第30回日本看護科学学会開催
2011.01.24
教育・研究・臨床をつなぐ看護学
第30回日本看護科学学会開催
第30回日本看護科学学会が,2010年12月3-4日,札幌コンベンションセンター(札幌市)他にて中村惠子会長(札幌市大)のもと開催された。「『看護をつなぐ』を科学する」をテーマに掲げた今回は,教育と臨床,臨床と研究,そして世界と日本の看護など,さまざまな「つながり」を考察するプログラムが組まれ,互いをより理解し,協働を深めるべく,活発な議論が展開された。
教育と臨床のさらなる統合を
中村惠子会長 |
さらに氏は,自身が大学附属病院の看護部長職にあった際,大学との教育連携の必要性を感じて看護学科の新設に携わり,臨床職と大学教員を兼務したエピソードを明かし,こうした教育と実践とを結びつけるスタイルを「機能的ユニフィケーション」と呼称。一例として,札幌市大の試みを紹介した。同大では,文科省「質の高い大学教育推進プログラム」にも選定されている学年別OSCE 試験(本紙第2876号に関連記事)で学生の実践力を高めるとともに,教員も現任教育への参画や,臨床での看護相談などに従事し看護実践能力の維持を図っている。さらには08年度からは看護管理者サードレベルを開講,本年度からは関連施設と共同し,学生の継続的なキャリアを支援する「循環型就業力育成プログラム」を開始するなど,"大学と地域社会との"ユニフィケーションも展開しているとのこと。最後に氏は,人的ネットワーク強化や共同のシステム構築などにより,学問と実践のさらなる接近,統合に努めることが大学と臨床,双方に求められていると結論付けた。
研究が実践を変えていく
シンポジウムのもよう |
まず,Ruth A. Mulnard氏(米カリフォルニア大アーバイン校)が登壇。米国では,ANCC(米国看護認証センター)のマグネットホスピタル認定において,EBP(Evidence Based Medicine)への取り組みが認定基準に含まれており,このことがEBP実現の大きなインセンティブになっているという。氏はまた,B.M.Melnyk氏の提唱する,課題設定からアウトカム評価に至るEBPの5ステップを紹介。課題設定には,患者の抱える問題・介入方法・対照群・結果を柔軟に定式化できるPICOモデルを推奨した。さらに氏は,EBP実現のポイントとして,(1)シンプルで応用しやすいEBPモデルを組織全体に適用すること,(2)教育に最良のエビデンスに基づいたEBPの概念を取り込み,基礎から臨床まですべての教育課程にエビデンスの方法論を結びつけること,(3)エビデンス確立のため他分野と連携し,学際的協力を惜しまないこと,の3点を挙げた。
真田弘美氏(東大)は,トランスレーショナルリサーチ(以下,TR)の理念と手法を説いた。氏はまず,これまでの看護研究には「問題点のメカニズム解明」が不足しており,既存技術の工夫にとどまっていたと指摘。「褥瘡はなぜ臭いがするのか」という疑問から,瘡周囲の汚染が原因であると解明,洗浄剤を開発し,褥瘡の国際ガイドラインに「瘡周囲の皮膚の洗浄」がエビデンスとして掲載されるに至った自験例を紹介しつつ,看護学におけるTRのプロセスを解説した。さらには,創傷・オストミー・失禁看護認定看護師の看護技術の有効性を示した研究が,2006年の褥瘡ハイリスク患者加算新設の根拠の一つとなったことも示し,これらの経験から得た研究モデルとして,「問題点とニーズの明確化→シーズを用いた技術開発・産学連携→技術の臨床応用と評価→人材育成と高度臨床実践→新たな課題創出」というTRの円環を図示。現在も,瘡滲出液のPCRによる簡便でリアルタイムの感染診断など新技術の確立に邁進している氏は,世界に先駆けて新しい看護モデルを提唱し,研究が看護実践と医療を変えることを証明していきたいと抱負を述べた。
京府医大病院の橋元春美氏は,同大看護学科と連携した看護研究支援について述べた。同院には1966年の看護研究会発足から,30年以上にわたる看護研究のノウハウ蓄積があることを氏は紹介。近年はクリニカルラダーの一環として,部署単位でテーマを設定し2年間の研究に取り組み,随時看護学科教員の指導を受けてきたという。しかし,同院教育プログラムが文科省「看護職キャリアシステム構築プラン」に採択されたことを機に,教育や研究支援体制の充実をさらなる課題として設定。段階的な研究能力開発プログラムや,院内研究インストラクターの育成,看護実践キャリア開発センターの設置や研究交流会開催による看護学科との交流強化などを実行している。さらに今年度からは,看護学科教員とキャリア開発センターの専任看護師らがスーパーバイザーとなる,2年間の継続的な研究支援体制を整備。研究能力向上とモチベーションの維持を図りたいと語った。
慢性疾患看護専門看護師である馬場敦子氏(三菱神戸病院)は,臨床で働きつつ大学院博士課程で学んでいる。氏は自身の研究と実践のプロセスを,現場の課題に即した研究の選択→現場で使えるようアレンジ→氏自身が実践→スタッフが体得するまでフィードバック,と図示。現場に浸透するまで繰り返し実践できることが,臨床で働きながら研究を行う際の強みだと話した。
同院での糖尿病の短期教育入院プログラム立ち上げでは,先輩や自身の研究を参考に,患者の身体感覚に働きかける枠組みを考案。糖尿病担当ナースの継続的な育成や,外来療養指導の充実にも貢献でき,既存研究の発展にもつながったが,研究として客観的アウトカムを示せていないという課題も残ったという。氏はほかにも,文献や情報収集のツール不足,研究対象の患者との関係作りの難しさなどを問題点として列挙。研究と業務の質改善活動の区別と,研究をスムーズに進めるための組織との交渉や改革を,現場の看護師が連帯して行うことが必要と述べた。
その後の質疑応答では,「成果を"見える化"するためにどうしたらよいのか」という質問に,馬場氏が「患者の心理的変化についてアンケートをとったり,発言の変化などを積極的に可視化していく」と回答。「研究者がネットワークを作り,研究手法を補い合うことをどう考えるか」という問いには,真田氏が「TRにおいて"使える"研究手法を見いだしていくに当たり,多職種連携は大きな効果を生む。多職種のチームで看護がイニシアチブを取るには,論文を世に出していくこと」と答えるなどして,シンポジウムは盛会のうちに閉幕した。
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