医学界新聞

2011.10.17

第28回日本医学会総会特別企画開催


 「第28回日本医学会総会特別企画」が9月17-18日,東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催された。これは,3月11日の東日本大震災発生による同総会開催形態の大幅な見直しを受けて企画されたもの。今回の震災で注目された(1)「放射線被ばく医療」,(2)「震災後の地域社会と医療」,(3)「医療と情報」の3課題については新たにプログラムが組まれた。本紙では,(2)のシンポジウム(座長=福島医大・丹羽真一氏,東大大学院・小林廉毅氏)の模様を報告する。


 最初に登壇した坂田清美氏(岩手医大)は,今回の震災と阪神・淡路大震災との相違点として,行政機能の喪失を指摘。岩手県大槌町においては,町長含む自治体職員の3割が死亡し,町役場庁舎も破壊されたことを例示した。また,被災者の健康管理と今後の災害対策立案への活用を目的に実施された厚生労働科学特別研究「東日本大震災被災者の健康状態に関する調査」の概要を報告。当面の課題として,将来への不安に伴ううつ病発症や自殺,仮設住宅における高齢者の不活発病の防止などを挙げた。

HELPがないのがHELPサイン

シンポジウム「震災後の地域社会と医療」
 石巻赤十字病院は石巻医療圏唯一の災害拠点病院だが,震災当日の来院患者は想定より少なく,2日目以降に患者が急増した。同院の石井正氏は,「救急隊の大半が被災したのが一因であり,その情報が即座に伝われば自衛隊ヘリなどの代替輸送手段を検討できたはず」と分析。現状の情報システムには限界があり,「"被災地の情報がないからわからない"ではなく,"HELPがないのがHELPサイン"と考えるべき」と,政府による速やかな救護活動の必要性を訴えた。また,さまざまな組織から派遣される医療チームの統制など医療資源の効率的運用が課題となるなか,石巻圏では「石巻圏合同救護チーム」を立ち上げたという。以後はすべての組織が同チームに参加登録する一方で,実際の活動に当たっては14のエリアごとに幹事を置く,「地方自治的な運営を行った」と述べた。

 石巻を含む被災地の医療支援で大きな役割を果たしたのが,東北大病院だ。同院では,煩雑な手続きなしで入院患者を受け入れる体制を敷いたほか,4か月間で延べ2000人以上の医療スタッフを,全国から届いた物資とともに県内外の医療機関へ派遣。院長の里見進氏は,「最前線の病院が疲弊しないよう,支援体制を早期に整えることができた」と振り返った。また,県や東北大,医師会などで構成する「宮城県地域医療復興検討会議」による医療体制再建の取り組みを紹介。当座の医療を維持するための公的仮設診療所の設置や派遣スタッフの確保,民間診療所の再開支援などの整備を進めていることを明らかにした。

 今回の震災では,カルテなどの患者情報を喪失した医療機関が多数発生した。こうした情報喪失への対処として注目されるのが,支払基金や国保連が保管する診療報酬明細書(レセプト)の活用だ。谷原真一氏(福岡大)は,被災地の国保連に対してレセプト情報の照会が行われた事例を分析した結果,慢性疾患を有する被災者への医療支援(個人の薬歴情報等),被災後中長期における被災医療機関再建(地域医療需要の基礎情報等)の双方において活用されたと総括。「レセプトデータは全国統一規格で電子化された情報が分散保持されており,今後の災害医療支援への応用可能性は非常に高い」と結論付けた。

 最後に登壇した丹羽氏は,避難所の巡回と支援者のケア,保健所や保育園での相談など,「福島医大こころのケアチーム」の活動内容に関して,事例を交えつつ紹介した。また,こころのケアの課題としては,精神疾患患者の治療の継続,震災・原発事故によって発生するPTSDやアルコール依存への早期介入などを挙げ,地域のつながりや生活の再建を基本にした枠組みが重要であるとの見解を示した。

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