医学界新聞

寄稿

2010.10.04

【interview】

日本にチーム医療を根付かせるには,IPEを根付かせることが必要

北島政樹氏(国際医療福祉大学学長)に聞く


全学を挙げてチーム医療の基盤作りに取り組む

――先生は,国際医療福祉大で積極的にIPEを推進しておられます。今,なぜ医療福祉教育にIPEが求められているのでしょうか。

北島 まず,IPEはチーム医療のあり方を学ぶのに有効な手段だという理由が挙げられます。

 現代医療は日々高度化,専門化しており,患者さんにとって安心・安全な医療サービスを提供するには,複数の専門職の連携が必須です。昨年8月からは厚労省でも「チーム医療の推進に関する検討会」が始まり,11回に及ぶ検討が重ねられました。その結果,本年3月に「医療スタッフ間の連携・補完を一層進めることが重要」と明記された報告書が取りまとめられ,チーム医療推進の方向性が固まっています。そのようななかで,より早期からチーム医療のノウハウを身に付けることが求められているのです。

 また近年,医学・医療福祉教育においては,early exposureと言って,より早期から現場を体験する教育手法が重要視されています。そうした側面からも,学生時からチーム医療を実体験する機会となるIPEが注目されているのだと思います。

――国際医療福祉大には多様な医療専門職をめざす学生が在籍していますから,さまざまな連携のあり方を学ぶことができますね。

北島 そうですね。今,IPEを取り入れている大学はだいぶ増えてきましたが,本学ほどたくさんの学科でチームを構成している大学はないように思います。看護学科に始まり医療福祉・マネジメント学科まで8学科の学生がIPEに参加しており,関連職種連携論のほか,関連病院のドクターに症例を提示してもらって問題解決型体験学習を行う連携ワーク,そして連携実習と,多角的にケアの視点を理解できる機会をいくつも設けています。

――連携ワークでは,参加する学生も800人以上にのぼると伺っています。

北島 ええ。学生たちは10-11人で1グループを作って学習を進め,11月の発表会では全グループがその成果を発表します。私も毎年,1つひとつ発表を見てまわり,「学長賞」を選定しているんですよ。

 また,それぞれのグループにチューターが加わるので,教員も80人以上参加することになります。私のこれまでの経験から言って,教育において重要なのは,システムをしっかりつくり,指導教員を組織化することです。全員が同じ視点に立ち,グループ間に温度差が生じないよう,本学では事前にチューターを務める教員が一堂に会し,IPEへの知識・理解を深める機会を作っています。

連携実習の一場面。臨床スタッフに患者さんの様子を尋ねる学生たち。
――文字通り,全学を挙げて取り組まれているわけですね。学長である北島先生ご自身がIPEを推し進めることを明言され,その意欲がトップダウンで教員の方々に伝わっている,という点も大きいのではないでしょうか。

北島 確かにそういう面はありますね。トップの考えがはっきりしなくては,教員もついてきません。

 教育に時間やお金をかけようとしても,現場の努力だけではなかなかことが進まない場合もありますので,そうしたときにこそ,組織のトップに立つ人物が“やるといったらやる”精神でリーダーシップを発揮すべきだと思っています。

“日本型”のチーム医療とは

――国際医療福祉大ではIPEでチーム医療の基礎を固めると同時に,関連病院でもキャンサーボードを実施するなど,現場でのチーム医療にも力を入れておられますね。これからのチーム医療は,どうあるべきなのでしょうか。

北島 チーム医療のチームというのは,院内に1つあれば完結するものではありません。入院時に診断を行うチーム,手術・治療を実施するチーム,術後のリハビリ・栄養サポートを担当するチーム,さらには在宅医療や緩和医療を担当するチームと,患者さんの病期によっていくつものチームをつくる。これが将来のチーム医療のあるべき姿であり,日本型のチーム医療だと言えるでしょう。

 そしてチームの中では,患者さんにかかわるすべての職種が忌憚のない意見を出し合って議論し,ケアに反映させていければ理想的です。

――患者さんを囲んだ連携体制を組んだ上で,それぞれの職種が病種や病期に応じて専門的アプローチを行うということですね。

北島 ええ。1人の力では限界があるところ,多職種の専門職が役割に応じた知恵を出し合って,患者さんにとって最良の医療を提供することこそが,チーム医療のコンセプトです。

 その点でもIPEは,より早期に他職種の考え方を学び,自分のめざす職種の役割を自覚する手段となります。また,一人の患者さんを囲んで皆でケアを考えていくという,患者さん中心の視点を養うことにもつながります。ですからIPEを根付かせることは,日本にチーム医療を根付かせることだと私は考えています。

イノベーションなくして進歩なし

――今後の医療福祉教育の展開について,お考えをお聞かせください。

北島 Early exposureをさらに拡大して,早期から医療に触れる体験を増やすことは大切だと思っています。本学では先日,近隣の小中学生を対象に,「キッズスクール」と題して医療福祉について学べるイベントを開催しました。「ヘルスケア・ジュニアリーダー」というコースでは,手術シミュレーター体験や反射検査,とろみ食作りなど,急性期・回復期・在宅期に分類したプログラムを作り,修了した子には認定証を授与し,とても喜んでもらえました。これはある意味,究極のearly exposureと言えるでしょうね。

――大学について,地域の人々に知ってもらうよい機会にもなりますね。

北島 そうですね。IPEの連携ワークの発表会でも地元の高校の校長先生に審査員をお願いするなど,地域に密着した取り組みも進めています。そうすることで,本学を志望してくれる高校生も増えますし,ひいては医療福祉の発展につながると思っています。

 イノベーションのないところに進歩はありません。教育改革には時間もかかりますし,苦労も多いですが,そのぶん巣立っていった学生が社会で花開いたときは何よりの喜びですし,教育者としてのモチベーションアップの原動力となります。地道な努力で,将来の医療福祉を支える人材を育てていきたいですね。

――ありがとうございました。

(了)

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