医学界新聞

2011.10.10

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


個人授業 心電図・不整脈
ホルター心電図でひもとく循環器診療

永井 良三 監修
杉山 裕章 執筆
今井 靖,前田 恵理子 執筆協力

《評 者》村川 裕二(帝京大溝口病院教授・第四内科)

さまざまな魅力の詰まったフトコロの深い名著

 つまらない本の書評を書くときは,披露宴で「人並みでもない新郎」を秀才と褒めるのと同じ努力を求められる。本書のかわいい表紙を眺めて,そんなことを思った。ベテラン医師が新米医師とやりとりして何かを学ぶ,よくあるタイプの本だ。

 ところが,二人の「ボケと突っ込み」は肩の力が抜けて,引き込む魅力がある。「なるほど,なるほど」などと相づちを繰り返すところなど笑える。書評を書くだけならパラパラめくれば話は済むだろうに,うっかり最初から最後まで読んでしまった。ムム,お見それしました。以下にそのワケを述べる。

 その1:今どきはやらぬ「ホルター心電図」という言葉を書名に入れて読者を油断させている。「ジミで退屈な雰囲気」を装いながら,トリックがある。副題の"ホルター心電図でひもとく循環器診療"が答えなのだが,ホルター心電図にこだわらず,何でもかんでも行き当たりばったりで,料理しまくっている。「思いつくまま書きました」という雰囲気が楽しい。

 CARTOシステムで描いたカラフルな三次元マッピングは,ホルター心電図のテキストにはたぶん初参入。さらに,トライアルのグラフ,カテーテル・アブレーションのときの透視像,肺静脈の病理とくれば欲張りにもほどがある。ともあれ,心電図そのものを勉強してもしようがない。心電図は最初に開くドアだが,ドアの勉強ばかりではつまらない。それはトステムに任せるべきだ。心電図波形に閉じ込もらないところが魅力の1。

 その2:AVRTとAVNRTの判別について,心拍数から"アタリをつける"といった表現は面白い。ホルター心電図と運動負荷試験の"虚血性心疾患検出の感度,特異度の比較"も興味深い。基本的な臨床情報を小難しいこと抜きでスパッとまとめている。そろそろ終わりかと思えば,ゲノム解析の意義にまで手を広げている。遺伝子多型の話をワルファリンの効果の個体差と関連付けているところまで読んで,「いったい何の本?」と思ってしまった。どういう情報が面白いか,ネタの選び方が魅力の2。

 その3:自分の頭でメッセージを考えている。自分の頭で考えることをやめて,ひたすら文献で武装した本が多い。ワクワクしないし,人間くさくなくて,寂しい。本書は誰も参考にすることのない文献を300個並べるなどというやぼなことはしていない。自分で考えて,自分でしゃべっている。ホルター心電図のレポートをどう書くか,どこまで書くか,初学者が引っかかるさまつなことまで,親切に教えてくれる。著者はしつこくも親切な性格なのだろうか。面倒見がよくて,後輩に教えるのが嫌いではないのだろう。かくして,懇切,親切が魅力の3。

 まとめ:天衣無縫に好きなことを書きまくったら,フトコロの深い本が出来上がった。外見と語り口はやさしくしてあるが,見た目より読者を選ぶ。他のホルター心電図の本が色あせて見える名著。

B5・頁344 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01335-2


臨床心臓構造学
不整脈診療に役立つ心臓解剖

井川 修 著

《評 者》副島 京子(川崎市立多摩病院・循環器科/聖マリアンナ医大講師)

不整脈学の基礎と臨床の懸け橋となる一冊

 規則正しく一日10万回も拍動し効率的に循環をつかさどる心臓は,勉強すればするほど奥の深い臓器です。その発生,解剖,不整脈の機序などを学ぶほどに興味と愛情が増し,自分が循環器医であることに喜びを感じます。井川修先生による『臨床心臓構造学』は,先生が長年培ってこられた心臓への愛情,不整脈への愛情,そして患者さんへの愛情の集大成だと思います。先生の持っている構造学,不整脈学への情熱がひしひしと伝わってきます。

