医学界新聞

寄稿

2011.09.12

interview

八重樫牧人氏(亀田総合病院 総合診療・感染症科部長)に聞く


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知識・実践・フィードバックで“良い医師”を育てる

――研修を取材し,“現場重視”の姿勢が強く印象に残りました。

八重樫 「患者さんの抱える問題を解決する能力を身につける」ために最も効果的な方法は,現場で実際に患者さんを診察し,それが適切だったかフィードバックを受けることです。

 スキーを例にとると,いくらDVDでイメージトレーニングをしても,実際にスキー場に行かなくては滑ることは難しいでしょう。また正しい滑り方を教わらなければ,自己流の癖ばかりが身につきそれほど上達しないかもしれません。医師の育成も同じで,「知識・実践・フィードバック」の3要素が効果的な研修には必要です。臨床現場での実践を通じ,良いところは褒めて伸ばし,悪いところは直されて初めて,きちんと患者さんを診ることができる医師になれると考えています。

――ただ研修医が診療に当たる場合,患者さんへのリスクが伴います。

八重樫 患者さんに害を与えないことは,臨床研修を行う上での原則です。ですから,初期研修医の上に後期研修医がいてその上に指導医がいる屋根瓦式のチーム体制をとり,研修医の診療を常にスーパーバイズする環境を作っています。チーム内で「報告・連絡・相談」を常に行い,しっかり行える研修医だけに裁量を与えるようにしています。

 屋根瓦式には,卒業から時間が経った指導医では忘れてしまっている初期研修医が陥りがちな間違いを,まだしっかり記憶がある後期研修医が指導できるという利点もあります。

――後輩を指導することが,自分の成長にもつながりますね。

八重樫 はい。特に2年目研修医は,指導医・後期研修医のもとで1年目研修医を指導し,「教えることを教える場」という位置付けを強くしています。

――スケジュールを見るとさまざまなカンファレンスがありますが,研修プログラムを構築する上で参考にしているものはありますか。

八重樫 基本的には,私が米国臨床研修で学んだことの“おいしいとこどり”で研修プログラムを考えています。ただ米国と比べると,日本の研修は金銭面・人材面ともに大きな差があるので,少ない資源でも実施可能なカンファレンスを中心にプログラムを組んでいます。大病院だからといって検査を乱発することなく,資源が少ない環境でも活躍できる医師となるよう,病歴や身体所見から問題解決できるトレーニングを重視しています。

――カンファレンスでは活発な議論が行われ,話しやすい雰囲気だと感じました。

八重樫 実際,スタッフ間で共通認識を持って,どんなことでも言いやすい環境を作ろうとしています。研修プログラムも常に改善を加え,よりよい在り方を模索しています。その際は,スタッフだけでなくそのときに在籍している後期研修医・初期研修医の意見ももちろん取り入れて,総合診療科全員の力でメンバーの成長に最も適した形になるよう考えています。

もっと貪欲に学んでほしい

――最近の研修医に対し,感じていることはありますか。

八重樫 初期臨床研修が義務化され,私が研修医だったころよりも知識・技術ともはるかに向上していると感じます。一方で,貪欲さが足りないとも感じています。

 私が研修医だったころは,教育リソースはないのが当たり前でした。ですから,学びの機会があればスッポンのように離さず手に入れたものです。現在は恵まれた環境にあるからか,せっかくの機会でも利用しない研修医を多く見かけます。自分のスキルを向上させ,将来一人でも多くの患者さんを救うためにも,「もっとがっついてほしい」と思いますね。

――最後に研修医へメッセージをお願いします。

八重樫 一歩退いた形で日本の医療を見てみると,ガラパゴス化している部分が多いのが実際です。日本だけの狭い殻に閉じこもらず,世界標準の視点で,目の前の患者さんにどのような対応を取ることが最もその方のためになるかを考えてください。狭くなった視野を広げるのは大変です。ぜひ最初から視野を広く持ち,自分の頭で考えながら貪欲に患者さんから勉強していってください。

――ありがとうございました。 

(了)


八重樫牧人氏
1997年弘前大医学部卒。亀田総合病院にて初期研修の後,在沖米国海軍病院を経て渡米。2000年セントルークス・ルーズベルト病院にて内科,03年ニューヨーク州立大ダウンステート校にて呼吸器内科,05年ピッツバーグ大病院にて集中治療の研修後,それぞれの専門医資格を取得。06年帰国,10年より現職。日本の医療の「井の中の蛙」とならず,世界標準の診療を知った上で目の前の患者さんに最良の医療を提供できる医師,つまり患者さんに良い意味での「違い」を創れる医師をより多く育成することを目標に教育・診療に取り組んでいる。