医学界新聞

2011.01.24

医療安全の要となるノンテクニカルスキルを学ぶ


 医療安全教育トレーニング開発シンポジウム「新たな領域への挑戦」(主催=阪大病院中央クオリティマネジメント部)が2010年12月25日,阪大中之島センター(大阪市)にて開催された。第I部では,「国際医療の質・安全学会2010」の遠隔地参加プログラムとして,米国の公的医療保険であるメディケア・メディケイドの長官を務めるDonald M. Berwick氏による講演がVTRで紹介された。続く第II部では,ミニワークショップ「ノンテクニカルスキルの臨床への導入に向けて」(座長=武蔵野赤十字病院・矢野真氏,阪大病院・中島和江氏)が行われ,参加者も含めた活発な議論が交わされた。本紙では,第II部のもようをお伝えする。


ミニワークショップのもよう
 "ノンテクニカルスキル"は,コミュニケーション,チームワーク,リーダーシップ,状況認識,意思決定などを大きな柱に据え,人と人の関係に焦点を当てた認知的・社会的スキルである。このスキルを身に付けることによって,臨床を実践するための知識や技能である"テクニカルスキル"を補完し,臨床現場における人為的なエラーの回避,ひいてはチーム全体のパフォーマンスの向上が期待されている。これまでノンテクニカルスキルは個々人の研鑽に委ねられてきたが,テクニカルスキルとともに医療安全を高める両輪として,教材やトレーニング方法の開発が近年進められている。

 ワークショップではまず,高橋りょう子氏(阪大病院)がノンテクニカルスキルについて解説し,実際の医療事故を題材としたVTR教材を上映。この教材は,妻を医療事故で亡くしたことを機に英国でClinical Human Factors Groupを主催し,医療へのヒューマンファクターズアプローチやノンテクニカルスキルトレーニングの導入を提言しているMartin Bromiley氏について取り上げたもの。教材では実際の医療事故の経過が詳細に再現されており,参加者は医療現場では適切なパフォーマンスを阻害するさまざまなプレッシャーが存在することを再認識するとともに,ノンテクニカルスキルの重要性について理解を深めた。

 続いて,ノンテクニカルスキルを重視した臨床に取り組んでいる円谷彰氏(神奈川県立がんセンター)と中村京太氏(横浜市大)が登壇。円谷氏は,外科手術の安全性を確保するためには医師の専門的な技術や器械だけでなく,判断力やスタッフ間のコミュニケーションなど非技術的なスキルの向上が重要だと強調した。さらに氏は,英国で導入されている外科医の行動評価システム"NOTSS(non-technical skills for surgeons)"を紹介。手術における外科医の行動を階層的に観察・評価することによって効果的な訓練の実施が期待されることから,現在NOTSSを導入した手術の有用性について,実地診療でランダム化比較研究を実施していると述べた。

 一方中村氏は,ノンテクニカルスキルを磨く教育方法の1つとして,ディブリーフィング手法を導入している院内教育研修について紹介。ディブリーフィングはもともと軍隊において開発された,緊急事態を体験した人やその支援者に対する危機的介入技法であり,医療現場では,PTSDや心的外傷に伴う障害を予防する技法として活用されている。院内教育研修では,氏らが作成した急変対応訓練のシミュレーションシナリオを基に,個人やチームのパフォーマンスの障害となる動作や判断,行動についてグループディスカッションを行っているという。

 失敗の許されない厳しい条件下で一定レベルのパフォーマンスを保証するには,安全な行動パターンを個々人がスキルとして身に付ける必要があることをあらためて実感する機会となった。

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