MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.02.28
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
今中 雄一 編
《評 者》邉見 公雄(全国自治体病院協議会会長)
本書を読めば病院の組織と機能は一目瞭然
『「病院」の教科書――知っておきたい組織と機能』が,今中雄一教授(京都大学医療経済学)の編集のもと出版された。「先を越された」という気持ちと,「やっとこの手の本が世に出たか」という感慨が入り混じった感がある。
実は,私も田舎の自治体病院長を22年務めている間,新しい事務局長や事務職員が本庁から異動してくるたびに種々の関連書籍や医療雑誌の特集号を渡してきた。また,新規採用者研修では医師とコメディカルに分けてオリエンテーションを行っていた。例年この時期は年度末の学会や退職者の送別会,関連教室の定年教授への挨拶などに走り回っているが,大切な仕事と思い,合間を縫って実施してきた。新任の方々が組織にスムーズに溶け込み即戦力になっていただけるように,オリエンテーションでは私の知る限りの知識と経験談などを,できるだけ噛み砕いて話をしたが,力が入り過ぎて持ち時間を超過することも度々であった。
こうしたオリエンテーションを各分野の長やチーム医療担当者などが丸一日かけて行い,2日目には電子カルテのシステムを説明したり,市内の分院的診療所や連携施設をマイクロバスで回るなど,医療の現場に早期になじめるように努めてきたつもりである。それでも五月病的な症状が現れる方もおり,本庁から初めて病院に転任してきた方が早々に異動願いを出してしまったこともあった。病院は役所とは全く異なった文化を持つ組織であり,専門職が使う用語は外国語と同じ,さらには自分より若い医師や看護師に命令されるのは耐えられない,と感じられることもあるようである。詳しい説明を省き結論だけを述べる若い医療職もいるが,患者さんのことを思い一刻も早く用件を伝えようとした結果であり,決して命令しているつもりも悪気もないのだが……。
このように,病院は医療になじみのない者には異質の世界のように思われるが,本書を読めば病院の組織と機能は一目瞭然である。医療制度や関連法規,DPCなど新しい診療報酬制度や医療安全,最近よく話題になる院内感染などの感染制御,守秘義務やインフォームドコンセントなどの情報対策を含む危機管理についてもわかりやすくまとめられている。さまざまな専門職のために部門ごとに要求される知識も記載されている。また,医療経営のビジョンの策定やPDCAサイクルを使った戦略の見直しや改善,人材の確保と育成など,病院の経営に携わる方に必須の知識がほぼ全般にわたって盛り込まれている。
さらには,今後ますます重要となる医療の質の向上にも触れ,少ないマンパワーを有効に活用するための地域医療連携についても前方連携・後方連携の有用性,今後さらに拡大する介護保険施設との連携も漏らすことなく盛り込まれている。
編者の持論である「医療の見える化(可視化)」を地で行くように,図や表が多く使われているのも読者には親切である。新しく病院で働く方や転入者はもちろん,すべての医療関係者に読んでいただきたい本であり,私が関係している診療報酬を決める中央社会保険医療協議会の1号支払い側委員や3号公益委員にも無料で私から差し上げようかとも思うほどである。
ここで宣伝を一つ。本書のコラム5「医療経営にかかわる人材育成の試み」(P. 11)で紹介されている日本医療経営機構(理事長=京都大学名誉教授・吉田修氏)では医療経営人材育成プログラムを作成し,活動を始めている。今中先生が実務の中心であり,私も少しだけお手伝いをさせていただいている。興味のある方は,ぜひホームページを開いていただきたい。
最後に,本書の執筆者は新進気鋭の若手研究者ばかりであり,今後,この方々が日本の医療政策を動かす中心勢力になってほしいと願うばかりである。また,本書が一人でも多くの人々の目に触れ,日本の医療が少しでもよい方向に向かうことを切に願うものである。「よい医療を効率的に地域住民とともに」を実現するためには必読の書である。
B5・頁248 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00595-1
Thomas P Ruedi,Richard E Buckley,Christopher G Moran 原書編集
糸満 盛憲 日本語版総編集
田中 正 日本語版編集代表
