第37回日本看護研究学会開催
2011.08.29
第37回日本看護研究学会開催
第37回日本看護研究学会が,8月7-8日,パシフィコ横浜(横浜市)にて黒田裕子会長(北里大大学院)のもと開催された。「エビデンスに基づいた看護実践を!――現場の研究熱を高めよう」をテーマに掲げた今回は,看護実践のエビデンスとなる研究成果を導く手法や理念について,会場各所で活発な議論が交わされた。
◆多様な方法論を活用し,実践に生かすエビデンス創出を
シンポジウムのもよう |
山勢博彰氏(山口大大学院)は,従来の経験や慣習などに基づく看護から,科学的根拠に基づく看護が当然の時代になったと評価。臨床で生じた疑問を科学的に検証することが質の高い看護実践につながると述べた。また医学研究に比し,看護研究は明確なエビデンスを求めることのみを研究目的としていないため,より多様な研究デザインが存在すると指摘。そのなかから最も適切かつ実行可能な研究デザインを選択し,研究計画を吟味することが重要だとして,介入研究においても,対象の選択から統計解析まで,研究計画段階で綿密に練るべきと助言した。
中山和弘氏(聖路加看護大)は多変量解析について,直接目には見えない潜在変数の存在を,目に見える観測変数を測ることで導き出すものと解説。観測変数を多く測ることではなく,誤差が少なく真の値に近い潜在変数を測定することが多変量解析の本来の目的であると念を押した。また,複数の説明変数が直接的・間接的に関連し,目的変数のばらつきを生むという因果の流れを知ることも多変量解析の目的だと説明。2つの変数の間で作用する,媒介変数や調整変数にも注目すべきと話した。
西村ユミ氏(阪大コミュニケーションデザイン・センター)は,病院における看護実践を現象学の立場から研究している。氏はこれまでの研究から,個々人の経験は他者とともに作り出してきたものであり,個別の事象の記述の中から普遍性が見えてくると主張。「世界を見ることを学び直す」ことが現象学研究であるとして,記述することで経験が新たな側面を持つと示唆し,読み手にとっても実践をとらえなおす契機になると提言した。
特定の文化や社会に調査者が自ら入り込み,インタビューや観察などを通し定性的に描き出していくエスノグラフィーは,近年では消費者行動の把握にまで応用されるようになった。社会学者の黒田由彦氏(名大大学院)は最近のエスノグラフィーの在り方について,中立的な立場での客観的な記述ではなく,共感などの感情を交え,対象への理解を深めていく過程を描くことが求められていると指摘。研究者自身が自己変容を恐れないこと,鋭い問題意識をもつことが研究成功の鍵だと話した。
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