日本肝胆膵外科学会発・高度技能医修練プログラム(山本雅一)
寄稿
2010.10.11
【寄稿】
社会が求める医師の育成をめざして
日本肝胆膵外科学会発・高度技能医修練プログラム
山本雅一(東京女子医科大学消化器外科主任教授/消化器病センター長)
日本肝胆膵外科学会では,肝胆膵における高難度手術を安全に施行できる医師を育成するために,肝胆膵外科高度技能医制度を2008年に立ち上げた。制度を立ち上げるに当たり,全国160の修練施設と,約400人の指導医が認定された。修練施設には高難度手術を年間50例以上行っているA施設,30-49例行っているB施設がある。
修練施設は群馬県を除く全都道府県に存在し,人口100万人に対して1-2か所分布している(図)。修練施設には高難度手術を100例以上行った指導医の存在が必須である。高難度手術とは,卒後15年以上経過した指導的外科医が主に執刀する手術で,消化器外科専門医制度の高難度手術や外保連試案の技術区分Eとほぼ同等の技量が要求される(表1)。
図 人口100万人当たりの地域別修練施設数 |
表1 高難度肝胆膵外科手術の内容 |
表2 高難度手術の手術成績(2009年) |
高度技能医をいかに育成するか
高度技能医は,修練施設において教育される。カリキュラムとしては,指導医のもとで高難度手術50例を術者として手術すること。膵臓あるいは肝臓の手術の偏りがあっても,最低でも5例ずつ以上の経験をすることが定められている。
また,第一助手としての経験も重視している。何より,日ごろの指導医からの形成的評価が大切で,最終的に指導医の推薦にて高度技能医の申請がなされる。知識,態度については外科専門医,消化器外科専門医の取得により担保され,専門的な業績も,肝胆膵外科学会の評議員資格にて審査されている。
さらに,肝胆膵外科学会での教育プログラムの受講も必須である。技術だけでなく,先端的な知識の修得,高難度手術を施行する倫理的側面も評価対象となっている。
制度の導入が従来の教育の見直しにもつながった
現在,東京女子医科大学消化器外科では,数名の高度技能医修練生に対する指導が行われている。これまで大学病院では高難度手術は教授あるいは准教授のみが施行できる手術とされてきた。しかし,修練生に執刀の機会を与えることで,若い外科医のmotivationが明らかに向上してきている。また,高難度手術であっても修練生ができないという手術はほとんどないと考えるようになった。この制度は,指導医クラスの医師の意識改革も促している。
今後のスケジュールとしては,来年1月に申請が行われ,その後書類審査,ビデオ審査を経て,6月の第23回日本肝胆膵外科学会にて肝胆膵外科高度技能医第1期生が誕生する。この高度技能医はこれからの肝胆膵外科の指導者となる人材であり,今後は安全に高難度手術を施行するとともに高度技能医を育てる責務を負うこととなる。
医学系学会の責務として
今後の課題は,社会の認知である。高度技能医,高度技能指導医,修練施設,手術成績の情報を社会に公開し,社会から肝胆膵外科高度技能医制度が認知されることが重要である。肝胆膵外科高難度手術を要する患者が修練施設に集約し,肝胆膵外科をめざす若い外科医の手術経験を増加させ,さらに手術成績が向上することで,この制度が社会に貢献できる。
しかし,症例集積の結果,日本全国どこでも均等に高度な診療ができなくなるのではないかとの危惧もある。外科医が今後も減っていく可能性が高いこと,症例自体が数多くないこと,高度な技能を必要とすることなどを考慮すると,施設をある程度限定して症例を集約することはむしろ患者のメリットになると考えている。
医学系学会は社会が求める医師を育てる責務がある。肝胆膵外科高度技能医制度は,肝胆膵外科高度技能医を育て,安全に高難度手術を施行することで国民福祉向上に貢献することを目的としている。患者が肝胆膵外科高度技能医を求めて病院を選ぶ時代がそう遠くないと信じている。
山本雅一氏 1981年筑波大医学専門学群卒。同年女子医大消化器外科医療練士研修生,85年同肝外科グループに所属。89-91年都立駒込病院,94年都立荏原病院外科等を経て,99年女子医大消化器外科助教授,2004年同教授,06年同主任教授,10年同大消化器病センター長。現在,日本肝胆膵外科学会理事,日本外科学会代議員,JDDW広報委員会委員等を務める。若手医師の育成にも積極的に取り組んでおり,『レジデントのためのこれだけは知っておきたい! 消化器外科』(医学書院)などの編集を手がける。 |
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