医学界新聞

2011.01.17

患者・病院・医療者の明日に変革を

第11回日本クリニカルパス学会開催


 第11回日本クリニカルパス学会が12月3-4日,河村進会長(四国がんセンター)のもと,愛媛県県民文化会館(愛媛県松山市)にて開催された。医療の標準化が推進される中,クリニカルパス(以下,パス)による医療システムの改革は必要不可欠のものとなってきた。一方,本学会テーマの「変革――さらなる良質医療を求めて」が示すとおり,病院全体の連帯感・プロ意識の向上など,パスが新たな飛躍を病院にもたらす可能性も見つかってきている。本紙では,そうしたパスの新たな一面に焦点を当てた話題2つと,冊子『患者必携』を通じた行政によるがん患者支援の取り組みを紹介する。


河村進会長
 会長講演「クリニカルパス活動を中心とした四国がんセンターの意識変革」では,同センターで進められてきたパス整備に沿って,パスの重要性が述べられた。河村氏がパスに取り組み始めたのは,氏が同院に初代形成外科医長として赴任した際,乳腺外科において各医師の判断に任されていた皮膚縫合の間隔,術後の創処置,抜糸時期,入院期間などを標準化するパスを導入したことがきっかけだという。パスによって,縫合跡の外観や抜糸までの入浴制限が改善され,その効果を実感したと氏は振り返った。さらに,形成外科医が行う縫合の美しさが同センターの医師だけでなく患者の間でも評判になり,外科医の縫合技術の底上げにもつながるという,思いがけない効果も得られた。

 この出来事をきっかけに同センターにおけるパスの重要性に対する認識は高まり,現在は108種のパスを運用。その使用率も紙パスの運用限界とされる60%にまで高められているという。さらに,2011年3月には電子パスの導入も予定されている。最後に氏は,本学会が医療政策や院内のシステムなど,医療にまつわる幅広い領域で「変革」が生じる契機となることを願って,講演を終えた。

パスを病院規模の連携にも役立つものに進化させるために

 パスは職種間の連携には役立つが,部署・診療科間の連携促進には十分な効果を発揮できていない施設も多い。シンポジウム「横断的チーム管理と院内連携――障壁を乗り越える秘訣とは?」(座長=女子医大・齋藤登氏,佐久総合病院・竹村隆広氏,コメンテーター=前橋赤十字病院・池谷俊郎氏)では,そうした問題の改善に向けた取り組みが紹介された。

 まず,診療情報管理士として那覇市立病院の電子パス設立に携わった平安政子氏が登壇。同院では,パスの電子化に着手すべく2008年4月にパス委員会を立ち上げ,同年9月に最初の電子パス運用が開始された。パスの作成支援・承認・運営支援などは,委員会から6人を抽出したコア委員会が行っている。氏は,コア委員会の重要な役割として,部署間連携の調整を挙げた。例えば,パスで使用が規定された薬が経過措置対象になった場合は,コア委員会が当該の薬が使われているパスを一括して変更することにしたという。最後に氏は,各疾患のパスを委員会が一括管理する効率性を指摘し,講演を終えた。

 若園吉裕氏(京都桂病院)は,自身が取り組むTQM(Total Quality Management)について報告。TQMは,患者,業務プロセス,職員,財務などに関する問題点を,部署を超えた連携により解決する風土づくりなどに取り組む概念だ。氏は,その例として医療の効率化をめざした電子版処方オーダリング推進を提示。電子版への移行が遅れている要因の検証・改善の結果,電子版の使用率は大きく飛躍したという。このような取り組みから氏は,院内連携強化には参加型の議論により院内コミュニケーションの拡大と深化を図ることなどが重要であると結論付けた。

 佐久総合病院の依田尚美氏は,パス専任看護師としての経験から,術前検査の外来実施のためのパス作りなどについて報告した。同院では,術前検査センターが全科の術前検査を一括して行ってきた。その中で,科ごとに検査項目が異なることによる事故の防止のため,検査の標準化を検討。標準化により事故発生の危険を回避したほか,検査件数の削減による業務効率化にも成功した。また,脳梗塞の治療法を院内で標準化した例を紹介。議論の場には,各科の医療職員のほか,医事課職員,診療情報管理士などが出席し,バイタルサインの正常範囲の統一,まひ評価法のNIHSSへの一本化などを経て,標準化に成功したという。最後に氏は,組織を動かすためには,データに基づく主張が有効であるとした。

 佐藤博氏(新潟大病院)は,同院における職種間連携・経営戦略作りのマネジメントについて報告。同院では,1999年の治験センターの立ち上げと運営,2001年のパス作成・運用におけるマネジメント,NST講習会(04年以降)等の運営など,病院規模の連携・統率において薬剤部が大きな役割を果たしてきた。氏は,その要因として,薬剤部と各診療科・事務部門との連携範囲の広さを挙げ,職種・部門間の障壁を解消し,病院全体のチーム意識向上と経営効率改善における薬剤部の重要性を主張した。

 最後に,座長の齋藤登氏が,女子医大病院のパス運用について報告。同院では,複数の診療科への受診が見込まれる疾患の治療法の院内統一,大病院ゆえに薄れてしまいがちな個々人のパスに対する主体性の高揚などをめざして,2004年にクリニカルパス推進委員会を発足した。委員は全職種から計72人を集め,これまでの約5年間で全職員約2800人のうち延べ330人が委員を経験し,パス運営を主体的に考える契機となっている。一方,パス作成・運用の支援などは,委員会から選出したパス推進室メンバー16人が担当。治療法の院内統一のほか,医師向けおよび全職員向けのパス研修を行っている。

行政発,『患者必携』によるがん患者支援

 特別企画「知っておきたいがん患者必携とがん情報サービス――情報提供と相談支援の取り組み」では,渡邊清高氏(国立がん研究センターがん対策情報センター)が行政によるがん患者に対する情報提供の取り組みを紹介した。

 現代の医療では,費用・療養場所・痛みなどの治療に関する十分な情報のもと,患者と医療者が対等の立場で面談を重ねた上で治療が進められなければならない。そうした考えに基づき,氏が属するがん対策情報センターでは,がん患者に正確で十分な情報を伝えるための取り組みを行っている。その一環が『患者必携』という3つの冊子で,センターのwebページにて公開されている。『がんになったら手にとるガイド』は,がん告知後の精神面の自己管理法や,手術・緩和ケアなどの今後の治療の流れを知ることができる。『わたしの療養手帳』は,患者が受けた説明や治療内容・体調の変化の記録欄や,高額療養費制度など治療の際に活用できる制度が記載されている。『各種がんの療養情報』は,がん告知後の検査,治療,経過などをがん種ごとに冊子化したものだ。さらに,地域で受けられる医療サービスを都道府県ごとにまとめた冊子も現在準備中だという。

 最後に氏は,『患者必携』を患者と医療者の対話ツールとして,また,切れ目のない療養生活を実現するためのプラットフォームとして活用してほしいと呼びかけた。

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