医学界新聞

寄稿

2010.09.06

寄稿

地域医療充実のための
臨床研修改革に取り組んで

赤井靖宏(奈良県立医科大学准教授/卒後臨床研修センター・臨床研修ディレクター)


 「大学病院研修は初期臨床研修には適さないのではないか」という考えが医学生の間に浸透するなか,初期研修医の大学病院離れに歯止めがかかりません。これは,初期研修のみならず,後期研修でも同様で,多くの初期研修修了者が臨床研修病院にとどまる傾向があります。この傾向は,複数の大学病院や大規模な研修病院を有する地域での医療には,影響は少ないかもしれません。しかし奈良県のように,奈良県立医科大学が唯一の医育機関として機能し,有力な研修病院が少ない地域では,医師が大学から離れる傾向はそのまま地域医療に多大な影響を及ぼすとともに,大学・大学病院の教育・研究機能を大きく低下させます。

 本稿では,このような傾向に歯止めをかけるために始めた,奈良県立医科大学と奈良県の臨床研修改革の取り組みについて述べたいと思います。

奈良県立医科大学の臨床研修の現状と課題

 新医師臨床研修制度(以下,新制度)の開始以前は,毎年70-80名が奈良県立医科大学附属病院で医師としてのスタートを切り,奈良県のみならず近畿圏の地域医療の一翼を担ってきました。しかしながら新制度が2004年度に始まると,研修医数は右肩下がりとなり,2006年度には卒業生約100名のうち8名しか大学病院に残らない非常事態に陥りました。その後,卒後臨床研修センターの体制強化のため,センター長に福井博教授(消化器・内分泌代謝内科教授 兼務),研修ディレクターに私が指名され本学附属病院における臨床研修改革がスタートしました。

 「どこにも負けない研修医を養成する,忙しくとも(知的に)楽しい研修,十分な症例・手技経験」を目標に,まずは研修医を集めるため,なりふり構わず制度改革,待遇改善などできることをすべてやりました。大学病院は医局による縦割りが強く,新制度における研修医の位置付けを院内各所に理解していただく必要がありました。あつかましくも,各医局(特に外科系)の医局会に押しかけ,新制度の概要や私たちの臨床研修に対する考え方をプレゼンしました。外科系医局の先生方には,「将来外科を専攻しない医師にまでなぜ教えなければならないのか?」という疑問・不満があったように思われます。この点については,従来研修医は各医局の構成員でしたが,新制度では“病院全体の宝”であり,よき研修医を育成することは,病院で勤務する全職員の責務であることをご理解いただくよう努めました。

 コメディカルの方々にも協力をお願いしました。「コメディカルは見た!こんな医師にはなってほしくない」というテーマで,コメディカルの方々に今まで経験した,「とんでもない」医師について意見を募集しました。多数の部署から意見をもらい,オリエンテーション時に研修医にあるべき医師像を考えてもらう一助にしています。このような試みの結果,現在では病院の一員として,研修医を全職員で育てる環境ができてきました。また研修改革の結果,集まった研修医が研修修了後には今度は指導する立場で,新たな研修医を指導してくれています。やっと「屋根瓦」ができかかってきています。

 当院某内科におけるある月の夜間救急外来症例(n=91)
緑字はプライマリ・ケア関連の症例。
 さて,厚労省調査によると大学病院の研修医満足度は全国平均では42.9%ですが,当院では無記名アンケートの結果,79.5%の研修医が研修内容に「満足している」と回答しています。その理由は,本学附属病院が臨床研修に適した病院であり,豊富な臨床経験を積むための柔軟なカリキュラム運営を行っているからだと考えてい

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