《評 者》伊藤 博元(日医大教授・整形外科学)
一度,じっくり読んでみるべき書
"AO Principle of Fracture Management"は,2000年12月に発行されて以来,7か国語に翻訳されてきた。そして,2003年5月には糸満盛憲氏が日本語版総編集を担い,日本語訳『AO法骨折治療』が出版されたのはご承知のとおりである。
AOグループは,1958年にスイスにおいて少人数で設立され,現在では外科的,科学的財団として発展継承されている。骨折の分類法であるMüllerのAO/OTA分類法は,「分類は,骨傷の重症度を考慮し,治療のよりどころとなり,結果の評価に役立ってこそ有用である」との言葉どおり,現在の主要分類となっているのは周知のことである。
AOの治療原則は,(1)解剖学的修復,(2)安定した骨折固定,(3)血流の温存,(4)患者,患肢の早期運動,により発想されたが,現在では,より相対的な概念も取り入れながら発展してきている。そして,AOグループの掲げた原則は教科書の基本を形成し,将来の骨折治療のkeyとして存在し続けるであろうと述べている。
さて,『AO法骨折治療 第2版』では,初版と比して基礎的・臨床的なデータの蓄積によって,量的にも内容的にもより充実したものとなっている。臨床的な骨折内固定のための原理と手技についての新たな章がつくられ,整復と進入法については軟部組織の治療の原則についても内容がボリュームアップしている。開放骨折,多発外傷患者の管理,合併症が総論に組み込まれ,MIS,internal fixator, locking compression plateを用いた固定法の理論と手技が詳細に記述されている。
特に「骨折における諸問題」の章の開放骨折では,実際の写真,シェーマ,X線像などが多く用いられて理解を深める一助となっており,実際の手術手技を付属のDVD-ROMによって習得できるのは初版と同様で,実用的な配慮には変わりはない。
日本語版第2版の序として,糸満氏は,「私たち臨床医は,日常診療に忙殺されて基礎的な知識を自ら集積し整理することはきわめて困難な環境にあります」「総論にまとめられた(中略)記述は,運動器外傷の病態と治療に関する考え方をきわめて論理的に示しており,また臨床医にも理解しやすく工夫されています。一度じっくりと読んで理解することをお勧めします」と述べている。
ぜひ一度,じっくりと読んでみるべき書ではないかと,共感する次第である。
A4・頁752 定価39,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00762-7
日比 紀文 編
《評 者》八尾 恒良(福岡大名誉教授・消化器内科学)
IBDの臨床から基礎まで最近の進歩をすべて網羅
日比紀文先生編集による本書『炎症性腸疾患』は厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」(以下,班研究)の2002年から2007年までの研究成果の集大成である。同様の成書は1999年,11年前に,当時班研究の班長を務められた武藤徹一郎先生がまとめられ,私もそのお手伝いをした経緯があり,今回の書評を仰せつかったものと思う。
班研究の業績は毎年まとめられ,コンセンサスが得られた診断・治療方針などその年の業績集に記載されている。しかし,業績集は班員には配布されるものの,一般の医師の目に触れる機会は少ない。また,その一部が専門誌で解説されることはあるが,業績の全体に目を通す機会はない。消化器専門医は診療や学会の研究発表を正確に理解するために班研究で決められたことを理解しておく必要がある。
本書によると,11年前に約5万人であった潰瘍性大腸炎(UC)患者は10万人を超え,1万人であったクローン病(CD)患者は3万人を超えたという。炎症性腸疾患の患者さんは,一時点の治療で決着がつくわけではなく,患者さんの一生にわたる長期の管理と治療が必要である。とても消化器専門医だけですべての患者さんの診療ができるわけがなく,一般臨床医と協力した診療体制が必要となる。診療には疾病に対する包括的な知識が必要で,一般臨床医,消化器専門医を問わず,本書は炎症性疾患に関与する医師にとって,必要不可欠な座右の書となるであろう。
本書にはUC,CDの臨床的事項から基礎研究まで,最近11年間の進歩がすべて網羅されている。すべてを論じることはできないが,進歩の要点は以下の点であろう。
1)診断・他
