甲状腺機能検査 甲状腺ホルモンFT4・FT3―甲状腺刺激ホルモン(TSH)(前川真人)
連載
2011.09.12
学ぼう!! 検査の使い分け 【シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)】 | |
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。 | |
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前川 真人(浜松医科大学教授・臨床検査医学) |
(前回からつづく)
甲状腺ホルモンFT4・FT3と甲状腺刺激ホルモン(TSH)は,ともに甲状腺疾患スクリーニングの軸となる検査です。甲状腺機能の異常をみた場合,視床下部-下垂体-甲状腺系のどこに異常の原因があるかを突き止めることが,鑑別診断の第一歩となります。今回は,甲状腺疾患スクリーニングにおけるこれらの検査の考え方を押さえます。
甲状腺機能をめぐる役者たち
血中ヨードはヨードトランスポーターにより甲状腺内に能動輸送され,サイログロブリンに組み込まれることで,モノヨードチロシン(MIT)やジヨードチロシン(DIT)となります。このMITとDITが結合したものがT3(トリヨードサイロニン),DIT同士が結合したものがT4(サイロキシン)です。生体内ではT4はプロホルモンとなり,T3が生物活性を発揮します。血中T4・T3の大部分は血漿蛋白(グロブリン,トランスサイレチン,アルブミン)に結合して循環します。しかし,甲状腺ホルモンとして作用を発揮するのは蛋白質に結合していない遊離型(FT4・FT3)だけで,FT4はT4の0.03%程度,FT3はT3の0.3%程度です。
甲状腺機能は視床下部-下垂体-甲状腺系により調節されています。下垂体前葉から分泌されるTSHが,甲状腺のTSH受容体を介して甲状腺ホルモンの合成・分泌に作用します。TSH分泌は,視床下部由来の甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)により亢進し,甲状腺ホルモンによるネガティブフィードバックで抑制されます。
以上の役者のうち,TSH(基準範囲:0.5~5.0 μU/mL),FT4(0.9~1.6 ng/dL),FT3(2.3~4.0 pg/mL)は甲状腺疾患のスクリーニングで測定されます。日本甲状腺学会が提唱しているバセドウ病の診断ガイドラインでは,
(1)FT4,FT3のいずれか/両方高値
(2)TSH低値(0.1 μU/mL以下)
(3)抗TSH受容体抗体(TRAb,TBII)陽性,または刺激抗体(TSAb)陽性
(4)放射線ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値,シンチグラフィでび慢性が掲げられています。
なお原発性甲状腺機能低下症は,FT4低値およびTSH高値から診断されますが,ガイドラインの付記に
(1)慢性甲状腺炎(橋本病)が原因の場合,抗マイクロゾーム(または抗甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体または抗サイログロブリン抗体陽性
(2)阻害型抗TSH受容体抗体により発生することがある
(3)コレステロール高値,CK高値を示すことが多い
(4)出産後やヨード摂取過多などの場合,一過性甲状腺機能低下症の可能性が高い
とあるように,甲状腺関連の自己抗体検査も確定診断に有用です。
甲状腺機能検査を行うとき
甲状腺機能検査は,甲状腺中毒症(ホルモン過剰)を疑う症状(頻脈・動悸,やせ,発汗増加,手指振戦,眼球突出など),甲状腺ホルモン欠乏を疑う症状(体重増加,寒がり,易疲労感など)がみられたとき,また甲状腺の腫大・結節を認めたときに経過観察目的で実施します。
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症例1は,体重減少や頻脈などの症状,特徴的な甲状腺所見から甲状腺機能亢進症が疑われます。FT4,FT3高値でTSH低値の甲状腺中毒所見に加え,TSH受容体抗体陽性で,バセドウ病の診断基準を満たしています。TC低下,ALP上昇も甲状腺機能亢進症として矛盾しません。
症例2は,眼瞼浮腫や脱毛,話し方の緩慢などの臨床症状,FT4,FT3低値およびTSH高値であることから,原発性甲状腺機能低下症と考えられます。特に,抗サイログロブリン抗体が陽性であり,慢性甲状腺炎(橋本病)が考えられます。TC高値,CK高値も妥当なデータです。海藻類の過剰摂取は大量のヨード摂取負荷を意味します。このような大量のヨード投与により甲状腺におけるヨウ化物イオンの取り込みが著明に抑制することが知られており(ウォルフ-チャイコフ効果),結果として甲状腺機能低下症状を増悪させることになりました。
症例3は,症例1と同様に甲状腺中毒症状(FT4高値,TSH低値)を呈していますが,上気道感染の前駆症状を伴って発症している有痛性の甲状腺腫が特徴であり,炎症性検査所見から,亜急性甲状腺炎と診断されます。本症はバセドウ病と異なり,甲状腺細胞の破壊による血中へのホルモン流出で中毒症状が起こっており,細胞の破壊を反映してサイログロブリンが高値となります。バセドウ病に特徴的な抗TSH受容体抗体は陰性です。流出したホルモンが消費されればホルモン値は自然経過で低下しますが,破壊された甲状腺細胞が再構築される間,今度はホルモン欠乏となりやすくなります。
まとめ
甲状腺疾患の検査は,TSHと甲状腺ホルモンFT4・FT3を軸として行われており,まずはこれらで甲状腺機能異常の原因が甲状腺,下垂体,視床下部のどこにあるか,スクリーニングができます。その後,各疾患特有の自己抗体の検査などを行い,鑑別を進めていくのが基本ですので,それぞれの検査の特徴を把握しオーダーしていくことが大切です。
ショートコラムバセドウ病や橋本病は,自己免疫が本態であることが近年わかってきたため,それらの自己抗体を測定することで鑑別ができます。バセドウ病では,TSH受容体抗体(TRAb;甲状腺ホルモン産生を亢進させる刺激性抗体)が産生されています。このTRAbが直接甲状腺細胞膜上のTSH受容体に結合して刺激するため,甲状腺ホルモンが過剰に分泌され続け,ネガティブフィードバックにより血中TSHは抑制され極端な低値となるわけです。一方,橋本病では,抗サイログロブリン抗体(TgAb)や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)が甲状腺を破壊することで,一時的に甲状腺機能亢進症の状態になることはあっても,徐々に機能低下に陥ります。 |
(つづく)
参考文献
1)甲状腺疾患診断ガイドライン2010,日本甲状腺学会.
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