MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2010.09.06
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
榊原 博樹 編
《評 者》飛田 渉(東北大保健管理センター所長)
睡眠時無呼吸症候群のすべて
――基礎から臨床まで
ヒトの1日は平均して覚醒が16時間,睡眠が8時間から成るサイクルで繰り返されている。したがって,人生の約3分の1は眠っていることになる。この睡眠時間は本人にとっても周囲にとっても身体の状態を把握できないブラックボックスの時間帯である。呼吸は随意的に調節できる意識下の調節系と,睡眠中の呼吸のように呼吸中枢自体のリズムに基づく無意識下の調節系の二重の調節系によって行われている。したがって,覚醒時には上位中枢による代償機序が働いているため異常所見を検出しづらいのに対し,睡眠中にはこの代償機序が低下するため呼吸中枢自体の異常を検出しやすくなる。
睡眠中に呼吸異常を来す疾患として睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome ; SAS)がある。2003年2月26日に起こった山陽新幹線運転手の居眠り運転事件は大きな事故に至らなかったものの,SASが社会的問題になった出来事として記憶に新しい。SASの頻度は欧米では男性で4%,女性で2%と言われており,重症例は働き盛りの40-50代の男性に多いとされている。わが国においても欧米に匹敵するSASがみられている。SASは決して珍しい疾患ではなく,私たちの周りに多くの隠れたSAS患者がいる。SASは肥満,高血圧,糖尿病,高脂血症などいわゆる生活習慣病との合併例が多く,睡眠中の無呼吸に伴う低酸素血症により,種々の重要臓器に障害をもたらすだけでなく,頻回な断眠により過眠,活動度の低下,認知機能の低下などの精神異常を来す。過眠による種々の事故やニアミスの原因になるとして,今や大きな社会問題にもなっている。こうした状況の中,わが国においても睡眠医療を専門とする診療科やクリニックが開設されるようになり,また医学部においても睡眠学を専門とする講座が開設されるなど,睡眠学,睡眠医療が急速に進歩しつつある。
このような時期に発刊された本書は,SASについて基礎から臨床応用まですべてを学ぶことのできるテキストである。4部構成になっており,第I部「SASの概念・疫学・発症機序」では睡眠障害の新しい分類を紹介し,睡眠呼吸障害としてのSASをわかりやすくまとめている。第II部「SASの病態と臨床的諸問題」ではSASと肥満,循環器疾患,糖尿病等との関連のみならず精神障害との関連や小児,高齢者,妊婦におけるSASの問題も取り上げている。さらに自動車事故,産業事故などの社会問題や,医療経済,診療連携,各国のSAS診療の実態についても述べている。第III部「SASの診断と治療」ではSASの診療について包括的にまとめている。第IV部は本書の特徴でもあるが,「症例から学ぶSAS」として,著者がこれまで経験した14例の症例を解説しており,実際の睡眠呼吸障害の診療のあり方を自然と学ぶことができる。
本書はページをめくると,図表や写真が多くて非常に読みやすく,理解しやすい構成になっている。また,章立ての構成がわかりやすく,どの章からでも読み始められる。各章ごとに多くの論文を挙げていることも評価したい。14のコラムの内容も興味あるものばかりで,読んでいて楽しくなる。編者である榊原博樹先生のこれまでの睡眠呼吸障害に関する豊富な研究,臨床経験を基本にまとめあげられた魅力的なテキストである。私どもにこのような素晴らしいテキストを提供してくださった榊原先生に心から「ありがとう」と御礼を述べたい。
睡眠医療にかかわっている医師,看護師および臨床検査技師などコメディカルの皆さん,職場や学校の健康管理に携わっているスタッフの皆さん,これから睡眠医療を学ぼうとしている医療従事者の方々や医療系学生の皆さん,ぜひ本書を一度手に取って読んでみていただきたい。手離すことができなくなる内容であることがすぐに理解できるだろう。
B5・頁336 定価5,670円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01025-2
奥坂 拓志,羽鳥 隆 編
《評 者》中尾 昭公(名大大学院教授・消化器外科学)
第一線で活躍中の臨床医が治療のポイントを伝授
このたび,『膵癌診療ポケットガイド』が刊行され,読ませていただく機会を得た。膵癌は21世紀に残された最も予後不良な消化器癌の一つであり,各方面からの研究が進みつつあるものの治療成績に反映されるまでに至っていない。日本膵臓学会では『膵癌取扱い規約(第6版)』ならびに『膵癌診療ガイドライン(第2版)』を昨年出版し,また膵癌登録も実施しており,これらは本邦における膵癌治療のための3つの大きな柱となっている。膵癌の治療成績はいまだに不良で十分なエビデンスも少ない。本書は,これらの3本柱の資料を上手に利用しながら第一線で活躍中の臨床医の意見をMEMOで取り上げており,執筆者の本音の意見がうかがえて大変面白い。
また,膵癌治療は今後さらなる新しい治療法が開発されなければならないが,TOPICSとしてこれからの展望についても述べられている。研修医あるいは若手医師が膵癌治療の現状を読み取っていただくことはもちろんであるが,さらなる治療成績向上のための新しい治療開発にもつながることを期待している。