 今まで,ほとんどの不整脈を専門とする医師はAnderson/Becker,Netterなどの解剖学者による教科書を参考にしていたと思いますが,本の知識を臨床へ応用するのは個々の読者にゆだねられていました。つまり,内容を理解して応用できるかは読者の力量次第だったと思います。

 この本では井川先生が基礎と臨床の懸け橋となり,臨床医にも非常にわかりやすく,即時に臨床応用できるような解説がされています。不整脈のカテーテル治療を専門とうたう医師は世界中に多いのですが,井川先生ほど,心臓の解剖から機序,治療のためのテクニックを知り尽くした上で,わかりやすく解説できる医師はいないでしょう。

 総論で先生が,"循環器疾患を考える場合,「心臓構造・解剖」の窓を通してそれを見ると,「成因・病態・治療」について新しい方向からその内容を考えることができる。「心臓構造・解剖」への理解は,「心臓形態の形成過程」をたどることでさらに深まるが,可能であればその作業を3次元的に行うと,「完成した心臓構造・解剖」への認識がさらに踏み込んだものとなる"と,述べておられるとおりだと思います。漁で大海を航海するのには地図がとても重要です。さらに漁を効率よくするためには,高性能の魚群探知機が必要でしょう。この本はまさに"最新フル装備を備えた船"のようなものです。不整脈の機序の理解,カテーテル操作の工夫,合併症予防のための注意点など,臨床医が知らなくてはならないことが満載されています。

 これから不整脈を学ぶ医師,不整脈治療を既に行っているすべての臨床医がこの素晴らしい本から学ぶものは数えきれず,不整脈医必携の本であると思います。そして,今後のさらなる不整脈治療の発展の大きなきっかけになると確信しています。日本だけにとどまらず,今後ぜひ英訳され,海外の医師にも役立つような本になることを祈念します。

B5・頁184 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01121-1


イラストレイテッド 脳腫瘍外科学

河本 圭司,本郷 一博,栗栖 薫 編

《評 者》吉田 純(名大名誉教授/中部ろうさい病院院長)

若い脳神経外科医の入門書として最適

 脳腫瘍は脳神経外科において重要な分野であり,テーマである。そしてその医療の質と内容は,近年の生命科学,情報科学,そして科学技術の進歩により,大きく変貌・発展してきた。特に病態解明や診断においては,分子生物学,遺伝子工学,そして画像工学が大きな役割を果たしてきた。一方治療においては,19世紀に欧米で開発された近代脳神経外科より現在に至るまで,中心は外科手術である。そして現在の主流は顕微鏡手術,内視鏡手術および最近導入されてきたナビゲーションとモニタリングを用いた画像誘導手術となっている。

 そのような中,脳腫瘍手術の最前線で活躍されている63名の脳神経外科医が分担執筆され,河本圭司・本郷一博・栗栖薫先生により編集された『イラストレイテッド脳腫瘍外科学』が,医学書院より出版された。

 本書を手にとってみて,私の大先輩である杉田虔一郎教授が発刊され,世界中でロングセラーとなった脳外科手術のバイブル『Microneurosurgical Atlas』を思い浮かべた。先生はすべての手術にあたり,術直後,教授室にて術中思い描いた術野のスケッチを絵具で描いていた。そして弟子達に"手術は技術ではなく,アートだ"と教え,Atlasの中の絵図には先生自身が手術した脳動脈瘤や脳腫瘍の一例一例で開発・発展させた術式が描かれていた。

