医学界新聞

寄稿

2010.12.06

視点

神経病理診断の新しい潮流
日本神経病理学会・神経病理コアカリキュラムセミナーの創設

新井信隆(東京都神経科学総合研究所・神経発達再生研究分野 日本神経病理学会・神経病理コアカリキュラム委員会)


 「パーキンソン病」と耳にして,「レヴィ小体」を思い出し,「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を目にして「ブニナ小体」を思い浮かべたレジデントは,国試の勉強の余韻がまだ続いている記憶力のよいドクターに違いない。これらはこれまで変性疾患と呼ばれ,症候や検査で診断は可能であってもいまだ原因は不明の,いわゆるブラックボックスであった。しかし,最近の数々の研究により,多くの疾患で蛋白のコンフォメーション(構造)異常が解明され,ボックスの内部が明らかになってきた。

 α-シヌクレインという蛋白がリン酸化され細胞内に凝集する現象が,パーキンソン病,レヴィ小体型認知症,多系統萎縮症の共通基盤であることが明らかとなり,シヌクレイノパチーという疾患カテゴリーが生まれた。また,運動ニューロン疾患の代表格であるALSと前頭側頭型認知症という,臨床的にはこれまでかなりギャップのあった2つの疾患群は,2006年に発見された蛋白TDP-43の異常凝集現象を共有していることが明らかとなり,TDP-43プロテイノパチーに包含されつつある。

 その他,タウ,ポリグルタミン,アミロイド,プリオンなど,蛋白コンフォメーションの異常という観点から,多くの神経疾患が再整理されてきている。アルツハイマー,パーキンソン,ハンチントン,ヤコブといった先達の名前が疾病名から消えることはないものの,生涯教育として分子基盤による病態機序にキャッチアップしておくことも求められるだろうし,それらの情報にアクセスしやすい環境を提供することも,専門家集団の責務である。

 日本神経病理学会(理事長=新潟大脳研究所・高橋均氏)では,ホームページに「脳・神経系の主な病気」のコーナーを設け,各種神経疾患の病理学的な見方を発信してきている。また2004年からは,学術総会の事務局主催の教育企画を続けており,今春の企画では受講者が300名を越える盛況ぶりであり,関連領域の非会員の参加も多かったようである。これは,臨床重視のコアカリキュラムで学んできた若手ドクターに潜在的にある「やっぱり基礎的な病態もちゃんと学びたい」という気持ちの現れではなかろうか。

 それらの期待にいっそう応えるため,この夏新たに神経病理コアカリキュラム委員会を立ち上げ,神経疾患の病理学的知識のミニマム・リクワイアメンツを勉強してもらう教材を策定してゆく予定である。さらに,来年京都市で開催される日本神経病理学会学術総会(会長=京府医大・伏木信次氏)において,委員会主催の第1回目の教育セミナーを開催する(2011年6月2日)。詳細は今後,学会ホームページやその他の媒体を通じて発信してゆくが,基本的なスタンスとしては,初心者大歓迎であり,予備知識がなくとも1日のセミナーに喰らいついていただければ,これまで心の中でブラックだったかもしれない神経病理への印象がパッと明るくなる,そのようなセミナーにしたい。興味ある方はレジデントならずとも,喰らいついてほしいと願っている。

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