医学界新聞

2011.01.17

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際

坂本 穆彦 編
坂本 穆彦,今野 良,小松 京子,大塚 重則,古田 則行 執筆

《評 者》長村 義之(国際医療福祉大病理診断センター長)

ベセスダシステム導入が急がれる現場で有用な手引書

 本書は,わが国にも本格的に導入された,子宮頸部細胞診の新しい報告様式である"ベセスダシステム2001"に関する解説・手引書である。

 広く知られるように,1980年代にそのころ用いられていたパパニコロウクラス分類やDysplasiaのグレードなどにおいて,不一致あるいは検体の適正などが医療訴訟にも直結する問題点としてあげられていたが,ベセスダシステム(The Bethesda System)は,その解決策として考案され普及してきた分類法である。(1)検体の適・不適を明確化する,(2)パパニコロウクラス分類を廃し,新しい診断システムを導入する,(3)細胞診の報告はmedical consultationと位置付ける,などがそのキーポイントである。

 2001年の改訂版では,骨子は大きく変わらないものの,(1)判定困難な症例に対するカテゴリーの用語に変更が加えられたこと,(2)ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus : HPV)に対する研究成果を取り入れたことなどが主な変更点である。これにより,HPV・DNAテストと細胞診の関連がクローズアップされた。

 ベセスダシステムは,わが国にとってはいわば"輸入品"であるが,昨今の医療現場からのニーズに答えるべく,積極的な導入が決定されている。日本臨床細胞学会でも,数多くの議論を経て,導入を決定している。婦人科から提出される細胞診標本は,現場では検査士が鏡検し,細胞診専門医,病理専門医が確認して報告することとなる。この際の検査士,専門医へのベセスダシステムの普及が極めて重要と言える。その意味で,本書は"日本人による日本人のための新しい報告様式の手引書"として重要なものである。

 本書の組み立ては,「I.ベセスダシステムの概容」「II.判定の実際」「III.報告の実際」から構成されている。紙面を多く割いているのは「II.判定の実際」である。ここには,ベセスダシステムの項目に合わせて,「A.検体の適・不適の評価」「B.非腫瘍性所見」「C.扁平上皮系異型病変」「D.腺系異型病変」「E.その他の所見」について詳しい記述とカラーの図が適材適所に示されていて理解しやすい。

 特に,扁平上皮系の異型病変では,(1)扁平上皮内病変(SIL):軽度LSIL/高度HSIL,(2)異型扁平上皮細胞(ASC),(3)扁平上皮癌(SCC),腺系異型病変では,(1)異型腺細胞(AGC),(2)内頸部上皮内腺癌(AIS),(3)腺癌などに分類される。それぞれ代表的な細胞像のまとめが"所見"の項にリストアップされていて,極めてわかりやすい。

 「III.報告の実際」では,まず厚生労働省からの通達によれば,(1)細胞診結果の分類には,日本母性保護産婦人科医会の分類およびベセスダシステムによる分類のどちらを用いたかを明記すること,(2)日本母性保護産婦人科医会の分類を用いた場合は,検体の状態において「判定可能」もしくは「判定不可能」(ベセスダシステムによる分類の「適正・不適正」に相当)を明記すること,となっている。また,報告書に関しても,検診での実例が添えられていてわかりやすい。

 日常の細胞診の現場で,検査士,病理医,産婦人科医にベセスダシステムの導入が急がれているが,本書は極めて有用な「手引書」といえる。すでに,細胞診に従事しているわれわれはもとより,これから検査士資格,専門医資格をめざす諸氏にも,わかりやすいガイドラインとしてお薦めしたい"一冊"である。

B5・頁224 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01051-1


専門医のための腎臓病学 第2版

下条 文武 監修
内山 聖,富野 康日己,今井 裕一 編

《評 者》黒川 清(政策研究大学院大教授・内科学 日本医療政策機構代表理事)

腎臓専門医とそれをめざす医師のための書

 2002年の初版以来の改訂版が出版された。600ページを少し超える,腎臓専門医とそれをめざす医師を対象にした書籍である。日常の臨床の場で,家での自習,検索に適している。1.4 kgとやや重いので,持ち歩くにはつらい。

