamics)理論的な観点から投与量や投与間隔を調整する必要があり,難しいものです。
MRSAに対して使用される抗菌薬には,バンコマイシン塩酸塩(VCM,塩酸バンコマイシン(R)),テイコプラニン(TEIC,タゴシッド(R)),リネゾリド(LZD,ザイボックス(R))などがあります。VCM,TEICは腎排泄性薬剤なので,投与量の大幅な減量調整を行う必要がありますが,LZDは腎排泄性薬剤ではない(広範な組織での非酵素的酸化反応という特殊な代謝を受ける薬)ので,減量は不要です。
また,VCMとTEICはよく似たグリコペプチド系の抗菌薬ですが,透析性が異なります。VCMは透析膜の種類によって透析性が変わり,ハイパフォーマンス膜では50%程度が除去されますが,標準のダイアライザ膜では透析性は低くなります。一方,TEICはハイパフォーマンス膜でもほとんど除去されません。さらに,VCMとTEICは,治療域と中毒域が近接しているので,血中濃度をモニターしながら使用することが勧められます。
VCMとTEICの血液透析患者への投与方法は表2にまとめましたので,ご参照ください。
表2 VCM・TEIC の血液透析患者への投与方法 |
Answer…薬剤の特性を理解し,PK/PD理論的な観点から投与量・投与間隔を調整しましょう。
■もう一言
血液透析患者へ投薬する場合には,その薬剤の「代謝排泄経路を考える」「透析性」「血液透析患者特有の副作用の有無」の3つを考えることが大切です。
参考文献
1)Younathan CM, et al. Dialysis is not indicated immediately after administration of nonionic contrast agents in patients with end-stage renal disease treated by maintenance dialysis. AJR Am J Roentgenol. 1994 ; 163 : 969-71.
門川俊明
Profile/1991年慶大医学部卒。同大内科学教室入局。同大医学研究科博士課程修了。米国ワシントン大腎臓内科に留学。2010年より現職。医学教育を専門とするとともに,腎臓再生の研究,腎臓内科,血液透析の臨床を行っている。『レジデントのための血液透析患者マネジメント』(医学書院),『研究留学術』(医歯薬出版)など,編著者多数。研究留学ネットを主宰。
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