第54回日本糖尿病学会開催
2011.06.20
第54回日本糖尿病学会開催
第54回日本糖尿病学会が,5月19-21日にさっぽろ芸術文化の館(札幌市)他,5会場にて羽田勝計会長(旭川医大)のもと開催された。本学会では「糖尿病と合併症:克服へのProspects」をメインテーマに,2279題の演題が採択された。本紙では,高齢者糖尿病診療について議論されたシンポジウムを報告する。
個別的な評価,治療が重要
羽田勝計会長 |
シンポジウム「高齢者糖尿病診療における医療と介護」(座長=神戸大・横野浩一氏,公立昭和病院・貴田岡正史氏)では,各地で高齢者糖尿病診療に従事する6人の演者が登壇した。
最初に登壇した伊賀瀬道也氏(愛媛大)は,自身の研究から,大腿四頭筋断面積/体重で評価したsarcopeniaと動脈硬化は,互いに関連している可能性を示した。また,sarcopeniaと内臓脂肪面積の増加が併存する病態「sarcopenia obesity」を紹介し,それが姿勢不安定を介した転倒リスクとして重要な因子になる可能性があることを指摘した。
次に登壇した大庭建三氏(日医大)は,国内外のガイドラインや臨床介入試験などの結果を紹介。その上で,虚弱高齢者・後期高齢者における薬物療法では,低血糖を起こさないように血糖コントロールの下限値を設けるなど,患者ごとに個別的な目標を設定し,血糖だけでなく,脂質や血圧なども含めたトータルケアが重要であると述べた。
高齢者糖尿病患者における包括的高齢者評価(CGA)の意義について述べたのは,荒木厚氏(都健康長寿医療センター)。CGAとは,身体機能,認知機能,心理状態,社会状況などの項目をそれぞれの指標やアセスメントツールを用いて評価するもの。認知症,うつや要介護状態の早期発見,重症低血糖の高リスク群の抽出,社会サポートの不足などのスクリーニングが可能であり,よりよい患者管理につながる有用な評価法であるとの見解を示した。
求められる新たな枠組み
植木彬夫氏(東医大八王子医療センター)は,西東京臨床糖尿病研究会会員医師,認知症患者を受け入れている同地区内施設の医師を対象に行ったアンケート結果を報告した。後者では,前者と比較してより厳格なHbA1cコントロールをめざす医師が多く,また前者では認知症合併糖尿病患者が認知症と診断がされていなかったり,他院へ紹介されていたりするケースが多いと示唆されたという。さらに,認知症併発後約7割の患者で血糖コントロールの悪化,約2割の患者で治療法の変更がみられることを別のデータから示し,認知症合併糖尿病患者への治療に対するコンセンサスを作成する必要があることを訴えた。
続いて発言した中野忠澄氏(三菱京都病院)は,介護関連施設を対象に行ったアンケートの結果を紹介。在宅介護においては,看護師1人当たりの担当患者数が施設介護に比べて有意に多いことが明らかになったという。こうした実態から,認知症をはじめ,介護を要する糖尿病患者に対して,必要な場合には家族以外の非医療者がインスリン注射を実施できる体制をつくるなどの具体的な社会支援の必要性を主張した。
最後に田中志子氏(いきいきクリニック内田病院)が登壇。認知症患者を診る際には,身体的攻撃や大声,徘徊,妄想などの行動・心理症状(BPSD)を併発させぬよう,「生活の質を踏まえた上で,医療者側から歩み寄ることが重要」と呼びかけた。
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