 本書の初版は腎臓専門医の中でも評価が高かったと思うが,この改訂第2版では最近の知見を加えつつ内容のアップデートを図り,全面的に改訂したという。

 〔I.症候編〕では腎臓,体液調節系の臨床的によく遭遇する症候の生理学,病態生理学について丁寧に,わかりやすく解説してある。次いで〔II.新しい疾患概念〕として「慢性腎臓病」と「メタボリックシンドロームと腎」を取り上げ,さらに症候・疾患概念とは別に各疾患論が整理されている。このうちいくつかの疾患に「小児科の視点から」のコメントが掲載されているのはうれしい。

 全体として,編集諸氏の考え方が伝わってくるまとめ方であり,スマートな本になっている。患者に接したときの疑問,問題点の整理などにも役に立つが,全体像をまず把握するのに役立つだろうと感じる。特に,腎臓を専門としない方々や,医学部学生や研修医,また腎臓専門医をめざそうという方たちにもお勧めである。

 腎臓の専門医,あるいはさらに高度な知識を求められる方には,日常の診療の伴侶としてばかりでなく,この書籍を手元に置きつつハリソンの内科学,英語での成書にもちょっと目を通して,さらなる確認,自分の理解を深めておくことも必要であろう。また,最近ではインターネット上にもいろいろな興味のある教材ができている。視野を広め,最近の世界の動向にも留意しておくことが専門家としては必要なことである。何しろ情報は国境を越えて瞬時に広がっており,そこには世界の患者も,その家族もアクセスしているのだから。

 各項目とも読み応えもあり,よく整理されていて,明解である。著者諸氏のご努力に負うところが大きい。日常的に手元の使いやすいところに置いておきたい1冊であろう。

B5・頁640 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00861-7


地域医療は再生する
病院総合医の可能性とその教育・研修

松村 理司 編著

《評 者》邉見 公雄(全国自治体病院協議会会長)

間口を広く,かつ深いバイブル的地域診療の解説書

 「地域医療は再生する」のだろうか? この本のタイトルを見たときに,再生してほしいという当事者としての強い願望と,どんどん悪い方向に流れる現実との狭間で,少しわだかまりのようなものがあった。それを可能にするのは総合医である,というのが編著者・松村理司氏の持論である。総合医を"間口を広く,かつ深い"領域と述べているが,この本もそれを地でいっている内容である。

 かつて小生も,大学病院研究室から片道3時間をかけ毎週水曜日に手術応援に通っていた舞鶴市民病院での氏の総合医としてのご経験,音羽病院での院長としての御苦労が本書のレベルを高め,広くて深い地域医療のバイブル的解説書に仕上げられている。森鴎外と高木兼寛の論争が専門医と総合医のルーツ的なものというのも目から鱗,大学と市中病院に置き換えるのも可能であろう。スキルミックスやメディカルアシスタントも,米国での経験から説得力がある。50年,半世紀遅れになってしまっても,まだ追いつくチャンスはわずかに残っているとはかない希望も抱かせてくれる優しさもある。

 小生は,女性医師の"3H"はWarm Heart,Cool Head,Skill(Good) Handのことかと一瞬思ったが,予想外でかつ納得,参ってしまった。最も感心したのは,職員を守るためには筋を通して理不尽なクレーム・訴訟に院長が先頭に立ち門前払い。言うはやすいがなかなかできることではない。これにも私は参った,参った。本書を読んでからは先輩面ができなくなってしまった(実は,編著者は小生の大学の6年後輩である)。特に61ページの遺族に対する慰謝料御免,お断りの文章は腰越状以上の名文で,院長など病院管理者の心を打つ。複写して院長室に掲げておきたい。

 診断学の基本とも言うべき診断推論や臨床推論,そのために招いた大リーガー医,またチーム医療下での屋根瓦方式教育指導,専門医志向から家庭医の重要性,病院死から在宅死へ,そのための地域総合診療医。メディカルスクールや地域枠と医師の育成にも付言している。DPCと病院医療,わが国特有の中小病院における勤務医の実状,足利事件とDNA鑑定など,著者が四方にアンテナを高く上げているのがよくわかる。さらには,総合医の行う臨床研究,臨床疫学など同僚の若手医師も筆を奮っている。本書を読んだ院長や副院長,部長の先生方は必ずや自院の医師に短期研修,出前回診をお願いしたくなること請け合いである。