B6変・頁320 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00951-5
大木 隆生 編
《評 者》石丸 新(戸田中央総合病院・副院長)
その充実した内容は読者の期待を裏切らない
待望の大木隆生編集『腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』が発刊された。
海外を中心に企業製デバイスが臨床導入され始めた1995年以降,蓄積された膨大な治療経験を基に大きく進化を遂げてきたステントグラフト内挿術は,今日に至りもはや大動脈瘤治療において主役の地位を得たと言っても過言ではない。
編者が米国アルバートアインシュタイン大学で血管内治療の開発に挑戦し続けた10年は,まさしくステントグラフトが黎明期から成熟期へと向かう時期にオーバーラップしており,この間の経験に加えて帰国後の豊富な治療実績が本書に結実したと言える。そのコンテンツの前半は海外の大規模臨床試験と日本ステントグラフト実施基準管理委員会が行う追跡調査の結果を踏まえた現状分析と将来展望に始まり,治療戦略の立案に欠かせないCTの読影,手術室のセットアップあるいは周辺機器など,術前に準備すべき事項が余すところなく記載されている。次いで,ステントグラフト内挿術の基本手技について解説されているが,これにはシース挿入経路となる末梢動脈の処理法,塞栓症への配慮と対応策あるいは外科手術との対比による成績評価などが含まれており,血管外科医である編者ならではの識見に裏付けされた記述として見逃せない。
本書には,2010年現在わが国で市販されている腹部大動脈瘤治療用ステントグラフト3機種のすべてについて,各々が持つ構造・機能特性に即した適応判断と手技上の要点が解説されている。さらには,筆者らの豊富な経験を基に,本治療の実施医にとって必見とも言えるトラブルシューティングの粋が網羅され,術後晩期エンドリークやその修復法,そして特殊例への工夫を凝らした治療法の提示へと続く後半はまさに圧巻と言える。
本書は,先に出版され高い評価を受けている『胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際』と同様,平易で必要かつ充分な説明文,的確に配置されたイラストならびに鮮明なX線画像により構成され,その充実した内容は大木隆生教授と氏が率いる東京慈恵会医科大学血管外科教室が世に問う叢書として読者の期待を裏切らない。
B5・頁336 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01134-1
とことん症例から学ぶ呼吸器疾患
Clinical Cases Uncovered : Respiratory Medicine
八重樫 牧人 監訳
Emma H. Baker・Dilys Lai 著
《評 者》宮城 征四郎(群星沖縄臨床研修センター所長)
一つの症例から百を学ぶ
このたび,メディカル・サイエンス・インターナショナル社から,Emma H. BakerおよびDilys Lai著の『とことん症例から学ぶ呼吸器疾患』が,八重樫牧人先生のご監訳により刊行され,出版社ならびに八重樫先生から依頼を受けて筆者が書評を執筆することになった。かつて,筆者は確かに呼吸器を専門としていたが,今は臨床研修事業に携わる身なので,呼吸器にまつわる症例のみの教育にかかわっているわけではない。したがって,筆者が本書の書評を担当することが適切であるか否かはいささか疑問であるが,一言述べさせていただきたい。
まず,本書が,病歴や身体所見に堪能な英国の医師たちによって書かれているという点が重要である。そのため,症例ごとの記載は米国や日本の医療態度とは多少違っている。臨床検査がまさにcase orientedであり,必要最小限に絞られているのは興味深い。3部構成であるが,その主体はあくまでも29症例の呼吸器疾患であり,呼吸器疾患を扱う基礎知識としてのPartIや復習問題のPartIIIなどは役に立つが,どちらかというと,その付けたしである。したがって,読者諸君は,PartIIの症例集から読み始めると面白いし,読み応えがある。
臨床医学の醍醐味は一つの症例から百を学ぶことにあり,この本に記載されている呼吸器疾患症例はまさにそれを体現している。ここでは呼吸器疾患を例にとって記述されているが,臨床を学ぶ上では,どの分野についても同様のことが言えるのではないか。われわれ医療者には,臨床の面白さ,楽しさ,奥深さを学ぶことが求められている。また,患者が訴える症状を生理学的に説明し,患者が有する病変を病理学的に説明することができなければならない。臨床医学はその演繹であり,この本からわれわれはそれを学び取ることができるのである。
また本書では日本の医療者が最も苦手としているmedical intelligenceに踏み込み,症例の退院の条件,その時期,外来フォローの間隔,手術時の年齢やパフォーマンスの程度による適応の判断,医療費そのほかを論じていて極めて興味深い。
願わくは,単に著者たちの肩書きだけでなく,彼らの簡単な略歴を記載してほしかったと思う。それによって彼らが歩んできたバックグラウンドを知ることができるし,本書を読む医学生や研修生,コメディカルの医療者たちには,研修上のキャリアを積む上で参考にもなると思う。
B5変・頁284 定価5,040円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/
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