医学界新聞

2010.09.20

急性期病院が取り組む在宅療養支援

第14回日本看護管理学会の話題から


 第14回日本看護管理学会(大会長=東京都看護協会・嶋森好子氏,会場=パシフィコ横浜)では,「急性期病院における訪問看護との連携の在り方を考える――外来から始まる在宅療養支援」と題するシンポジウムが8月20日に開催された。診療報酬上の評価も後押しし,退院支援・在宅療養支援の取り組みが本格化している。シンポジウムでは外来と病棟,病院と地域をつなぐ連携も視野に入れた討論が展開された。

退院支援は病棟看護師の主体的参加が不可欠
 聖隷浜松病院では「院内退院支援看護師制度」を実施しており,1年間(月1回)の研修を通して地域医療連携システムや退院支援の役割を学習している。現在は,在宅連携担当の専任・専従看護師5人とは別に,19の職場に189人の認定者を配置。同院の熊谷富子氏は「退院支援の教育を受けた看護師が病棟に配置されていることが大事。後輩看護師への教育にも貢献している」と,院内認定制度の意義を述べた。さらに続けて,在院日数短縮や外来治療の高度化などにより,外来段階(入院前)から在宅支援が必要と思われる事例が増加していると指摘。外来での退院支援の取り組み例として,地域の医療者との情報共有,退院後の初回受診時における在宅療養支援の評価,専門・認定看護師との連携などを挙げた。

 次に登壇した宇都宮宏子氏(京大病院)は,2002年に退院調整看護師として京大病院に着任以来,入院患者の退院支援を病棟看護師とともに行っている。退院調整が「患者の決定を可能にするための地域医療・福祉サービスの調整」であるのに対し,退院支援は「患者が自分の病気を受け止め,生活の場に帰るための“受容”と“自立”に向けた支援」であると指摘。退院支援は(退院調整部門だけではなく)病棟・外来看護師の主体的関与が不可欠であると強調し,「患者と“退院後の生活”について語り合えるようになった」と病棟看護師の変化を報告した。今後は外来での在宅療養支援の役割が増すほか,多死時代を支えるに当たって急性期看護と訪問看護の“看護のリレー”が重要であるとの認識を示した。

現任教育に在宅実習を組み込む
 訪問看護の立場からは秋山正子氏(ケアーズ白十字訪問看護ステーション)が,人生最後の日々を自宅で送るために訪問看護を依頼した独居の末期癌男性の事例を紹介。病院で寝たきりだったその患者は,自宅へ帰ったその日に部屋の模様替えを始め,入院中は我慢していた好物のカップラーメンを食べたという。「家に帰ればやりたいこと,できることがあり,自分の生きる力を見いだしていく。退院支援ではクリエイティブな発想力が必要」と訴えた。さらには,病棟と外来,病棟と在宅,外来と在宅における看護師の「看・看連携」を積極的に行う必要があると指摘。急性期病院の看護師に在宅のイメージを持ってもらうため,近隣の訪問看護ステーションで実習研修を行う仕組みが,東京都新宿区の研修事業として動き出していることを報告した。

 その後の討論では,宇都宮氏が「生活者としての患者さんを学生時代に学んでいるはずなのに,病棟業務に追われるとみえなくなる」と問題提起。カンファレンスではそうした気付きを促すことを心がけていると報告した。会場からは現任教育プログラムに在宅実習を組み込む提案があり,秋山氏も,ベテランの病棟看護師が短期間の実習で在宅のコツをつかんだ例をもとに「聞くと見るでは大違い」と同意した。また,訪問看護ステーションの数が増えない現状において,病院からの訪問看護が必要との意見も出た。これに対し熊谷氏は,入院中にハイリスクと判断した新生児には退院後に病棟からの訪問看護を行うケースが増えていることを報告した。

 最後に座長の山田雅子氏(聖路加看護大)は,「退院支援・在宅療養支援は,病院全体で取り組むべき課題。学生時代に培った在宅のセンスを活かすため,若いうちに訪問看護を経験できるシステムを整備してほしい」と,会場の看護管理者らに呼びかけ,シンポジウムを閉じた。

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