医学界新聞

2011.08.01

各ライフステージに適したうつ病治療を

第8回日本うつ病学会開催


  第8回日本うつ病学会が7月1-2日,白川治会長(近畿大)のもと,大阪国際交流センター(大阪市)で開催された。「現代うつ病の輪郭――いま求められる対応」をメインテーマに掲げた今学会は,診断,治療から支援まで,うつ病診療に携わる多職種に向けたプログラムが組まれ,各会場で議論が展開された。


白川治会長
 会長講演「うつ病臨床のゆくえ――求められるしなやかな病態把握」では,白川氏がうつ病臨床の現状を俯瞰するとともに,今後求められるうつ病診療の在り方について述べた。

 うつ病患者が増加する背景には,価値観の多様化,経済状況の変化がもたらす労働環境の変化,うつ病の社会的認知の向上,新規抗うつ薬や国際的な診断基準の普及,うつ病概念の拡大化など複合的な要因が絡んでいると氏は考察。多様なうつ病を診る上では環境要因や個人要因の視点が重要であることから,きめ細やかな臨床観察や,疾病性に固執しないしなやかな病態把握を行い,診断的アプローチではなく,治療的アプローチを重視する必要性があると訴えた。

各ライフステージで求められるうつ病治療を探る

 シンポジウム「ライフステージに即したうつ病へのアプローチ」(司会=関西医大・福永幹彦氏,浪速生野病院・生野照子氏)では,4人の演者が登壇し,児童期・青年期・成人期・老年期などの各ライフステージでみられるうつ病の特徴や,治療の方法について議論が交わされた。

 最初に登壇した岡田俊氏(名大)は,児童期におけるうつ病について解説。児童期うつは言語表現力に乏しく,焦燥,不機嫌,攻撃的な態度や自殺企図がみられることを挙げ,自然軽快も多いが再発も多く,双極性障害へ移行する例もあるという特徴を紹介した。これらは成人期にみられる臨床特徴とは異なる点もあり,症状が気分変動よりも行動上に表れることを強調。特に5-11歳のうつ病治療のエビデンスは十分でないことから慎重に対応すべきとした上で,心理・社会的要因,発育歴や患者の行動の一つひとつから治療の見立てを行う必要があるという見解を示した。

 青年期における新型(非定型)うつ病を心理的側面から解説したのは水田一郎氏(神戸女学院大)。青年期における新型うつ病は,悲哀体験を持ちこたえる能力が未発達である青年が,その危機に直面したときの防衛手段,あるいは防衛が破綻した結果として発症しているのではないかと指摘した。悲哀に耐える能力が未発達なままに青年期を迎える原因は,両親の過保護や伝統的社会の崩壊といった環境的な変化の結果,発達過程での悲哀体験の機会が減少したことにあるのではないかと考察した。

 そのため,青年期の新型うつへのアプローチでは,うつを病的なものとして外在化する従来の治療的対応ではなく,外在化せずに自身の問題としてとらえるよう導き,患者が描く誇大的自己イメージと現実との隔たりを埋めることが重要と指摘。服薬や休養によって治るという保証を安易に与えるのではなく,自身の問題として目を向けさせ,小さな成功体験を積み重ねる自助努力を診察室のなかから援助する姿勢が求められると述べた。

全人的なケアが重要

 成人期は,家庭生活や職場での仕事を通して自身の役割を見つけ,アイデンティティを再確立する時期だ。一方で,この年代はうつの発症が多くみられる。成人期のうつに関して解説したのは,村上正人氏(日大板橋病院)。失敗や挫折,自身の生き方への疑問などから,「自分はこれでよいのだろうか」といった感情を抱く「Mid-Life Crisis(心理的危機)」に陥り,うつ発症へとつながることが成人期では多いという。患者への具体的なアプローチとしては,服薬のみを強調せずにライフスタイルの是正を勧め,職場の同僚や上司への啓蒙,産業医へのコンサルトなどのソーシャルサポートを充実させる重要性を訴えた。

 山岡昌之氏(九段坂病院)は,日々の診療でみられる老年期のうつ病患者の特徴,高齢者の抑うつ患者に求められるアプローチについて解説した。自身の診療経験上,「うつ病」の診断がついた高齢患者には何らかの身体的疾患が伴っていることが多いと述べ,その関与を常に疑う必要があると指摘。加齢とともに,身体的疾患のリスクは高まり,また心理的・社会的要因の多元的な関与が多くなるとが考えられることから,老年期のうつ病患者に対しては全人的医療を提供する必要性を強調した。

 総合討論では,会場の参加者からの疑問や意見に各演者が応え,本シンポジウムのテーマについてより一層議論が深められた。

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