医学界新聞

インタビュー

2011.06.13

interview

~恐い,嫌いを克服する~
心電図・不整脈のとらえ方

杉山裕章氏(東京大学大学院医学系研究科・循環器内科)に聞く


 心電図はとにかく「苦手」,また見逃しが「恐い」と思う若手医師の方は少なくないのではないでしょうか。しかし超高齢社会を迎え,不整脈のみならず心疾患を基礎に持つ方の増加が予想されるなか,診断の過程で心電図の果たす役割は増すことはあっても決して減ることはありません。また,循環器を専門としない医師にもその基本的な理解は要求されます。

 そこで本紙では,このたび『個人授業 心電図・不整脈――ホルター心電図でひもとく循環器診療』(医学書院)を上梓した杉山裕章氏に心電図や不整脈のとらえ方についてインタビュー。"苦手⇒心電図をとらない⇒ますますわからない……"という悪循環を断ち切るためのコツを伺いました。


――心電図や不整脈の勉強は,なぜなかなか進まないのでしょうか。

杉山 3つの理由があると思います。1つ目は心電図に対する漠然とした恐れ。2つ目は個々の不整脈疾患に遭遇する頻度が低く系統的な学習が行いにくいこと。そして3つ目には,虚血性心疾患とは異なり,放置した場合でもすぐに致命的とならない状況が多いため,「見なかった」ことにできるという不整脈特有の性質にあると考えています。

――なぜ心電図は恐れられてしまうのでしょうか。

杉山 これは現在の心電図の教育システムに原因があると思います。大半の教科書は「この疾患は,この心電図」というように,"疾患⇒心電図所見"の流れで心電図が記載されています。ところが,心電図を読む上で必要な力は"心電図所見⇒疾患"という逆の流れです。実際の臨床現場はさらに厳しく,教科書のどこにも載っていないような複雑な心電図が呈示されます。いきなり物言わぬ生の心電図波形だけを見て,正しい診断や治療方針を求められるため,恐れてしまう方もいるのだと思います。

 さらに,「心電図所見=臨床診断」となる不整脈は,心電図を攻略できないと全く前に進めないという特徴があります。心筋梗塞など他の心臓病が,心電図以外にも心エコーや血液検査などの情報を加味して総合的に診断するのに対し,基本的に心電図だけで診断が求められる難しさが不整脈にあることも,心電図への恐れに関係しそうです。

――そのような恐れが,苦手意識の悪循環につながっていくわけですね。

杉山 ええ。入院したら診療科によらず心電図をとるにもかかわらず,「心電図は自分の科には関係ない」という認識を持つようになったり,他人に"見逃し"を指摘されるのを恐れて心電図のオーダー自体をしなくなったりすることもあるようです。

 また,3つ目の「見なかった」ことにできるという不整脈の特有の性質から,学習のチャンスを自ら放棄している方もいます。例えば一過性に生じる失神では,医師のもとを訪れた際には何の異常がなくても背後には致死性不整脈があったりするわけですから,「今日の検査では何もない」からといって,見逃さずに積極的に精査していく姿勢が大切です。「見て見ぬふり」は,心電図が読めないことよりも大罪だと私は思っています。

パズル感覚で心電図をとらえる

――では,心電図はどう学習していけばよいのでしょうか。

杉山 教科書とは逆の流れとなる,心電図の所見から病態や疾患を考える訓練が必要です。心電図波形から所見を1つずつ地道に拾い上げ,それらを併せて何が言えるのか頭で考えることがポイントです。臨床心電図学を構成している論理自体は比較的単純なので,読み解く論理さえわかってしまえばそれほど恐くありません。

 初期研修の間は,知識や手技の習得に忙しく,地味で時間もかかる心電図判読のような訓練はどうしても後回しにされてしまうのですが,この状況は改良されるべきと考えています。

――具体的な心電図のとらえ方について,教えてください。

杉山 心電図なんて"パズル"感覚で楽しめばいいと思いま...

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