医学界新聞

寄稿

2010.09.27

【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
睡眠時無呼吸症候群

【今回の回答者】榊原博樹(藤田保健衛生大学教授・呼吸器内科学)


 睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome:SAS)は有病率が高く,特に高血圧症や脳卒中,冠動脈疾患,糖尿病と合併することが多く,これらの疾患の発症リスクとなったり,増悪因子となっています。この記事によって,幅広い診療科で診療に従事する読者の方々に,多様な疾患に合併しうるSASの病態について知っていただく契機になれば幸いです。


■FAQ1

SASをはじめとする睡眠障害の病態について教えてください。

 用語の正しい理解と使用は情報の伝達の前提であり,極めて重要です。かつて日本の専門家がSASとSDB(Sleep-disordered breathing:睡眠呼吸障害)を正しく使い分けなかったため,この分野の情報が混乱していた時期がありました。に情報の受け手として必要な用語の知識をまとめてみました。

 睡眠障害の診療でおさえておきたい用語

 無呼吸は上気道の閉塞(窒息)が原因であり,呼吸運動が残っている閉塞型,呼吸運動も停止する中枢型,中枢型で始まり閉塞型に移行する混合型の3種類に分類されます。低呼吸としては,日本のほとんどの検査施設は表に示した定義を採用しています。一方,覚醒反応の判定は技師間・施設間の一致率が悪いことを考慮し,米国で行われた大規模な臨床研究では,「(1)4%以上の酸素飽和度の低下」をともなうイベントのみを低呼吸としました。そのため,米国睡眠医学会(AASM)もそちらの基準を推奨しています。しかし,低酸素血症はなくても頻回の覚醒反応は昼間眠気の原因になり,患者のQOLに影響することは間違いありませんので,日本では表に示した基準を用いる施設が多いのです。

 呼吸努力関連覚醒(Respiratory effort related arousal:RERA)は閉塞型無呼吸,低呼吸と同列の異常な呼吸イベントとしてカウントされることがあります。これを正確に診断するためには食道内圧(胸腔内圧)の連続モニターが必要ですが,鼻圧センサー(通常用いられている呼吸気流センサー)による呼吸気流曲線の形状変化から上気道抵抗の増大を推定することができます。

 日本の持続陽圧呼吸療法(Continuous positive airway pressure : CPAP)の保険適応基準は,「20≦AHI+関連症状」であり,AHI(無呼吸低呼吸指数,Apnea hypopea index)重症度の基準から逸脱した中途半端な設定になっていることに注意してください。ちなみに米国のCPAP適応基準は,「5≦AHI+関連症状」あるいは「15≦AHI」とされています。

 酸素飽和度低下指数(Oxygen desaturation index:ODI)は,簡易モニターで得られる最も重要な指標ですが,全記録時間あるいは全就床時間が基準(分母)となり,中途覚醒が長いと睡眠1時間当たりとして算出するAHIとの間に解離が生じ,睡眠中の呼吸異常を過小評価する傾向があります。

日本人のSAS・SDB有病率は米国並みか

 米国では30-60歳の男性の24%,女性の9%に5≦AHIの睡眠呼吸障害がみられ,15≦AHIと基準値を厳しくしても男性の9%,女性の4%に達するといわれます。日本でもようやく勤労者を対象とした調査結果が報告され,米国と同等かそれ以上の有病率であることが明らかになりました。

 一方,米国のSASの有病率は,30-60歳の男性の4%,女性の2%といわれます。日本でも同等かそれ以上の有病率と推定されています。ただし,最近の研究により,15≦AHIならば症状がなくても高血圧や心・脳血管障害のリスクになることが明らかになったことから,15≦AHIの患者には症状の有無にかかわらずSASと診断することもあります。SASの98%以上は閉塞性睡眠時無呼吸...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook