MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2010.09.13
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


イラストレイテッド外科手術 第3版
膜の解剖からみた術式のポイント
篠原 尚,水野 惠文,牧野 尚彦 著
《評 者》北川 雄光(慶大教授・外科学 )
驚愕の描画で外科解剖と確実な手技を説いた消化器外科医に贈る希代の名著
私が,この『イラストレイテッド外科手術』(第3版)を手にしたのは,著者の一人である篠原尚先生が,私が執刀する胸腔鏡下食道癌根治術を見学に来てくださったちょうど1週間後の日本外科学会総会(第110回;2010年4月)の会期中であった。第3版で新たに加えられた食道癌根治術を読み進めていくうちに,私は顔面蒼白となった。これほどまでに外科解剖を理解し,手術手技の細部に至るまで習熟している著者に対して,何という「釈迦に説法」のごときことをしてしまったことか。専門家ぶってうんちくを傾ける私に,優しい笑顔で「勉強になりました」とおっしゃった篠原先生のお人柄が胸に染みた。
さて,食道癌根治術を安全かつ確実に行うためには,大血管や気道系,神経系が複雑に交錯する縦隔解剖の理解が必須である。時として術野では見えない部分の解剖を頭の中に描きながら手術を進めなければならない。臓器を直接触知できない胸腔鏡下手術や,切除可能性が危ぶまれる化学放射線療法後のサルベージ手術の場合などは,局所解剖の理解不足が重篤な臓器損傷に直結する。立体的な解剖をどう理解させるかは,食道癌根治術経験の少ない若手を指導する際には最も難しいところである。
本書では,正常解剖を適切な角度から巧みに紹介した上で,必要な牽引,術野展開を加えた際の位置関係の変化を順次提示している。この手法が複雑な解剖を極めてわかりやすくしている大きな要因である。また,いつもながら最小限の描線で立体感,臨場感のあるイラストに仕上げる技術はまさに圧巻である。写実的なデッサンではなく明瞭な,しかも一定のルールに基づいた線や点,色調の濃淡で立体解剖を巧みに描出する技術は驚愕に値する。
また,膜の解剖,層の解剖は,生体を扱う外科医のみが到達しうる究極の臨床解剖である。膜と層の正確な理解が,出血の少ない確実で安全な手術を可能にする。本書冒頭の胃をめぐる膜の解剖は,手術における基本戦略,応用力を養うために必須の知識でありながら,これを正確に理解習得することは容易でない。本書では,発生学的知識を交えて明瞭に簡潔化,模式化した図を用いながらこれをひもといている。
本書は,第一線の外科医が一例一例を大切に,最も確実な手技を再現するために積み重ねた知識とイメージの集大成であり,記載された一挙手一投足から使用する手術器具に至るまでをそのまま再現することで,手術を完遂することができるたぐいまれな名著である。消化器外科をめざす研修医に贈る手術書としては,最適の一冊と言えよう。今後さまざまな機器やシステムの変化によって外科手術がさらなる進歩を遂げ,それを取り入れた著者らがさらなる洞察と経験を積むことで本書は版を重ねるごとに果てしなく進化していくことは間違いない。今から第4版に何が加わるのか,その登場が待ち遠しい。
A4・頁500 定価10,500円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01023-8


佛淵 孝夫 著
《評 者》増田 武志(我汝会えにわ病院理事長 )
股関節外科のエキスパート
による厳選された症例集
著者は1998年より佐賀医科大学(現佐賀大学)整形外科学教室の教授に就かれ,股関節外科において特筆すべき業績を積み重ねてこられました。2009年10月より国立大学法人佐賀大学学長に就任されましたが,股関節外科への情熱は強く,多忙のなか現在なお大学病院にて執刀されています。
本書は,著者がこれまで行ってきた約6000件の股関節手術から厳選した症例を収載しており,付録のCD-ROMには実に600例が収められています。そして,書籍本体にはその中から問題のある症例,手術難度の高い症例を抜粋し,術前・術後の経過が一目でわかるよう,豊富なX線像を簡潔な解説を添えて提示しているのが特徴です。
本書は大きく3部から成り,第1部では各種骨切り術を取り上げています。著者は人工股関節手術の第一人者である印象があまりにも強いため,骨切り術に対する造詣の深さを忘れがちです。しかし,この中に示されている大腿骨骨切り術・寛骨臼骨切り術の結果を見ると,著者の底知れぬスキルを実感します。
第2部は,術前状態の異なるさまざまな病態に対する初回セメントレス人工股関節置換術(THA)の結果が示されています。高位脱臼股関節,強直股関節,各種骨切り術後股関節などに対するTHAの手技,特にその合併症と対策が具体的に記されています。
第3部は,主にセメントレスTHAによる再置換術が取り上げられています。寛骨臼側の再置換術はAAOS分類のType別に(Type 1-4),また大腿骨側のそれはEndo-Klinik分類の大腿骨欠損状態の程度別に(Grade1-4),多くの症例が網羅されています。
股関節外科のエキスパートとされる著者が,その豊富な経験に基づき,難度の高い症例を中心にその手術方法・結果・問題点を明確に解説しています。股関節外科医をめざす若い方に...
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