 本書も,熟練した脳神経外科医が執刀した脳腫瘍手術において,術者が術中に思い描いた術式をイラストレイテッドした絵図を中心にまとめられている。本書は大きく「A. 術前」「B. 術中」「C. 脳腫瘍の手術」「D. その他の治療法」の4つに章立てされており,本書の中心となる「脳腫瘍の手術」の章では,前半は脳腫瘍手術の総論として,体位,開頭,アプローチ,顕微鏡・手術器具の使い方について現在の標準的術式,ならびに最近注目されている新手術法が紹介されている。そして後半には各論として,腫瘍型ごとの症例について,術前のMRI画像,術中写真,そして使用する手術器具とともに,イラストレイテッドされた術式を紹介している。また,局所解剖,適応,アプローチ,手術法そして術後管理について,豊富な手術経験に基づく適切な説明文が書き加えられている。

 編者らは本書を"脳腫瘍外科学"と称し,単なる手術書ではなく,脳腫瘍の外科を学問ととらえ,その全般的な知識を解説した書と位置付けているが,私も同感であり,本書は若い脳神経外科医の入門書として最適であるとともに,熟練した脳神経外科医に対しても術前の確認書として有益な本であると思う。多くの先生方の手元に置かれ,親しまれる本になることを期待している。

A4・頁272 定価16,800円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01104-4


《看護ワンテーマBOOK》
成果の上がる口腔ケア

岸本 裕充 編著

《評 者》松村 真司(松村医院院長)

口腔ケアの標準的手順と連携強化の手引書

 駆け出しのころ,指導医の青木誠先生(前国立病院機構東埼玉病院院長)に「松村君,糖尿病だろうが肺炎だろうがとにかく口の中を診ることは大事だよ」と口腔内の観察の重要性を常に教えられた。そのころの私はその言葉の本当の意味を理解していなかったように思う。時は流れ一家庭医になった今,特に在宅診療で多くの虚弱高齢者を診察するようになり,歯科治療および口腔ケアの効果を心から実感できるようになった。口腔ケアにより合併症が減り,栄養状態が改善する。何より,「口から食べる」ことによって患者や患者家族の表情は驚くほど豊かになっていく。地域で暮らす高齢者が劇的に増えている現在,適切な口腔ケアを行うことの重要性はかつてないくらい高まっている。

 一方,実際に行われている口腔ケアについては,その技量には大きな差異があるとのことである。もちろん人間の行うことなので,個人によって技量に違いがあるのは避けられないであろう。しかしその結果,口腔内の衛生環境に差異が出て,ひいては歯科疾患が進行し,そしてそれが全身状態へと影響を与えるのであれば,口腔ケアを行う医療者としては,その技術を一定の水準に保つ責任があるはずである。

 そんな中,兵庫医科大学・岸本裕充先生による口腔ケアの手順の解説書『成果の上がる口腔ケア』が上梓された。タイトルが示しているように,本書は,ルーチンワークとしての口腔ケアではなく,「成果が上がる」,すなわち「患者を良くする」ための口腔ケアをめざしている。その思想のもと,最新のオーラルマネジメントの考え方に基づいた口腔ケアの手順が,多くの図表とカラー写真によって公開されている。

 第一章では「やるべきこと」とともに「やらなくていいこと」,すなわち過剰なケア,無駄なケアについて記されている。限られた時間の中で「必要なことのみ行って」口腔ケアの効果を高めようという岸本先生の思想がここに現れている。第二章では,具体的な口腔ケアの手順が6つに整理され,さらには「口が開かない」「気管チューブが邪魔」などの,よく経験するトラブルへの対応方法が簡潔に記されている。第三章では,誤嚥性肺炎,がん治療中,妊産婦など,患者の背景別にケアを行う上で注意すべき点についてまとめられている。本書を通読することで,これまでの口腔ケアの知識はより整理され,そして本書の手順を会得することで,口腔ケアの成果をより実感できるようになるであろう。

 本書で岸本先生が提案されているように,まず標準的な口腔ケアの手順を確立し,次にその有効性を検証するこ...

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