医学界新聞

2010.11.29

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際

坂本 穆彦 編
坂本 穆彦,今野 良,小松 京子,大塚 重則,古田 則行 執筆

《評 者》石井 保吉(こころとからだの元氣プラザ臨床検査部長)

日本人による日本人のための新しい報告様式の手引書

 細胞学会創立から50年余り,近年に至るまで日本の子宮頸部上皮内病変の細胞診判定基準は,パパニコロウのクラス分類が日母分類においても採用され,各施設独自の表現方法で行う報告様式が用いられてきた。施設によっては,クラス0というカテゴリーを作り,あるいは数個の細胞のみでも異型細胞を認めなければクラスIと判定するなど,各施設間で統一性のない結果報告がされ,検体の適正・不適正判定の記載項目も対応していなかった。その結果,従来の分類は2007年に廃止を決定し,2009年4月より日本産婦人科医会が推奨する"ベセスダシステム2001"が日本にも本格的に導入された。

 ベセスダシステムの利点は以下の3点にある。

 (1)検体の適・不適の判断には,乾燥や血液混入などによる細胞判定が難しい検体が含まれる。また,保存状態の良好な扁平上皮細胞が,直接塗抹である従来法では8,000個以下,液状処理法では5,000個以下の検体は,不適正検体とされる。不適正の理由が報告書に記載されるシステムになっており,われわれ細胞診判定を行う者の側に立った報告様式となっていること。

 (2)細胞診判定の推定病変名の記述は,組織診の診断と同じプロセスを採用している。軽度扁平上皮内病変(Low-grade Squamous Intraepithelial Lesion, LSIL)はCIN分類ではCIN1に,取扱い規約分類では,軽度異形成が含まれる。高度扁平上皮内病変(high-grade squamous intraepithelial lesion, HSIL)にはCIN2とCIN3が含まれ,CIN2は中等度異形成,CIN3には高度異形成および子宮頸部上皮内癌(carcinoma in situ ; CIS)が含まれること。

 (3)ベセスダシステムで新しく採用された扁平上皮内病変(squamous intraepithelial lesion : SIL)は,HPV感染と発癌に関する分子生物学的研究成果を取り入れて設定されたものであること。

 子宮頸部細胞診をみていての私見であるが,癌は主に移行帯領域に発生する。HPV感染所見の一つであるKoilocytotic atypiaは,LSILに分類される。また,扁平上皮化生細胞に由来した核異型細胞で細胞像に分化傾向がみられるSILは中等度異形成に,未熟な扁平上皮化生細胞に由来した核異型細胞で細胞像に分化傾向がみられないSILは高度異形成,あるいは上皮内癌としてHSILに分類される。これらと移行帯領域から発癌する事実が,ベセスダシステム2001で提唱する判定基準に形態学と分子生物学的融合の結果に一致するようになるのではと考えている。したがって,LSILでは発癌し難いが,HSILでは発癌する可能性が高いため,中等度異形成が持続するケースは厳重フォローアップが必要と思われる。

 日常のスクリーニング業務を行いながら書籍『子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際』の書評を書く機会を得たことにより,私自身も学ばせていただいた。意義不明異型扁平上皮細胞(Atypical Squamous Cells of Undetermined Significance, ASC-US)からHSIL,異型腺細胞(Atypical Glandular Cells, AGC)まで網羅され細胞像も豊富で,しかも,簡潔で理解しやすい説明が満載された「日本人による日本人のための新しい報告様式の手引書」である。細胞検査士,専門医だけでなくこれから細胞診を学ぶ方々,また,検診者の指導方針を決定する婦人...

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