 小生は卒後40余年,大学周辺で研究していた数年を除き生粋のジェネラリストと思い,またそこそこやれる院長と思っていた。しかし,本書を読んで私の自負は木っ端みじん,寝苦しい夜が続いている。地域医療に自信のある方は,ぜひとも御一読を。また自信のない人も,私の故郷の阿波踊りのお囃子「よしこの」風に言えば"読まなきゃ損,損"。

A5・頁304 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01054-2


プラムとポスナーの昏迷と昏睡
Plum and Posner's Diagnosis of Stupor and Coma, 4th Edition

太田 富雄 監訳
Jerome B. Posner,Clifford B. Saper,Nicholas D. Schiff,Fred Plum 編

《評 者》山口 武典(国立循環器病研究センター名誉総長)

脳神経外科医や脳卒中専門医をめざす医師のバイブル

 Plum & Posnerの"Stupor and Coma(昏迷と昏睡)"は,脳神経外科医や脳卒中専門医をめざす医師にとってはバイブルであった。多くの方が若い時に繰り返し読んで勉強した記憶があると思う。なかでも意識障害の時に見られる眼球運動障害の絵は,わが国の教科書や総説にも多く取り上げられ,どこかで見たという記憶が頭の中に焼き付いている方も少なくないのではないだろうか。しかし,この素晴らしいテキストブックもCTの普及後に改訂第3版が出版されて以来,長い間,改訂されなかった。Fred Plum博士もかなり高齢であるので,もう絶版になったのかと思っていたが,ようやく2008年,27年ぶりに新しい知見を多く盛り込んだ第4版が出版された。

 それを受けて,このたび太田富雄先生(大阪医科大学名誉教授)監訳による日本語版が出版された。通称"3・3・9度方式"と呼ばれるJapan Coma Scaleの生みの親で,意識障害の第一人者である太田先生がご自身でも翻訳を担当されているが,他の翻訳者の顔ぶれを見ても,日本の脳神経外科・神経内科を代表する方々がずらりと並んでいるのは圧巻である。

 改訂が遅れた理由として著者らは次の2点を挙げている。まず,第3版の出版後,MRIに基づいた新たな情報が続々と報告され,また意識の神経学的基礎に関する諸説に著しい進歩が続いたため,これらを見極めるのに時間を要したことと記述の万全を期したことが挙げられている。もうひとつは,筆頭著者であるFred Plum博士が,「言語表現にいささか困難を感じるようになった」(改訂版の序文より引用)ため,新たな2人の弟子,C.B. Saper,N.D. Schiffの両博士に参画を求めて,改訂版の作成にかかったということである。

 さて,本書の一貫したスタンスは,著しく進歩した画像診断法などの診断技術の有用性は十分に認めながらも,病態生理を理解した上で患者の身体診察所見に基づいた診断と治療を進めるという基本的な姿勢で,これは絶対に崩してはならないことが強調されている。

 今回は図表がカラー印刷となり,よりわかりやすくなっていること,さまざまなMRI画像(fMRI,テンソル画像など)やPETを応用して意識障害の発生機序の説明がなされているのも特長であろう。新たに設けられたチャプターとして,わが国でもようやく軌道に乗ったかに見える臓器移植に関連する脳死の問題についても,その診断や診断におけるピットフォールなどが解説されている。また,遷延性意識障害の代表としてしばしば挙げられる植物状態や失外套症候群,それに2000年以降に提唱された「最小限の意識状態(minimally conscious state)」などについての詳しい記載,および重症意識障害患者の介護者における意思決定権についての倫理的問題点の解説(わが国の倫理観とは異なる点もあるが)など,医師の直面する重要な事項についても触れられている。

 また,必要に応じてBoxという囲みの中で詳しい解説がなされていることと,著者らの記述に加えて(著者らの許可の下に)翻訳者による脚注が付けられ,わが国の現状と照らし合わせた解説や補足がなされていることも特長である。読者の理解を深めるための配慮が行き届いている。

 意識障害患者を診察することの多い脳神経外科医,脳卒中内科医,救急医および研修医諸氏には,必読の書としてぜひとも座右に置いてほしい書籍である。

B5・頁432 定価9,030円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp

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