医学界新聞

2010.09.27

産後大出血の処置をシミュレーション

第4回へき地・地域医療学会の話題から


 第4回へき地・地域医療学会が8月21-22日,海運ビル(東京都千代田区)他にて開催。医療情報,メンタルヘルス,地域保健,薬剤管理,栄養管理,臨床工学,放射線などの多様な分野からへき地・地域医療発展のための議論が展開された。本紙では,学会の支援のもと開催されたALSOデモンストレーションコース「ALSOと米国の周産期管理――米国地域医療における家庭医・総合医の役割」のもようをお伝えする。

高校生を選抜し長期・高密度の教育を実施

産後大出血の処置に取り組む参加者
 まず,ALSOの顧問委員であるEugene Bailey氏(米国SUNY Upstate Medical University)の講演が行われた。大きなテーマの一つは,氏の大学の家庭医養成システム。氏によると,家庭医養成は高校生のスカウトから始まる。この際,家庭医に適した人間性を示す調査統計データなども参考にする。例えば,(1)医療サービスを受けにくい少数民族の出身,(2)公的医療保険加入者,(3)医学部入学前から家庭医療に強い興味を持っていること,(4)医療過疎地域出身という4つの背景のうち,すべてに該当する学生はその86%,3つに該当する場合でもその65%の学生が家庭医療へ進むという。

 スカウトした学生には,Medical school入学前から地域奉仕を課し,入学後も1・3・4年次に2-4週間の実習を設けるなど,密度の濃いカリキュラムをそろえている。そのなかでも,3-4年次の実習は9か月におよぶ長期のもので,学生が一人ずつ地域の実習先に入り,家庭医療,外科,老年医学,泌尿器科,耳鼻科,麻酔科,整形外科,放射線科などの診療を幅広く体験する。毎月実習先を訪問する指導医によるきめ細かなサポートも魅力だ。現在,これらの教育を経た200人の医師たちが,ニューヨーク州の各地で活躍しているという。

 後半は,シミュレータを用いた産後大出血のデモンストレーション。出血に伴い悪化するバイタルサインの回復と並行して,出血原因の検索を進めるという設定だ。産後大出血の原因は,(1)子宮筋の緊張(Tone)低下による子宮弛緩症(原因の70%),(2)子宮頸管裂傷(Trauma,20%),(3)胎盤遺残・癒着胎盤(Tissue,10%),(4)凝固異常(Thrombin,1%)の4つ(4T)のうちのいずれかであることが多く,原因検索はこの4点の検証を軸に進められた。

 この日の症例では,出血直後の時点で子宮筋の収縮不良がみられ,オキシトシン,メチルエルゴノビン,プロスタグランジンFを順次投与することで子宮筋の収縮良好となった。胎盤遺残・癒着胎盤,凝固異常はみられなかった。続いて子宮頸管を調べてみると鮮血部位がみられ,患部の縫合を経て出血は治まった。しかし,子宮筋収縮不良と子宮頸管裂傷による出血で産科的DIC状態となったため,ICUでの治療を継続することとなった。

 デモの後は,受講者も実際に処置に挑戦。医学生の受講者は緊張した表情を示す場面もあったが,熱心に取り組んでいた。産後大出血は,妊産婦の死亡原因において産科的塞栓症に次いで2番目に多い。今回のコースの責任者である伊藤雄二氏(西吾妻福祉病院)は「産婦人科医が不足するなか,家庭医への期待は大きい」と受講者を激励した。

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