医学界新聞

2011.08.22

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


口蓋裂の言語臨床 第3版

岡崎 恵子,加藤 正子,北野 市子 編

《評 者》高戸 毅(東大大学院教授・口腔外科学)

口蓋裂の言語臨床における必読の書,待望の改訂版

 『口蓋裂の言語臨床 第3版』出版に当たり,心からお喜び申し上げます。斯界における日本有数の執筆陣によって,1987年に本書の初版が,そして2005年には第2版が出版され,初版の出版から既に30年近くの歳月が過ぎましたが,この長きにわたって,本書は口唇口蓋裂の治療に携わる多くの医療関係者に読み続けられており,口蓋裂の言語臨床における必読の書となっております。

 口唇口蓋裂治療では,患者の成長発育段階に応じて,医師・歯科医師・言語聴覚士など,多分野の専門家から構成されるチームが集学的な治療を行う必要がありますが,本書はまさにその観点から執筆・編集されており,口蓋裂の言語臨床にかかわる上で必要な評価と治療について,乳児期から成人期まで年代別に説明しています。一方,近年の科学技術は日進月歩で目を見張るものがありますが,それは口唇口蓋裂の治療に関しても同様で,第2版の出版後わずか6年の間にも新たな手術法が開発され,また,歯科矯正治療を中心に歯科分野でも新たな展開がありました。口蓋裂の言語臨床の領域でも,2007年に『口蓋裂言語検査』(インテルナ出版)が出版され,2010年に『新版 構音検査』(千葉テストセンター)で音声表記が一部改訂されるなど,大きな変化・進展がありました。これらに対応するために今回の第3版でも第2版と同様に適切な改訂が行われました。

 まず,手術法や歯科領域における最新の知見が述べられている点は,手術や歯科治療の実態に触れる機会が少ない機関で口蓋裂の言語臨床に携わっている方々にとって非常に有用であると思います。また,鼻咽腔閉鎖機能の評価は咽頭弁形成術の必要性の有無を判断するために非常に重要ですが,正確な評価を行うためには経験が必要です。そのため,臨床経験の浅い方にとって,鼻咽腔閉鎖機能の正確な評価を行うことは決して容易なことではありませんが,今回の改訂では,鼻咽腔閉鎖機能の評価についてより詳しく,より実践的な記述がされているため,評価を行う際に大変参考になるでしょう。さらに「知的障害」と「発達障害」を併せ持つ症例についても加筆されており,広く言語聴覚士の手助けとなるだけでなく,医師や歯科医師にとっても参考になると思われます。

 こうしたことから,第3版の出版はまさに臨床現場で待ち望まれたものであったといえるでしょう。今後も医学の進歩と時代の変化に合わせて適宜改訂が行われることと思いますが,本書は常に「口蓋裂の言語臨床におけるバイブル」として光り輝き続けるものと確信します。

B5・頁216 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01239-3


医療経営学 第2版
病院倒産時代を生き抜く知恵と戦略

今村 知明,康永 秀生,井出 博生 著

信友 浩一(福岡市医師会成人病センター病院長)

健全な野心が生んだ経営学の書

 わが国に医療経営学を持ち込み,研修を始めたのはGHQであり,日本人自らが時代の要請から医療経営学を学び教育・研修を始めたのではない。それは1949年(厚生省病院管理研修所発足)のことであった。

 その点でわが国の病院経営管理は米国の病院管理の導入から始まったといえるが,わが国特有の医療風土を踏まえた病院管理の展開は石原信吾先生(研修所はその後国立医療・病院管理研究所となり,退職時には同研究所経営管理部長)に負うところ大であり,その実績は『石原信吾論文選集――夢なきところ,民は亡ぶ』(1990年)に詳しい。

 そして半世紀である。若い日本人が誰から頼まれたわけでもなく,日本の医療風土を直視した上で学術的な裏付けをもった医療経営の理論体系化に挑戦したのである。従来の医療提供体制・保険制度を大前提にした収支改善対策の指南書(ミクロ経営)としてのテキストではなく,マクロ経営の基本方針とその変革をも前提にした全体最適の医療経営を図る経営書となっている。理想形を追求するという健全な野心がはぐくんだ,健全で健康な経営学の書といえる。

 このような経営学の書であるからであろう。本書は5年後の今年,第2版が出版された。健全で健康な,という形容詞を冠した医学書の紹介があったかどうか承知しない。だが,健全な野心が生んだ経営学の書として,多数の医療経営学テキストが出版される中で本書に注目していた。第2版の新機軸は,医の原点に立ち返り,豊かさを実感できる社会装置としての医療経営をあらためて体系化する,ということであった。その中から抽出できた二大方針は,(1)競合する相手との生存競争に打ち勝って己だけが生き残ることをめざすべきではないこと,(2)医療に必然のリスクを医療提供者と患者・市民とで共有すること,と明記された。これが健全な野心と私がいうゆえんである。ところが,誰が本書の副題として「病院倒産時代を生き抜く知恵と戦略」としたのだろうか<2049> まるで施設完結型医療の時代の方針を表してはいないだろうか。著者らの方針が地域完結型医療であるにもかかわらず,である。

 もう一つの本書の魅力は,新たな論点を設定し独自に解説を加えている第四部「日本の医療の論点」である。第一章「医療と社会のコンフリクト」では医師と患者のコミュニケーション・ギャップやメディアによる医療関連報道と不確実性に対する無理解などを取り上げている。ただ,対話に至る新たな挑戦までは言及されていない。第二章では「医師不足と医師のキャリアパス」が取り上げられており,当然のように(1)医師の偏在と不足,(2)医師補助職,(3)医師の処遇,(4)医局と医師,に問題を設定し,論点を網羅できている。第三章「手術件数と手術成績の関連」では系統的な文献レビューが不足し物足りない論議になっているのが惜しまれる。情報公開により患者の受療行動や病院経営にどのような影響が見られたか,などが知りたいところである。最後の第四章は「医療の規制緩和」,医療機器の内外価格差,混合診療,株式会社による病院経営が取り上げられている。医療経営のステーク・ホルダー別に各論点をどのようにみているかの対照表があれば,対話のある医療界へと踏み出せる第一歩になるのではないかと期待しながら読了したところである。

 最後になるが,本書は寝転んで読める経営学の書である。著者たちは想定していないだろうが。

A5・頁272 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01200-3

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