(1)CT,MR,USの役割が明らかにされている。(2)新しい診断方法,CT・MR-enterography,カプセル内視鏡,バルーン内視鏡などが記載されている。(3)全大腸炎型は脾彎曲部を越えるものと変更されている。
2)内科的治療
UC:ステロイドの反応性(抵抗性,依存性)によって治療方法を考えるという方針が確立されている。そのほかにも,次のような点が挙げられる。(1)難治例の定義が定められ,その対処方法が記載されている。(2)免疫調節薬の役割が明らかにされ,アサコール®, シクロスポリン,タクロリムスなど新しい薬剤・治療法が記載され,CMV感染例に対する抗ウイルス剤の治療効果も(少し)述べられている。(3)直腸炎型はほかの型の重症度分類とは別に治療指針が立てられている。
CD:治療にインフリキシマブ(レミケード®)が導入され,本症の治療に大きな変革をもたらしている。また,免疫調節薬の役割が明らかにされ,狭窄に対するバルーン拡張術の適応も確立されている。
特記すべきは「診療ガイドライン」の項目が設けられ詳述されていることである。今後,製薬会社が関与しないエビデンスの積み上げに専門家の一層の努力が必要であろう。
3)外科治療
(1)CDに対する腹腔鏡下手術:可能な症例では癒着の減少による長期予後の改善が期待される。(2)術後再発防止のレミケード®の効果が検討し始められている。
4)病因・病態
TLRの役割をはじめ,この10年間の進歩はすごい。引用文献のほとんどが2005年以降である。基礎研究の臨床へのフィードバックが望まれる。
なお,「班研究のまとめ」は進歩の要点だけでも3-4年に1回くらいの間隔で出版してほしい。
B5・頁352 定価13,650円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01007-8
杉本 元信 編
瓜田 純久,中西 員茂,島田 長人,徳田 安春 編集協力
《評 者》林 純(九大病院総合診療科)
総合診療のレベルアップに役立つ「対話型」教科書
この『臨床推論ダイアローグ』はあらゆる臓器,あらゆる分野の疾患が網羅され,種々の症状を訴える40の症例が提示されています。初診の外来患者について,正しい診断に導くために指導医が研修医に問題を提起しながら尋ね,それに対して研修医が答えながらも指導医にも質問する対話形式で進められ,最終的にはその症例の診断が示される医学教科書です。
その症例の難易度が5段階に分類されているのも特徴です。指導医と研修医との間で,Prologueとして現病歴・既往歴が紹介され,Dialogueとして主要な鑑別疾患,特徴的な身体所見,必要な検査などの診断アプローチやそのコツについてdiscussionが進んでいき,最後にEpilogueとして確定診断が示され,参考文献も提示されています。
本書で工夫がみられるのは何と言っても,Dialogueの内容です。すなわち症例によっては,上述した内容以外に,症状からの鑑別方法,身体所見の取り方,緊急検査の必要性や検査方法の選択,初期対応などの基礎的なものから,画像を含む検査所見の見方,細胞外液と細胞内液などの病態生理に対する考え方,あるいは既に投与されている薬剤(漢方薬を含む)に対する考察,治療の問題点などの応用・発展的なものまでを含めてdiscussionのポイントとしています。
さらに,「診断エラー」は思い込みなどの6つのバイアスがあることが取り上げられており,評者にとっても過去の反省を含めて参考になりました。本書の素晴らしさは,これにとどまらず,31のMonologueが用意され,その症例に関連した知識を拡大し,深みが増すように工夫されていることです。実際に読んでみると,指導医が研修医に教えている内容も素晴らしく,一つの症例からたくさんのことが学べるのだということを,あらためて教えられた気がします。
5年生以上の医学生,研修医はもとより,1日1症例読んでいくだけで,指導医クラス,あるいはベテランとされる医師もレベルアップに役立つ有用な医学教科書だと思います。特に,われわれ総合診療医は未診断患者を速やかに的確に診断し,初期治療を行い,場合によっては専門診療科の医師との協力を円滑に進めなければなりません。このような観点から,総合診療医あるいはそれをめざす医師にとっては『臨床推論ダイアローグ』は必読の医学教科書だと言えるでしょう。
A5変型・頁456 定価4,410円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01057-3
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