医学界新聞

インタビュー

2011.10.10

総合診療誌『JIM』(2011年10月号)より
優れた診断医はどう育つか?

ローレンス・ティアニー氏(カリフォルニア大学 サンフランシスコ校内科学教授)
岩田健太郎氏(神戸大学医学部感染症内科教授)


 「診断の神様」と呼ばれ,世界で最も優れた臨床医の一人であるローレンス・ティアニー氏。氏はまた優れた教育者であり,病歴と身体所見から鑑別診断をもれなく挙げ,診断を絞り込んでいく講義は,世界中の教育病院で賞賛されている。総合診療誌『JIM』では,本邦で名指導医として知られる岩田健太郎氏を聞き手に迎え,「優れた診断医の育成」をテーマにティアニー氏へのインタビューを実施した。本紙ではそのもようを抜粋して紹介する[インタビュー全文は『JIM』誌(Vol.21 No.10-11)に掲載]。


岩田 まずお聞きしたいのですが,どのような成長過程を経て,今日のティアニー先生があるのでしょうか。先生のような優れた診断医はどのようにして育ったのでしょう。

ティアニー 私は米国東部,コネティカットに生まれ育ちました。父は一般診療医として開業しており,仕事場は自宅にあり,私は毎日父のしていることを目にしていました。父は50年間ひとりで診療しており,往診,分娩,麻酔,整形外科,X線検査,それらすべてを行っていました。ですから私は自然とその方面に惹きつけられ,そうするのが自分の生活だろうと感じていたのです。ただ,心のなかでは,どうして自分は医学部に行くのかと,自問することもありました。

 大学では音楽を専攻しました。というのはバランスを取るにはそれが大切だと感じていたからでしょう。言い換えれば良い医者になるには,科学以外のことも知らないといけないと感じていたのです。

徹底的な自己鍛錬を決意

ティアニー 正直に言いますが,私は成績の良い学生ではありませんでした。言うならば「並の学生」でした。ただ,イェール大学にいたこともあり,医学部に進むことができました。ですが,私は医学部では臆病な学生だったと思います。

岩田 臆病とは?

ティアニー つまり自分の学びが危ういものだと思っていました。自分のやっていることを十分に理解していなければ,患者に危害が及ぶと思っていましたし,実際,私は自分がやっていることをよくわかっていませんでした。

 そこで私は研修医のときに,これから一定期間,医学以外のすべてのことを自分の生活から排除する,そして自分を鍛え,つまり肉体的にも過酷なプログラムを選択し,可能な限りきつい仕事をすると決心したのです。休日はもちろんなく,週当たり約100時間働いたものです。そして1年半後,ついにその目標に到達したと悟りました。その後,私のなかに「医師としての自信」が生まれ,以後私を支える基盤となりました。

 また,私は医学部での経験から,自分は医学生を教育できる立場にいようと思いました。医学生に自分の思いを伝えたいという気持ちを持っていたのです。もちろん臨床医学においては,患者のケアが第一です。しかし私にとっては51%が患者のケア,49%が医学生の教育でした。そして,初めて指導医という立場を得たときには,「自分は教育できる」自信があったことを覚えています。

幅広い関心が良医を育む

ティアニー もう一つお話ししたいのは,さまざまなものへ「関心」を持つことです。私はロックコンサートに行ったり,あらゆる文化・習慣,米国の歴史,ポップカルチャーなどに関するたくさんの読書をします。もし,みなさんが私を良医だと思ってくださっているのなら,私はそれらの行為が良い医師を育むのに必要だと思っています。

 ところでモーツァルトは,日本でも人気が高い作曲家だと思いますが。

岩田 その通りです。

ティアニー 大学で音楽を学んでいたときに,私はモーツァルトがほかの作曲家のスタイルを取り込みながら多くの作品を完成した...

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