医学界新聞

インタビュー

2010.10.18

【interview】

助産師が自らの役割を果たすために

進純郎氏(聖路加産科クリニック所長/聖路加看護大学臨床教授)
堀内成子氏(聖路加産科クリニック副所長/聖路加看護大学教授)


 近年,院内助産所や助産外来の開設など,助産師による新たな試みが注目されています。しかし,お産にはさまざまな危険も伴うことから,正常妊婦の健診,分娩,産褥を助産師が自立して担っていくには,妊婦の状態を生理学的に理解し,理論に根差した技術を習得することが不可欠です。本紙では,このほど「ブラッシュアップ助産学」シリーズの第1弾として『正常分娩の助産術――トラブルへの対応と会陰裂傷縫合』を上梓した,聖路加産科クリニックの進純郎氏と堀内成子氏に,今助産師に求められている能力や,今年6月に開設された同クリニックの現状についてお伺いしました。


――近年,助産師の役割があらためて見直されています。

堀内 院内助産所や助産外来が各地で生まれていますね。助産師が主体的に運営している施設もある一方で,妊婦健診を部分的に行うだけであったり,助産師の役割が保健指導のみに限られていたりするなど,力を発揮しにくい状況もあると聞きます。

 私は,正常妊婦の健診から分娩,産褥までを自立して助産師が担えるように,腹をくくって取り組む時期に来ていると考えています。そのためには,助産師が自信を持って妊産婦に向き合える技術を身に付け,それを発揮できるシステムが必要です。そこで,助産師自身で行う「チーム編成による継続した助産システム」を提案したいと考えました。

――聖路加産科クリニックは,先生のそのような思いが結実したものなのでしょうか。

堀内 私は大学で助産教育に携わるなかで,教育研究と実践現場とのギャップを憂いていました。ですから,助産師が最大限の能力を発揮でき,かつ実践を積める場として,独立型の助産施設の開設を考えたのです。

 2008年1月に聖路加国際病院の敷地内建物の有効利用が検討されていることを聞き,助産施設の開設準備に加わらせてほしいと福井次矢院長にお願いしました。日野原重明理事長も以前から「助産師はもっと自立した活動ができるはず」という考えを持っていましたし,また当院のある東京都中央区には分娩施設が当院しかなく,分娩予約が常にいっぱいという状況があり,区の支援も受けて実現に至りました。

 準備段階では,助産所,診療所のいずれを開設するか検討しましたが,土地の有効活用を考え,19床の診療所としてスタートしました。進先生に所長をお願いし,現在22人の助産師が主体となって運営しています。

産む力,生まれる力を支援する

――クリニックの特徴を教えていただけますか。

堀内 まずはじめに,利用者が理解しやすいように「99%助産所のようなクリニック」と謳っています。利用者相談会においても,帝王切開や硬膜外麻酔はできないこと,陣痛促進剤はできる限り使用しないことなどを説明します。また,自然分娩ができるよう「女性の産む力,赤ちゃんの生まれてくる力」を支援しますが,転院や搬送になる場合があることもお伝えします。

――手応えはいかがですか。

堀内 スタッフは病院等で十分な経験を積んできた人たちですが,責任の持ち方がこれまでとは異なると言っています。外来における診察や妊婦への説明はすべて助産師が行うので,一生懸命勉強して,進先生に予習復習の段階で相談に来ています。

 自分がやらなければいけないと思うと,人間は本当に強くなりますね。また当クリニックでは,助産師が5-6人ずつ,4つのチームに分かれ妊婦を担当しています。そのような体制をとることで,各チームが互いによい刺激を与え合っているように思います。

ケア付きの助産外来で妊婦との信頼関係を築く

堀内 正常分娩につなげるためには妊娠中からのかかわりが重要なので,時間に余裕を持って妊婦との関係をつくるようにしています。妊婦健診には,1人当たり45分ほどかけます。そのなかで,足のむくみがある方や血圧が高めの方には,根気よくマッサージをしたり腰を温めたりする...

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