震災におけるこころのケア支援ワークショップ開催
2011.06.13
精神科医療の復興を考える
震災におけるこころのケア支援ワークショップ開催
日本精神神経学会による「東日本大震災に対するこころのケア支援と復興支援対策ワークショップ」(司会=慶大・鹿島晴雄氏,群馬大・三國雅彦氏)が5月21日,ホテルグランパシフィックLE DAIBA(東京都港区)にて開催された。本ワークショップは,東日本大震災の影響による第107回日本精神神経学会の延期を受けて緊急に企画されたもの。岩手・宮城・福島三県の被災地での精神科医療の現状と,復興に向けた支援の在り方が議論された。なお第107回日本精神神経学会は三國会長のもと,本年10月26-27日,同ホテルおよびホテル日航東京にて開催される。
長期的な視点でのケアを継続
会場のもよう |
松本和紀氏(東北大)は主に,仙台市以外の宮城県内の被災地の現状を伝えた。被害の全貌が把握できず,個別ニーズに沿った支援が困難なほか,複数ラインでの支援活動が行われ,情報共有・連携に問題が生じたという。氏は,慢性ストレスによる精神疾患など,心の問題はこれから顕在化すると指摘。精神的に孤立しないコミュニティづくりや,保健師など支援者側へのケアの必要性を訴えるとともに,障害者の生活の場の確保も喫緊の課題とし,包括的生活支援の一環として精神保健活動を行うべきと話した。
丹羽真一氏(福島医大)は,福島県の精神科医療の被害状況として,病院の津波・地震被害のほか,福島第一原発事故で近隣4病院が閉鎖,30 km圏内の作業所等もほぼ離散したと報告。今後は,病院閉鎖地域でのアウトリーチ主体の医療システム構築,保健師を核とした被災者ケアのネットワークづくり,長期的な子どものこころのケアプラン作成,放射線被ばく不安への長期的調査などを構想しているという。
次に秋山剛氏(NTT東日本関東病院)が,日本精神神経学会および関連団体の取り組みを説明。国連IASC(機関間常設委員会)による「災害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会的支援に関するガイドライン」(2007年)の日本語短縮版を作成中であることなどを述べた。また,災害急性期が過ぎた今,年単位での人的支援の継続,被災地域の人材流出防止・補てん,多職種・非医療関係者との協働が求められるとして,同学会・関連団体の総力を結集した対応を呼びかけた。
基調講演では,金吉晴(国立精神・神経医療研究センター)・朝田隆(筑波大)の二氏が登壇。震災や原発事故による外傷後ストレス傷害(PTSD)を解説した金氏は,被災者は恐怖は忘れたいが故人のことは忘れたくないなど複雑な感情を抱えていると懸念。保護的環境が整わないなかでトラウマに直面させる治療の危険性を指摘した。放射線被ばく不安については,情報を提供するだけでなく,情報の解釈方法まで示すことが不安の解消につながると話した。
続いて朝田氏が,復興における精神科医の役割は,被災者が希望を持つ手助けをすることと提言。被災地のニーズに応じた支援活動や多職種連携,放射線被ばく不安への心理的ケアの重要性を示唆するとともに,学会として引き続き被災地での調査・研究に倫理的配慮を要請すべきとした。
ニーズに沿った柔軟な支援を
ワークショップ後半では,復興期の精神保健活動について,4人の演者から見解が述べられた。
鈴木友理子氏(国立精神・神経医療研究センター)は,災害時精神保健活動の国際的動向を解説。IASCガイドラインにおいて,支援団体の連携・調整や,特定の疾患に限定せず幅広く診ることなどが求められていると示すとともに,過去の災害経験の蓄積・応用の重要性にも言及した。
日本児童青年精神医学会からは山崎透氏(静岡県立こども病院)が,中長期の支援に向け,被災地のニーズに合わせた児童精神科医の派遣や,教育機関との連携に努めていくと表明した。
加藤寛氏(兵庫県こころのケアセンター)は阪神・淡路大震災,染矢俊幸氏(新潟大)は新潟県中越地震/中越沖地震時にそれぞれ,復興基金によるこころのケア事業を経験。両氏はともに,地域特性に合わせた柔軟な支援活動や,外部支援組織と既存の地域コミュニティとの円滑な連携の重要性を強調した。
最後に鹿島氏が,日本精神神経学会の声明案を公表。(1)被災地ニーズに応じた精神医療の提供と地域保健福祉の人材確保,(2)大学への「災害精神支援学講座」新設と人材育成,(3)同学会における常設の災害対策委員会の設置などを主な内容とし,拍手で承認された。
●『精神医学』誌に関連記事を掲載『精神医学』第53巻9号(2011年9月号)では,「甦る日本の心の支援」をテーマに,精神疾患の枠を超え広く「こころ」の次元で復興を考える座談会記事を掲載予定です。こちらもぜひご覧ください。 |
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